2016年10月1日(土)

 米国が想定する北朝鮮の「核使用シナリオ」

北朝鮮が9月5日に3発発射した中距離弾道ミサイル「ノドン」


北朝鮮が核爆弾の軽量化、小型化に成功し、ミサイルに搭載可能ならば、朝鮮半島有事が現実となった場合、韓国、日本、米国の安全保障にとって極めて深刻な脅威となる。

北朝鮮は2005年2月に核保有を宣言し、翌年の2006年10月に核実験を行って以来、かつて日本に対する核攻撃の言及は一度もなかった。

北朝鮮が日本への核攻撃について言及したのは2013年3月17日付の労働新聞に掲載された個人の署名入り記事からで、第2次朝鮮戦争が勃発すれば「日本も核先制攻撃の対象になる」と書かれてあった。

(参考資料:北朝鮮の対日核攻撃はあり得るか!?

最高司令部の声明や外務省声明でもなく、また社説で言及されたわけでもない。従って、北朝鮮政府の公式見解とは言えないものの、党機関紙に掲載されたこと自体、金正恩政権の意を反映しているのは間違いない。

それ以来、「朝鮮半島で戦争の火花が散れば、日本も決して(核先制攻撃の)例外ではない。これは脅しではない」と口癖のように言っているが、万一、北朝鮮が本気で一発でも韓国や日本、あるいは米国に落とせば、その瞬間、米国の核の報復を受け、地球上から消滅することになるのは極めて明白だ。

朴槿恵大統領が今年9月13日の国務会議で「北朝鮮が核を搭載したミサイルを1発でも発射したら、その瞬間に北朝鮮政権を終わらせる」と述べたことは決してハッタリでも何でもない。

古今東西、実際に戦争で核を使用した国は、広島と長崎に原爆を投下した米国だけである。戦後は、米ソの間でキューバのミサイル基地建設をめぐって、また、印パの間でカシミール領土をめぐって核戦争の危機に直面したが、いずれも土壇場で回避された。

核保有国は北朝鮮を除くと、現在米国、ロシア、英国、フランス、中国、インド、パキスタン、そしてイスラエルの8か国だが、どの国も敵の攻撃を阻止する「抑止力」として保有しているが、北朝鮮もまた米国の核攻撃への「抑止力」あるいは「自衛力」として開発、保持していると主張している。

北朝鮮は2度目の核実験を行った年の2009年6月15日、国連安保理の制裁決議に反発して平壌で群集大会を開いたが、当時軍総政治局副局長の朴在慶大将が「核兵器を報復手段として使うことも辞さない」と、初めて核使用に言及したが、それでも「報復手段」としての使用に限定していた。

国連の制裁決議が採択された今年3月2日、日本海に向け新型の大口径放射砲の発射に立ち会った金正恩委員長は「これからは(我々の軍事対応を)先制攻撃にすべてシフトする。国家防衛のため実戦配置した核弾頭を任意の瞬間、発射できるよう常に準備せよ」と威勢のいいことを言っていたが、事の重大性は、本人にもわかっているようで、今年5月の第7回党大会では核保有を宣言しながらも、「核を先に使用しない」と宣言していた。

(参考資料:ワシントンを核攻撃? 極限の北朝鮮の対米、対韓威嚇

常識的にみて、「先制攻撃は米国の独占物」ではないと豪語しているものの北朝鮮が先に核攻撃を掛けるとは考えにくい。先に使えば、その瞬間、北朝鮮は米国の核の反撃にあい、消滅してしまうからだ。北朝鮮が仮に5〜6発、あるいは二ケタ持っていたとしても、4千発以上持っている米国の敵ではない。核の先制使用はまさに自滅に繋がるだけだ。

従って、将来自衛権行使による米国によるミサイルや核施設に対する先制攻撃はあるにせよ、北朝鮮による先制攻撃も、核による先制攻撃も可能性としては極めて低い。

(参考資料:全面戦争を覚悟したクリントン政権時代の「北朝鮮攻撃計画」

仮に北朝鮮が核のボタンに手を掛けるとすれば、敗戦が濃厚になった時かもしれない。通常の兵力で反撃が不可能となった時、一か八かで使うか、やけっぱちに使うかのどちらかである。米国もこうした認識に立っていることは米国家情報局(DNI)局長らの発言からも窺い知れる。

三代目局長のデニス・ブレア氏は2009年2月12日、「北朝鮮は金正日の生存危機を感じなければ米国に向け核を使用することはないだろう」と証言し、現局長のジェームズ・クラッパ氏も2011年2月10日、「北朝鮮は核を保有しているが、敗戦寸前にならない限り使用しないだろう」と議会の聴聞会で証言している。

また、今年2月26日、スカパロッティ駐韓米軍司令官(当時)は金正恩党委員長について「自身の政権が挑戦を受けると考えれば、大量殺傷兵器を使うだろうと言明する」として、金正恩政権が崩壊寸前になれば、大量殺傷兵器を使うこともありうると示唆していた。

金正恩政権が唯一、核のボタンを押すケースは、全面戦争になり、サダム・フセインの二の舞になるか、あるいは内乱によって政権が崩壊したリビアのカダフィー大佐の境遇になった時のみである。今年から本格的に導入された米韓合同軍事演習の「斬首作戦」はそれを阻止するための作戦でもあることは言うまでもない。