2016年6月24日(金)

 北朝鮮は核ミサイルを先制使用できるか

「ムスダン」ミサイル発射の瞬間


古今東西、戦争で核を使用した国は、後にも先にも広島と長崎に原爆を投下した米国だけである。

核爆弾搭載可能な中距離弾道ミサイル「ムスダン」の発射実験に成功した北朝鮮は核とミサイルは米国の核攻撃に対する「抑止力」あるいは「自衛力」として開発、保有していると、国際社会に向けて主張している。

現在、核保有国は国連常任安保理事国の米国、ロシア、イギリス、フランス、中国の5か国とインド、パキスタン、それにイスラエルと北朝鮮を加えた10か国である。どの国も核の保有は仮想敵国、あるいは敵対関係にある国からの攻撃を阻止するための「抑止力」であると正当化している。従って、米国と北朝鮮を除く国々は核兵器を先に使用することはないと公言している。

例えば、インドとパキスタンも過去にカシミールの領土をめぐる国境紛争で衝突の度に核戦争の危機が叫ばれたことがあったが、両国とも事の重大性を認識し、その都度自制してきた。しかし、米国と北朝鮮は、お互いに核先制使用のオプションを排除していない。米国の歴代政権は北朝鮮に限っては核の先制使用を否定していない。北朝鮮もまたしかりである。

「ムスダン」の発射に立ち会った金正恩委員長は「敵対勢力の常日頃の脅威から我が祖国と人民の安全を確固として担保しようとするなら我々も敵を常日頃脅かすことのできる強力な攻撃手段を持たなければならない」として「先制核能力攻撃を持続的に拡大強化し、多様な戦略攻撃兵器を引き続き研究開発しなければならない」と国防関係者に訓示していた。

常識に考えれば、北朝鮮もよほどのことがない限り先に核を使用するとは考えられない。核ボタンに先に手を掛ければ、その瞬間、北朝鮮は米国の核報復によって消滅してしまうからだ。北朝鮮が仮に5〜6発、あるいは二ケタの核爆弾を持ったとしても、数千発を保有する核大国の米国には歯が立たない。従って、金正恩政権も愚かでない限り、核の先制使用は自らの滅亡を意味することを自覚している筈だ。

それでも唯一、北朝鮮が核ボタンに手を掛けるとすれば、米韓連合軍との戦争勃発で敗戦寸前になった時かもしれない。一か八か、破れかぶれで使うこともあり得なくもない。従って、全面戦争になり、絶体絶命のピンチに立たされた時は、自爆覚悟で核を使用することはないとは断言できない。

米国内の情報機関を統括する国家情報局(DNI)のジェームズ・ブレアー前局長は現職当時の2009年2月12日、米議会での証言で「北朝鮮は金正日が生存危機を感じなければ、米国に向け核を使用することはないだろう」と語り、また現在のジェームズ・クラッパ局長も2011年2月11日に「北朝鮮は核を保有しているが、敗戦寸前にならない限り使用しないだろう」と証言していた。裏を返せば、生存の危機を感じれば、敗戦寸前になれば、使うことを認めていることに等しい。

今年2月24日、米下院軍事委員会聴聞会で証言した新任のカーティス・スカパロッティ在韓米軍司令官にいたっては金正恩委員長について「自身の政権が挑戦を受けると考えれば、大量殺傷兵器を使うだろう」と北朝鮮が大量殺傷兵器を使うこともありうると言明していた。

父親の金正日総書記は核問題をめぐって米国と一触即発の状態になった1994年5月、金日成主席から「米国とやって勝てるのか?」と最高司令官としての気構えを聞かれた時、「我が国のいない地球は存在する必要はなく、我々が崩壊する時は世界を自爆させる」と狂気の発言をし、核を使用する考えを隠さなかったそうだ。

北朝鮮は当初、核については「保有する意思も能力もない」(金日成主席)と言っていたが、金正日政権下の2006年10月に史上初の核実験を行った時は「抑止のため」と正当化し、2009年6月の2度目の核実験の際には国連安保理制裁決議に反対して開かれた平壌群集大会で演説した朴在慶大将(軍総政治局副局長)は「核兵器を報復手段として使うことも辞さない」と公言するに至り、そして、金正恩政権下の今では「先制攻撃は米国の専売特許ではない」として「核の先制使用」を公然と叫び始めている。

第二次朝鮮戦争が勃発すれば、人類史上初の核戦争となる可能性は排除できないかもしれない。