2017年8月19日(土)

 米韓が合同軍事演習を強行! 北朝鮮はどう出る!

米韓連合軍の上陸訓練


  恒例の夏の米韓合同軍事演習が予定とおり21日から行われることになった。

 「我々の自制力を試し、引き続き、半島周辺で軍事挑発すれば、重大決断する」と言明した金正恩委員長がグアムに向け中長距離弾道ミサイル「火星12号」を発射するかどうかに世界中の関心が集まりそうだ。

(参考資料:「米朝軍事衝突」の危険性が高い3つの理由

 夏の米韓合同軍事演習(乙支フリーダムガーディアン)は約2ヶ月近く行われる春の合同軍事演習(キーリゾルブとフォーイグル)とは異なり、演習期間は10〜11日間と短い。動員される米軍及び韓国軍の人数も春は米軍約1万〜1万5千人、韓国軍30万人前後だが、夏は、米軍は2〜3倍の3万人と多いが、韓国軍は逆に6分の1の5万人と少ない。

 北朝鮮は金正日総書記の時代の2011年は対決姿勢をむき出しにせず「米朝関係、南北関係を正常化すためにも、また非核化を実現するためにもその一歩として軍事演習を中止してもらいたい」とソフトに促していた。しかし、金正恩政権となった2012年からは「力には力で対抗するのが、我々の不動の立場」として、対決姿勢を全面的に打ち出している。

 金正恩政権下の過去5年の米韓合同軍事演習への北朝鮮の反発をみると、2012年(8月21-31日)の訓練は北朝鮮の急変事態の際に大量殺傷兵器(WMD)が海外に流出しないよう遮断すると同時に北朝鮮軍がWMDで韓米両国軍を攻撃しないよう破壊して無能化することが目的だった。

 これに対して北朝鮮は朝鮮人民軍板門店代表部が演習開始翌日に声明を出して、「朝鮮半島は一触即発の危機に陥った」として「我々にはいかなる時でも際限なく、予測や想像が不可能な無慈悲の物理的行動をとる権利がある」と何らかの行動を取ることを示唆した。

 金正恩委員長(当時の肩書は第1書記)も「先軍の日」(8月25日)の慶祝宴会で演説し、韓米合同演習について「我慢にも限界がる」と述べ、全面的な反攻撃戦に向けた作戦計画を検討し、署名し、27日には第313大連合部隊指揮部を視察した。この年は12月12日に長距離弾道ミサイル「テポドン」が発射された。

(参考資料:北朝鮮は有事時、4個軍団で総攻撃――ソウル半分は緒戦で壊滅

 翌年の2013年(8月19−30日)の訓練は、北朝鮮が北方限界線(NLL)南側の韓国の諸島や38度線(非武装地帯)で武力挑発を行った場合、北朝鮮の砲兵部隊だけでなく、その周辺の兵站施設や4軍団司令部まで叩く訓練であった。訓練にはF―22ステルス戦闘機、核戦略爆撃機「B−52」、ステレス戦略爆撃機B−2、イージス駆逐艦「ラッセン」や「フィッツジェラルド」などが投入された。

 米韓が演習に核戦略爆撃機「B−52」を投入すると、金正恩国防第一委員長(当時)は「我々の忍耐にも限界がある」との談話を発表し、戦略ロケット部隊に「1号戦闘勤務体制」を発令し、25日の「先軍の日」に新たに建造された戦闘艦船の機動訓練を指導し、演習終了後の9月2日、3日と、NLLの北側の拠点、無島とウォルネ島の防御隊を相次いで視察した。

 2014年(8月18―29日)の演習の特徴は北朝鮮の核とミサイルをいかに除去、無力化するかの訓練であった。

 米国が演習を前に「B−52」を3機グアムに配備するとこれに反発し、北朝鮮は「予測付かないより高い段階の軍事的対応を取る」(外務省代弁人声明、)「正義なる自衛措置をこれから連続的に取る」(労働新聞)と米国を威嚇した。

 結局「B−52」が演習に参加しなかったこともあって、「自制措置」を取ることもなく、演習終了後の9月に中国に近い北部の慈江道・龍林から射程200kmの短距離ミサイル1発を日本海に発射するのみだった。

 2015年(8月17―28日)は米韓両軍の各種最新兵器を動員して、北朝鮮の反撃意思を挫く演習であった。演習は初めて、対北先制攻撃戦略(作戦計画「5015」)に基づいて行われた。

 防御ではなく、先制攻撃を想定した演習に危機感を覚えた北朝鮮は「合同軍事演習のような敵対行為を止め、他の道を選択する決断を下せば、対話も可能で、問題も解決できる」(外務省代弁人談話7月27日)と「演習中止と対話再開」をカードに直前まで中止を求めていた。

 しかし、米韓がこれを拒否すると、国防委員会は演習開始2日前の8月15日、「軍事演習を強行すれば、我々の軍事的対応は大きくなる」との声明を出し、軍総参謀部も「宣戦布告」だとして「米国と南朝鮮(韓国)が宣戦布告してきた以上、我々のやり方の最も強力な先制攻撃が任意の時刻に無慈悲に開始される」と態度を一転させた。

 北朝鮮は演習期間中「演習は宣戦布告である」と連日、軍事報復を示唆したが、米韓は意に介さず、最終日の28日には史上最大規模の「統合火力撃滅訓練」が行われた。

 昨年(8月22-26日)も作戦計画「5015」を適応した戦争対応シナリオに沿った演習が行われた。動員された米軍は2万5千人と例年よりも5千人少なかったが、朝鮮半島有事が発生した場合、真っ先に展開する部隊である第18空輸軍団所属の第3歩兵師団が演習に投入された。

 北朝鮮軍総参謀部は演習がスタートした日(22日)、報道官声明を発表し、合同軍事演習を「核戦争挑発行為」とした上で、「朝鮮人民軍1次打撃連合部隊が先手を打って報復攻撃を加えられるよう常に決戦態勢を堅持している」とも警告し、「先軍の日」の前日の24日、日本海に面した咸鏡南道新浦付近から潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)1発を発射した。SLBMは最長の500キロを飛び、日本の防空識別圏内に落下した。そして演習終了から一週間後の9月9日の建国記念日に5度目の核実験を強行した。

 今年は米軍の参加数は昨年より7千5百人少ない1万7千5百人(駐韓米軍1万4千5百人と海外増援軍3千人と推定されているが、それでも海外からの増援軍は5百人多く、また演習内容も昨年と変わらない。

 昨年同様に戦略爆撃機や原子力空母が演習に投入されなければ、グアムへのミサイル発射を思い止まるかもしれないが、忘れてはならないのは金委員長が「我々の門前で恒例を理由にした戦争演習騒動を止めない限り、核武力を中枢とした先制攻撃能力を引き続き強化する」と公言していることだ。

 米韓合同軍事演習開始の21日から「先軍の日」の25日、そして来月の北朝鮮建国記念日(9日)までは予断を許さない。

(参考資料:「米軍の対北先制攻撃準備完了!」米メディアが米軍の攻撃シナリオを一斉報道