2016年6月29日(水)
北朝鮮最高人民会議で注目すべき4つのポイント
最高人民会議での金正恩委員長
日本の国会にあたる最高人民会議が今日(6月29日)平壌で開催される。昨年4月の開催以来、1年2カ月ぶりの開催となる。
最高人民会議は社会主義憲法の改正や法令の承認、予算審議と承認、最高人民会議、国防委員会、内閣の人事も手掛け、さらには内外政策を審議、樹立する最高主権機関である。
通常は1年に2度、それも4月と9月の開催が慣例となっているが、昨年に限っては4月に1度開催されただけである。昨年は、10月10日の労働党創建70周年が目前であったことから9月の開催は見送られた。
今年も慣例に従えば、4月に開催予定だったが、5月6日に36年ぶりの党大会(7回大会)があったため2カ月以上ずれ込むことになった。昨年同様に今年も9月の開催はなく、1度だけの開催となりそうだ。
今会議は、先の党大会で恒久的な戦略路線と定めた経済と核開発を並行して進める「並進路線」や国家経済発展5か年計画を追認し、後続措置を取って遂行するための「シャンシャン大会」となりそうだ。
第一の注目ポイントは、代議員でもある金正恩党委員長が出席するかだ。直近の2回(2014年9月と2015年4月)はいずれも欠席している。出席すれば、それだけ重大な会議であることの証でもある。
第二のポイントは、金正恩委員長の最高人民会議での新たな地位である。
現在は、国防委員会第一委員長である。国防委員会は最高権力機関ではあるが、国家の元首ではない。体系上は、国防委員会は最高人民会議の傘下機関となる。国防委員長をはじめ委員は最高人民会議で選出されるからだ。
金日成主席の時代は、主席が国家元首であったが、しかし、現在は、憲法上の国家元首は金永南最高人民会議常任委員長である。主席を永久欠番として、国防委員長だけを継承したため変則の状態が続いている。国防委員長もまた、金正日総書記の「永久欠番」としたためやむを得ず国防委員会に「第一委員長」を新設し、金正恩委員長はその座に就いている。
従って、党大会で党第一書記を党中央委員会委員長に変更したように今回も最高人民会議内に金日成時代の中央委員会を復活させ、委員長に就任することで国家の首位に立つか、あるいは、金永南常任委員会委員長を勇退させ、その座に就くか、それとも、現状のままで行くのか、金正恩委員長の地位も関心の的となっている。
第三のポイントは、党大会が打ち出した国家経済発展5か年計画の具体的な目標、数値を最高人民会議で提示、発表できるかだ。
党大会では重工業や軽工業、農業を発展させ、食糧や電力問題を解決し、人民生活を向上させることが強調されていた。
「農林、畜産、水産で生産を高めよう」「国の電力生産を決定的に増やそう」とのスローガンが連日叫ばれているが、具体的な生産目標数値が提示されてない。少なくとも36年前には電力1000億kwh、石炭1億2000万トン、鋼鉄1500万トン、非鉄金属150万トン、セメント2000万トン、化学肥料700万トン、織物15億メートル、水産物500万トン、穀物1500万トンと具体的な目標数字が提示されていた。数字を掲げることができれば、自信の表れと言えなくもないが、「過去20年間で最強の制裁」を科せられている状況で出せるかどうか甚だ疑問だ。
金永南常任委員会委員長と楊亨燮副委員長、崔泰福議長の三役の交代があるかどうかも注目ポイントだ。3人とも88歳、91歳、86歳と高齢なことから交代の可能性も考えられるが、党大会では3人とも政治局常務委員、政治局員にそれぞれ留任している。
国防委員(金第一委員長を含め9人)の人事もまた、注目の的だ。
黄炳西軍総政治局長を含め3人いる副委員長のうち、91歳の李容茂副委員長と86歳の呉克烈副委員長は先の党大会で政治局員及び政治局員候補から外されているので、入れ替わる公算が高い。
金元弘国家安全保衛部部長(71歳)、崔富一人民保安相(72歳)、趙春リョン第二経済委員会委員長、李炳哲党第一副部長(軍事担当)、金春ソプ党軍需工業担当書記はいずれも留任することが予想されるが、新たに党大会で政治局員兼軍事委員に選出された朴英植人民武力相と李明秀軍総参謀長が追加されるだろう。
北朝鮮の場合、「金」が「李」に、「朴」が「金」という人物に代わったからと言って、変化があるわけでもないし、また80代が70代、60代に取って代わったからと言って、金正恩委員長の年齢(33歳)を考えれば、若返り、世代交代にもならない。
今回の会議で対米、対韓向けのメッセージを出すことも予想されるが、核とミサイル問題で譲歩しない限り、新味があるものとして相手にされることはないだろう。