2016年9月18日(日)

 不気味な北朝鮮外相の「新たな攻撃」発言

李容浩・北朝鮮外相


北朝鮮の李容浩外相がベネズエラで開かれた非同盟閣僚会議での演説(現地時間9月15日)で「我々には戦略爆撃機(B−1B)を投入した米国の挑発に対抗するため新たな攻撃を開始する準備ができている」と述べたことから韓国政府は北朝鮮による新たな挑発を厳重警戒している。

李外相の発言は米軍が2日前にグアム基地に配備していた核戦略撃爆撃機「B−1B」を朝鮮半島に飛来させ、デモンストレーション飛行し、北朝鮮を威嚇したことへの「報復」を示唆したものと受け止められている。

予想される「報復」として▲米軍機の迎撃を想定した地対空ミサイルの試験発射▲米本土を標的にした長距離弾道ミサイル「KN−08」の発射実験▲6度目の核実験などが想定されている。

北朝鮮には最大迎撃高度が数十キロメートルの新型ミサイル「KN−06」(射程距離100キロメートル)のほか「SA−5」(260キロメートル)、「SA−2」(47キロメートル)、「SA−3」(35キロメートル)などの地対空ミサイルが配備されている。従って、米軍機が領空を侵犯し、平壌上空に侵入すれば、撃墜も持さないとの意思表示として地対空ミサイルの発射を試みることが考えられる。

過去には米軍機やヘリコプターが北朝鮮によって撃墜されたことが何回かある。

偵察機では、1969年に電子偵察機「EC−121」が北朝鮮の領空を侵犯したとして撃墜されている。事件後、米国務省は同偵察機が北朝鮮沿岸地域に対して偵察活動を続けていた神奈川県厚木基地所属機で、事件が起きる前の3か月間に延べ190回も偵察飛行を行っていた事実を認めていた。

もう一件が、1981年の偵察機「SR−71」への迎撃未遂だ。

「SR−71」は1966年から実戦配備された偵察機で高度2万4千メートル、巡航速度マッハ3以上の性能を持つ当時米国が誇っていた世界最新鋭の偵察機であった。

米国務省は同年8月26日、「SR−71」が朝鮮半島上空で「北朝鮮のミサイル攻撃を受けた」と発表した。米韓は「重大な挑発である」と北朝鮮を非難し、当時レーガン政権は「北朝鮮近辺の偵察飛行は今後も続行し、米国の乗員、乗機の安全を守るため必要なあらゆる措置を取る」と北朝鮮を威嚇した。

これに対して、北朝鮮は「SR−71」が「領空を侵犯した」と非難しながらも「ミサイルを発射した事実はない」との談話を発表し、「新たな戦争を挑発するための口実を見出すための米国のでっちあげである」と反論していた。

「SR−71」は定期的に沖縄の嘉手納基地から北朝鮮上空に向け発進していたが、当時北朝鮮が保有していた地対空ミサイルは「SA−2」で、2万4千メートルの高空を超音速で飛ぶ同機を迎撃するのは技術的にとても不可能であった。

当時、共和党の長老ゴールドウォーター上院議員は「北朝鮮がミサイル攻撃を加えたかどうか疑わしい。米国務省の発表は信じられない」と発言していたが、国務省の発表とおりならば「SR−71」は「SA−2」の射程範囲ぎりぎりのところを低速で飛んでいたことになる。

「B−1B」はマッハ1.25の超音速で飛行するが、レーダー網を避けるため超低空飛行するし、B-52の代替の戦略爆撃機である「B−2」もステルスではあるが、飛行高度1万5千メートル、マッハ0.9と高度も速度も「SR−71」よりも劣る。「B−2」2機が米韓合同軍事演習に投入された2013年に金正恩委員長が「忍耐にも限界がある」と反発していたことから迎撃を命令する可能性もゼロではない。北朝鮮は今年3月31日、新たに開発した地対空迎撃誘導ミサイルの発射実験を行っている。

次に「報復措置」として考えられるのが、米本土を標的にした長距離弾道ミサイル「KN−08」(ICBM)の発射実験だ。

北朝鮮は今年3月以降、韓国全土を射程に定めたスカッド(500キロメートル)と在日米軍基地を標的にしたノドン(1300キロメートル)、グアムのアンダーソン基地をターゲットにしたムスダン(3000〜4000キロメートル)、さらには潜水艦弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を何度も繰り返し実施してきたが、肝心要の「KN−08」は一度もテストしてない。

「KN-08」は平壌で開催された金日成主席生誕100周年(2012年4月15日)の軍事パレードでその存在が明らかとなっており、射程1万キロメートルを超えるエンジン燃焼実験を何度も行っていることから、いつでも発射実験が可能な状況にある。

米本土防衛を担う米軍北方軍・北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)のゴートニー司令官は昨年4月7日、国防総省で記者会見し、「北朝鮮は核弾頭を小型化し、移動式の大陸間弾道ミサイル『KN―08』に搭載する能力を保持している」との見方を示していた。

さらに「報復措置」としてのもう一つの可能性が6度目の核実験である。

韓国国防部は9月12日、「米韓情報当局は豊渓里地域で追加の核実験を行う準備が常に整っていると評価している」と述べていた。

核実験場の豊渓里の1〜3番の坑道のうち、これまで一度も核実験を行っていなかった3番坑道で核実験をいつでも強行できる準備を終えた様子が捉えられていることや、北朝鮮が核を質量ともに強化することを公言していることから国連安保理の追加制裁決議が出次第、それを口実に6度目の核実験を強行する可能性も現実味を帯びている。

この他に韓国軍は黄海(西海)の北方限界線(NLL)の南側にある延坪島など5島への砲撃や奇襲占領もあり得るとして厳戒態勢に入っているが、どのような報復を選択するかは、金正恩委員長の一存にある。

やらない選択も考えられるが、「報復」が攻撃に値するかどうかは別にしても、外相が国際会議の場で、それも米国の裏庭で予告した以上、何かはやるだろう。