2016年3月4日(金)

 朝鮮半島に「2013年の危機」が再来か!


国連の制裁決議が採択された3月2日、北朝鮮は日本海に向け新型の大口径放射砲6発を発射した。「国連決議を受け入れない」との北朝鮮の明らかな意思表示である。

「KN−09」とのコードネームのこの新型放射砲は北朝鮮が3年かけて開発、完成させ、昨年10月の労働党創建70周年の軍事パレードでお披露目させた射程距離200kmの300mm砲で、朝鮮中央放送によると、「韓国主要目標物を打撃対象」としている。

放射砲発射は過去にもやっていることから目新しいことではないが、重視すべきは、金正恩第一書記が立ち会って、以下のような状況判断のもとに物騒な発言をしたことだ。

「(現状は)敵らが(我々の)尊厳と自主権、生存権を害しようと狂信し、斬首作戦とか体制崩壊とか愚かな最後の賭博をしている情勢を何もしないで傍観できない険しい状況にある」

「(我が)首脳部と体制の崩壊を企てる斬首作戦を騒ぎ立て、特殊作戦武力と核殺人装備を我々の目と鼻の先に突き付けている以上、我々の軍事的対応は不可避となった」

「これからの(我々の軍事対応)は先制攻撃にすべてシフトする」

「国家防衛のため実戦配置した核弾頭を任意の瞬間、発射できるよう常に準備せよ」

「民族の自主権と生存権を守る唯一の方策は核武力を質量的に強化し、力の均衡をつくることだ」

この発言で3月7日から4月30日まで行われる米韓合同軍事演習に北朝鮮が軍事的に対応する可能性が強まった。北朝鮮の対応次第では「2013年の危機」の再現もあり得る。では、「2013年の危機」とは何か?なぜ、軍事衝突、局地戦争に発展しなかったのかを振り返ってみる。

今から3年前の2013年1月23日、国連は前年12月の人工衛星と称する北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射を非難し、安保理制裁決議「2087」を採択した。これに対して北朝鮮はその日のうちに外務省声明で国連決議を「武装解除と体制転覆を狙う米国の敵対政策の産物である」と猛反発。翌24日も最高権力機関である国防委員会が「自主権守護のための全面対決戦に出る」と公言し、「今後発射されるあらゆる衛星も長距離ロケットも、高度の核実験も米国を標的にしたものであることを隠さない」との挑戦的な声明を出した。

最高司令官でもある金正恩第一書記は26日、北朝鮮史上初の国家安全・外交責任者会議を開催。北朝鮮国営放送は金第一書記が「国家的重大措置を取る断固たる決心をした」と伝えた。そして2月に入ると、11日に最高幹部らの集まりである党中央委員会政治局会議を開催し「自主権を守護するため強度の高い全面対決戦を行い、「7.27」(朝鮮戦争勝利=休戦協定記念60周年)を新たな成果で祝う」ことを決定。翌12日には中国の説得を無視して3度目の核実験を強行した。

核実験を非難する国連安保理の声明が出るや 北朝鮮は外務省代弁人談話で「米国が最後まで敵対的に出るなら、より強度の高い2次、3次対応措置を連続的に取る」と応酬し、休戦協定の破棄をちらつかせた。そうした流れの中で24日には人民軍板門店代表部代表が駐韓米軍司令官宛に通知文を送り付け、「合同軍事演習を強行して侵略戦争の導火線に火をつけようとするなら、その瞬間から厳しい時が訪れるだろう」との警告を発した。

米韓共に北朝鮮の合同軍事演習中止の要求を蹴るや、3月5日最高司令部は代弁人声明を発表し、「米韓の軍事訓練に対処するためより強力的で実質的な対応措置を連続的に取る」「全ての部隊(非正規軍も含め)は、最高司令官が最終署名した作戦計画に従い、全面対決戦に進入せよ」「米国が核兵器まで持ち込んでいる状況下にあって我々も多種化された我々式の精密核打撃手段で対抗する」との声明を出した。

