2016年3月18日(金)

 ノドンの次はムスダン・ミサイルの発射か

北朝鮮のミサイル


北朝鮮は3月3日に韓国内の軍事基地を標的にした300mm砲(射程200km)に続き、10日に空母ステニスが寄港した最南部の釜山までを叩くスカッド・ミサイル(射程500km)の発射実験を行ったのに続き、今度は日本に向けノドン・ミサイル(射程1000〜1200km)の発射テストを行った。

予想通りなら、次はグアムを標的とする中距離弾道ミサイル、ムスダンの発射ということになる。それと言うのも、2月23日の最高司令部の重大声明で核ミサイルの攻撃目標の第一次が「青瓦台(大統領府)と韓国の主要施設」そして第二次攻撃が「太平洋上の米軍基地と米本土」と核ミサイルの攻撃目標に定めていたからだ。

ムスダンは旧ソ連の潜水艦発射型弾道ミサイル「SSN−6」を北朝鮮が90年代に手に入れ、地対地ミサイルとして独自開発したミサイルである。射程距離は推定4000kmで、核弾頭搭載可能な中距離ミサイルといわれているが、グアムが射程圏内に入る。ムスダンは固定された発射台から発射されるテポドンと異なり、スカッドやノドン同様に車両に備えられた発射台から発射される。移動式発射なのでいつどこに飛んでくるのか、予測不可能だ。

ムスダンは2010年10月の労働党創建65周年の軍事パレードでお披露目されたが、ノドンやテポドンとは異なり一度も発射実験されてない。過去に一度だけ、発射の動きがあった。「2013年の危機」の時だ。

テポドンについては人工衛星と称していたことから事前通告があったが、その他のミサイルについては一切事前通告なく行われてきた。しかし、「2013年の危機」の時は日本海に面した東海岸基地にムスダンが配備され、対韓宣伝機関である祖国平和統一委員会が「ミサイルが発射待機状態にあり、その目標座標がグアムなど米軍基地である」ことを明らかにしていた。

当時の配備は、米韓合同軍事演習「フォー・イーグル」にオバマ政権が核攻撃可能なB−52戦略爆撃機やB−2ステレス戦略爆撃機、さらには巡航ミサイル・トマホークを搭載したロサンゼルス級原子力潜水艦「シャイアン」を参加させたことへの反発からだった。

「目には目を」とムスダンを発射させることで北朝鮮にも米国を核攻撃できる能力があることを誇示しようとした。当時、北朝鮮は最高司令部や外務省声明で「米国の敵対政策、核脅威に対抗するため第二、第三の軍事的対応を取る」と再三予告していただけに発射の可能性が大だった。

米朝間でムスダン発射をめぐり睨みあいがしばらく続いたが、オバマ政権は北朝鮮を刺激するのは得策でないと判断し、米韓合同軍事演習に参加させたステレス戦闘爆撃機F−22のマスコミへの公開中止を皮切りにカリフォルニアで予定されていたICBMの発射実験の延期、ペンタゴンで予定されている米統合参謀本部議長と韓国合同参謀本部議長の協議の延期、さらには米韓合同軍事演習のハイライトであった上陸作戦のマスコミへの公開を中止するなど軍事的緊張を緩和させる措置を矢継ぎ早に取る一方で「北朝鮮を孤立させる」として国連で北朝鮮制裁決議を主導したライス米国連大使は「米国は北朝鮮を攻撃する考えはない」と北朝鮮にメッセージを伝え、事態の鎮静化に乗り出した。

韓国政府もまた、北朝鮮が不可侵宣言の破棄に続く、開城工業団地の閉鎖、そして韓国滞在の外国人の避難勧告などの「脅し」が株の下落など経済に悪影響を及ぼしていることや国民の間に戦争への不安が広まったことから、朴槿恵大統領や柳吉在統一部長官らが「北朝鮮が提案する事案も協議する用意がある」(柳吉在統一部長官)と対話を呼びかけたことで北朝鮮もムスダン発射には至らなかった。

北朝鮮が今回、ムスダンをどのタイミングで、どの方向に向けて発射するのかが最大の焦点となる。米韓合同軍事演習期間中にやるのか、それとも終了後にやるのか、どちらにせよ一気に緊張が高まるだろう。

ムスダンは人工衛星ではない。100%ミサイルである。発射実験だとしても、本物の核爆弾でなく、模擬爆弾を搭載したとしても、また米国の領海、領土に着弾しなくても仮に太平洋に向かって飛んで来れば米国への露骨な挑戦であることに変わりはない。ましてや米韓合同軍事演習中に発射すれば、挑発とみなし、ここぞとばかり先制攻撃もなくもない。

オバマ政権下では2009年の時はゲーツ国防長官がテポドン発射に「迎撃も辞さない」と発言し、ロシアに迎撃の可能性を事前通告していた。2012年にもロックリア米太平洋司令官は北朝鮮が核実験を企てれば「核基地に対して局地攻撃も辞さない」(4月17日)と北朝鮮に警告を発していた。一番最近では2013年3月にドニロン大統領補佐官が「米国を攻撃目標にできるような核ミサイル開発を傍観しない」と発言していた。

北朝鮮も迎撃すれば、即反撃すると再三にわたって警告しているが、金正恩政権にとってもムスダンを発射すれば、一層の外交的孤立と国連安保理のさらなる制裁は免れない。第7回党大会の目玉である「経済建設」の夢も吹っ飛んでしまう恐れもある。

米国の対応次第ではムスダン発射が引き金となり、勝ち目のない軍事衝突、全面戦争という事態を招きかねない。金第一書記もまた、よほどの覚悟がなければ、そう簡単に発射ボタンは押せないだろう。

どうやらチキンゲームの最初の山場が訪れそうだ。