2016年10月7日(金)

 北朝鮮と対話か、それとも先制攻撃か 揺れる米国

米副大統領候補TV討論(左)


北朝鮮の核ミサイルの脅威が高まるにつれそれを阻止、除去する手法をめぐって米国の世論が割れている。

北朝鮮が核実験を繰り返し、ミサイルを乱射する度に「外科手術(先制攻撃)も検討すべき」との声が台頭し始めているが、先制攻撃論はM・マーレン元米統合参謀本部議長やR・ハース米外交協会(CFR)会長らがその筆頭。

オバマ政権下で統合参謀本部議長を務めたマイク・マルリン氏は先月16日、あるセミナで「もし北朝鮮が攻撃する能力に接近し、米国を脅かすなら、自衛的側面から北朝鮮を先制攻撃できる」と発言。ハース会長も4日後の20日、寄稿専門媒体である「プロジェクト・シンジケート」誌への寄稿文で「次善策として核能力を持った北朝鮮と共存するか、在来式戦力で北朝鮮を攻撃するか、または北朝鮮のミサイル発射が差し迫った時に先制攻撃することなどが考えられる」と語った。

こうした声を反映してか、ホワイトハウスのJ・アーネスト報道官は9月22日のブリーフィングで記者から「核やミサイル挑発を続ける北朝鮮をオバマ大統領が先に空襲する計画はあるか」との質問に「北朝鮮と特定することなく一般論として言いたい」と釘を刺したうえで「作戦事案の一つである『先制軍事行動』は事前に論議をするものではない」と語った。議論してないから考えてないということではなく、やるときは予告なくやるという意味に聞こえなくもない。

さらに、今月3日の副大統領候補TV討論では民主・共和の両副大統領候補とも北朝鮮に対する強硬論を躊躇わなかった。

T・ケイン民主党副大統領候補は「情報分析の結果、北朝鮮が米国に到達する核ミサイルを発射すると判断された場合、先制行動を取るのか」との司会者の質問に「米国を防御するため差し迫った脅威に大統領はそうした措置を取るべき」と答えていた。ケイン候補のこの日の発言は、ヒラリー・クリントン氏が当選した場合、次期民主党政権が先制攻撃を取る可能性を示唆するものとして注目された。

一方の共和党のMペンス副大統領候補も「トランプ候補が大統領になれば、北朝鮮に米国のパワーを侮るようなことさせない」として「我々は力による平和の時代に戻る」と、共和党政権になれば、軍事力を通じた対北圧力措置を取ることを宣言していた。

その一方で、北朝鮮と交渉して解決すべきとの声も徐々に広がっている。

交渉派にはW・ペリー元国防長官、ウッドロウ・ウィルソン国際センターのJ・ハーマン所長、J・ハッカー国際安全保障協力センター(CISAC)専任研究院、D.キンバリー米軍縮協会会長、R・ガルーチ元米国務省北朝鮮核問題担当大使らがいる。

J・ハーマン所長はワシントンポストへの寄稿(10月2日付)で「核凍結とIAEA(国際原子力機構)の北朝鮮復帰を当面目標にして北朝鮮と直接交渉すべき」と主張。ハーマン所長はクリントン大統領が当選した際には外交安全担当の要職に就くと噂されている人物である。

ガルーチ元米国務省北朝鮮核問題担当大使は4日、ワシントンで米ジョンズ・ホプキンス大学国際関係大学院が開催した討論会で「本来通り機能できるなら交渉は戦争よりいい」と述べたうえで「政権の生存に対する確実な保障をすれば、北朝鮮は核の野望を捨てる交渉に喜んで応じるだろう」との展望を示した。彼は「北朝鮮との交渉は難しいが、他に良い選択はない」とし、「先制攻撃などは状況を悪化させるだろう」と強調した。

では、米世論はどうか?

昨日(6日)、米国の超党派的研究機関のシカゴ国際問題協議会が発表した世論調査では、米国民の10人中、6人が北朝鮮の核を米国にとって「重大な脅威」と認識していることが判明した。

この調査は今年6月10日〜27日までの間、米国人2,061人を対象に行われたが、

北の核に「脅威を感じる」は昨年の調査よりも5ポイント上昇していた。米国にとっての脅威の順位からすると、国際テロ(75%)、「非友好国の核保有の可能性」(61%)に次ぎ、3番目だった。

脅威を除去する選択肢としては「対話と圧迫の並行」が最も多かった。「外交努力」が81%、「経済制裁の強化」も80%に達していた。

また、「軍事的対応」を求める声は「外交努力や制裁」よりも低いが、それでも「奇襲攻撃すべき」との回答が35%、「核施設破壊のための軍隊の派遣」も25%もあった。

(参考資料:全面戦争を覚悟したクリントン政権時代の「北朝鮮攻撃計画」