国連安保理が3月7日、北朝鮮の核実験に抗議して制裁決議「2094」を採択すると今度は外務省代弁人声明で「休戦協定の束縛を受けることなく、任意の瞬間、任意の対象への自衛的軍事行動を取れることになる」と再度休戦協定の破棄を示唆した上で「第二次、第三次の対応を措置早める」と威嚇した。

3月11日、韓国軍約1万人と3600人の米軍及びF―22ステルス戦闘機、B52核戦略爆撃機、イージス駆逐艦「ラッセン」や「フィッツジェラルド」などが参加した合同軍事演習「キー・リゾルブ」が開始されるや人民武力部代弁人は直ちに「もはや停戦協定にも(南北間の)不可侵宣言に拘束されることはない」との談話を発表。その日のうちに板門店の南北連絡事務所の直通電話を遮断した。

金第一書記の前線視察も3月11日の西海(黄海)の島の防衛隊視察を皮切りに11軍団傘下の特殊部隊などの視察を重ねた。グアムからB−52戦略爆撃機が8日に続き18日にも合同軍事演習に加わるや、北朝鮮外務省は「B52が再度朝鮮半島に出撃するならば、軍事的に対応する」と威嚇。そして、20日にロサンゼルス級核潜水艦「シャイアン」が米韓海上連合訓練に参加するや同じ日金第一書記は無人打撃機と迎撃ミサイル訓練を視察。翌21日最高司令部代弁人声明を出して「B−52が離陸するグアムの空軍基地と原子力潜水艦が発進する日本の本土、沖縄の海軍基地も精密打撃手段の射程圏内にある」と威嚇し、26日には最高司令部声明でロケット部隊に「1号戦闘勤務体制」を発令した。

北朝鮮は最高司令部声明で「米本土、ハワイ、グアム及び韓国とその周辺のすべての敵対対象物を攻撃する戦略ロケット部隊と長距離砲兵部隊などすべての野戦歩兵軍団は『1号戦闘勤務体制』に進入する」と宣言。同じ日外務省も「我が軍隊と人民は先軍の威力を総爆発させ、国の自主権と民族の尊厳を守る反米全面対決戦の最終段階に入る」との声明を出した。

さらに、28日にステレスB−2が朝鮮半島に飛来するや、その日の深夜、作戦会議を緊急招集した金第一書記は「米国と総決算する時が来た」として戦略ロケット部隊にミサイル射撃待機命令を出す一方で30日には韓国との戦時体制突入を宣言した。翌31日には党中央委員会総会を開催し、「核抑止力と核報復攻撃力を強化するための実際的な対策を取る」ことを決定した。

4月に入った1日、米軍が横須賀を母港とするイージス駆逐艦「ジョン・S・マケイン」を朝鮮半島沖に移動させ、さらに韓国沖に高性能レーダーと迎撃ミサイルを装備したイージス艦「フィッツジェラルド」の派遣を決定するやこれに対抗して北朝鮮もグアムを標的にした中距離ミサイル「ムスダン」を東海岸基地に移動、配備した。米国防総省もまた、「ムスダン」に備えグアムに迎撃ミサイル配備した。

軍事的緊張が最高潮となる中、北朝鮮国内は4月5日に平壌駐在の外国大使館に対し職員の国外退避を勧告し、9日には韓国在住の外国人に国外退避を勧告するなどまさに「抗戦ムード」一色となった。

一触即発の事態が土壇場で回避されたのは、北朝鮮を過度に刺激することを憂慮した米国がF−22のマスコミへの公開を中止したり、合同軍事演習中に計画された大陸間弾道ミサイル「ミニットマン3」の発射実験を見送るなど、軍事的デモンストレーションをトーンダウンさせたこと、さらには4月中旬にソウルを訪問したケリー国務長官が北朝鮮に対話を呼び掛け、韓国もまた柳吉在統一相が声明を出し、「北朝鮮が提起したい事案を論議するためにも、北朝鮮当局が対話の場に出てくることを望む」と呼び掛けたことから収拾した。

今回はどこまで緊張が高まり、どういう展開となるのか、誰も予見できない。