2017年8月3日(木)

 勝者は?「予測不能のトランプ」VS「統制不能の金正恩」

チキンレース真っ只中の金正恩委員長(左)とトランプ大統領


 今春から続いている「予測不能」のトランプ大統領と「統制不能」の金正恩委員長のチキンレースがいよいよ大詰めを向かいつつある。

(参考資料:「4月危機」の次は「8月危機」−対北軍事力行使に傾くペンタゴン

 チキンレースでは先に降りた方が、さじを投げた方が負けである。極限状態でどこまで我慢し、相手を追い詰めるかで勝敗が決する。一歩も引き下がらない強い意志と信念が決め手となる。同時に相手をギブアップさせるためのブラフ、時には駆け引きやハッタリも伴う。

 北朝鮮の核・ミサイルを巡る米朝の攻防を見ると、現時点ではトランプ大統領が押され気味だ。圧力を掛けているのに逆に掛けられ、追い込まれているようにみえる。それもこれも、外交圧力、経済制裁、そして軍事プレッシャーを掛けても、金正恩委員長が強気一辺倒で一向にレースを降りようとしないことに尽きる。

 周知のように二人の「ガチンコ対決」は正月早々始まった。金正恩委員長が元旦の新年辞で「大陸間弾道ロケット(ICBM)試験発射準備が最終段階に達した」と威嚇したことが引き金となった。

 虚勢を張った金委員長の「挑戦」にトランプ大統領は自身のツイートで「そのようなことは起きないだろう」と高を括っていた。北朝鮮がまだICBMを発射する能力を有していないと判断していたのか、それとも「そうはさせない」つもりだったのか、どちらにしても、北朝鮮のICBMの発射はないと楽観していたようだ。

 それもそのはずで、トランプ大統領は3月30日のCBSとのインタビューで「金正恩は結局、よりましな核運搬手段を手にしようとするだろう。我々はそれを放置しない」と述べ、ICBM発射が米国にとってレッドラインであることを仄めかしていた。一週間後のシリア空爆は金正恩政権に対して越えてはならない一線を越えたら、軍事力を行使する米国の決意を行動で示したものと国際社会では受け止められた。

 実際にティラーソン国務長官は米中首脳会談(4月6日)後、ABCの番組で「シリア攻撃は北朝鮮に対するメッセージか」との質問に対し「国際的な規範や合意に違反したり、約束を守らなかったり、他者を脅かしたりすれば、いずれ対抗措置がとられる可能性が高いという全ての国へのメッセージだ」と北朝鮮に警告を発していた。

 トランプ政権はICBMの発射や核実験を阻止するため3月から4月末まで原子力空母「カール・ヴィンソン」を動員しての史上最大規模の米韓合同軍事演習を行って北朝鮮を牽制、威嚇してみせた。それでも、北朝鮮は5月14日、北西部の平安北道・亀城付近から「火星12号」と称する中長距離弾道ミサイルの発射を試み、ICBM発射の準備を進めた。

 事態を重く見たマティス国防長官は6月12日、米下院軍事委員会に出席し「北朝鮮の進展したミサイルと核プログラムは米国の安全保障に最も差し迫った危険な脅威になっている」と述べ、「北朝鮮との戦争に備え必要な準備をしなければならない」と危機感を露わにし、マクマスター大統領補佐官も6月28日、シンクタンク「新米国安保センター」での講演でトランプ大統領から「誰もが取ることを望まない軍事オプションを含む多様なオプションを準備するよう」指示があったことを明らかにした。

 レッドラインを越せば、軍事攻撃も辞さないとの強いメッセージを連続的に発信し、米本土を狙った北朝鮮のICBM発射を断念させようと試みたが、北朝鮮は7月4日、覚悟のうえでICBMを発射し、米国のレッドラインをあっさり越えてしまった。

 米国の独立記念日の日に打ち上げられた「火星14号」(高度2,802km、水平距離933km、飛行時間は39分)は高角度でなく、通常角度で発射すれば、その飛距離は7000km〜8000kmと予測され、ハワイ、さらにはアラスカが射程圏内に入るとされるが、ワシントンや、ロサンゼルス、あるいはニューヨークには届かない。

 北朝鮮の初のICBM発射に対して制服組トップのジョセフ・ダンフォート米統合参謀本部議長は7月22日、コルラド洲で開かれた安保フォーラムに出席し「対北攻撃は不可能ではない」と発言し、米軍の特殊作戦を総括するレイモンド・トーマス米特殊作戦軍司令官も「金正恩が核と核弾頭の運搬手段開発を持続させている状況下で対北軍事オプションはないだろうとの主張には同意できない」と北朝鮮を威嚇して見せたが、北朝鮮は意に介さず、7月28日にも再度「火星14号」(高度3、700km、水平距離約1,000km、飛行時間は47分)を発射させ、ついにサンフランシスコ、シアトル、ロサンゼルスなどの西海岸都市を射程に定めてしまった。

(参考資料:奇襲攻撃能力を備えた北朝鮮のICBM

 北朝鮮の朝鮮労働党機関紙、労働新聞は31日の社説で「米国がひざまずき謝罪するまで連続打撃戦を突きつける」と今後もミサイルの開発、発射を継続することを宣言していたが、北朝鮮は今後、三段式のICBMや潜水艦弾道ミサイル「北極3型」、さらに6回目の核実験も予定しているとされるが、トランプ政権が北朝鮮の「暴走」をどう阻止するのか、今まさに世界の耳目が集まっている。

 米太平洋軍空軍のテレンス・オショーネシー司令官は「必要ならば北朝鮮に対し、我々が選択する時間、場所で迅速かつ致命的、圧倒的な力で対応する準備ができている」と述べ、トランプ大統領も米議会共和党の重鎮、リンゼー・グラム上院議員によれば「北朝鮮がICBMによる米国攻撃を目指し続けるのであれば、北朝鮮と戦争になる」と述べたそうだ。

 トランプ政権は21日からは始まる米韓合同軍事演習(フリーダムガーディアン)に原子力空母「ロナルドレーガン」と「カールビンソン」を二隻投入し、北朝鮮に軍事プレッシャーを掛ける一方、強力な経済制裁を科して、北朝鮮を封じ込める構えだが、これで効かないとなると、最後の選択は軍事力行使か、核保有容認かの二択しかない。

(参考資料:軍事衝突は? 不気味な8月の米韓合同軍事演習(UFG)