2016年6月6日(月)

 禁煙に失敗?金正恩委員長の喫煙復活の謎

右手にタバコが!


金正恩党委員長はどうやら禁煙に失敗したようだ。

金委員長は中毒ではないかと言われるぐらいヘビースモーカーとして知られている。金正日総書記の料理人、藤本健二氏の証言によれば、金委員長は10代半ばから親に隠れて喫煙していた。

それでも、父親が健在の頃は、公の場では一度もタバコを手にすることはなかった。そんなことで禁煙したのかと思いきや父親が死去し、トップの座に君臨するや、TPOに関係なく、喫煙していた。どこに行っても、タバコを離さなかった。歩きながらでも、また座っていても目の前のテーブルには必ず灰皿が置かれていた。

音楽会や舞踏会でも、妊婦の李雪主夫人が隣に座っていても、また元老や長老らの前であろうが、おかまいなしに平気で吸っていた。昨年9月3日に館内で開かれたモランボン楽団の公演でも喫煙していた。場内での喫煙者は唯一金委員長一人だけだった。最高指導者としての特別な存在や威厳を誇示しようとしたのか、わざわざ写真まで公開していた。

マナー違反であることは本人もおそらく百も承知の上であろう。それでも喫煙せざるを得ないのは愛煙家だからと言うことだけではなく、もしかするとストレスの発散、あるいは肥満対策の一環なのかもしれない。

ところが、今年3月15日に弾道ロケット大気圏再突入環境模擬試験に立ち会った際、長距離弾道ミサイルの前で右手指にタバコをくわえていたのを最後にその種の写真も映像も配信、公開されることはなかった。そんな折、突如、4月24日付の労働新聞に「タバコが人体に与える影響」との記事が掲載された。

記事には金委員長が「革命をやろうとするならば、体も健康でなければならない」と述べていたと書かれてあった。5月2日、そして5月15日付にも喫煙が原因による肺癌発生に関する記事が立て続けに掲載され、加えて平壌を中心に全国各地に禁煙研究所が設立されたことから北朝鮮当局が禁煙を奨励していることが確認できた。

また、5月17日付の朝鮮中央通信の報道で喫煙研究所が喫煙者の相談窓口となっていること、喫煙者に対しては世界保健機構(WHO)が認定した禁煙栄養錠剤や禁煙パイポなど禁煙に関する健康製品や喫煙によって発生する疾病を治す医薬品などが補給されていることも判明した。

さらに、朝鮮中央テレビには女性が登場し「朝から煙草を吸う人は健全ではない。周りの環境にも不快感を与えるので非常識だ」と喫煙家を非難するインタビューまで流されていた。

全国的な禁煙キャンペーンは常識に考えて、愛煙家の金委員長の断りなく、同意なくして勝手に始められるものではない。そうしたことから金委員長が率先して禁煙を始めたのではないかとみられていた。

ところが、今月4日、新たに建設された万景台少年団野営所を視察に訪れた金委員長がタバコを手にしている写真が配信された。3月15日以来、約80日ぶりの喫煙写真の公開である。それもよりによって子供らが集う少年団野営所での喫煙である。ちなみに5月30日かその前日に行われた中朝バスケットボール親善試合の観戦では横のテーブルに灰皿が置かれていなかっことから喫煙してなかったものとみられる。

訪中していた国際担当の李スヨン副委員長(前外相)が帰国したのが6月2日。李副委員長から訪中報告を受け、「並進路線」を認めようとしない中国の対応に激怒し、またストレスが募ったのか、それとも、肥満が止まらないためなのか、喫煙再開の理由は定かではない。

父親の金総書記もヘビースモーカーだったが、2001年に訪中した際に中国の幹部に「健康に悪いので禁煙した」と打ち明けていた。ところが、どういう訳か2009年に再び喫煙し、2年後の2011年12月に心臓発作を起こして急死している。

ストレスの絶えない、肥満体の金委員長の禁煙はそう長続きはしないとみられていたが、最近、ワシントン・ポスト紙が報じた、米国に亡命している叔母(金容淑)の「気が短くて忍耐力がない」との証言が短期間の禁煙失敗ではからずも裏付けられてしまったようだ。