2017年12月10日(日)

 金正恩委員長の「白頭山詣」の後に何が起きる?

白頭山に登頂した金正恩委員長


 金正恩委員長が朝鮮半島の聖山でもあり、北朝鮮の革命の聖地でもあり、父親(金正日総書記)の生誕地でもある白頭山に「登頂した」と朝鮮中央放送は昨日(9日)伝えていた。過去の例を参考にすれば、おそらく前日の8日に登ったのだろう。

 金委員長が白頭山のある中国と国境を接している両江道三池淵郡に訪れたのは過去4回ある。いずれも、登山後に重大事変が起きていることから今回も金委員長が何か誓い言を立てたのではとの憶測が韓国内では広まっている。

 1回目は2013年11月29日で、最高指導者就任後初の三池淵郡視察であった。そして10日も経たない翌12月8日、党中央委政治局拡大会議を開き、叔父である張成沢国防副委員長を「反党、反革命分子」として断罪し、1か月後の2012年12月12日に軍事法廷で極刑を宣告し、その日の内に処刑している。

 白頭山参拝の随行者に張成沢氏の罪状を暴いた黄炳誓党組織指導部第一副部長(現軍総政治局長)や逮捕した金元洪国家安全保衛相(現軍総政治局第一副局長)らが含まれていたことからこの時に叔父の粛清を決断したのではないかと当時囁かれていた。

 2回目は2014年11月20日で父親の3周忌(11月17日)との関連で三池淵に赴いたと伝えられているが、翌2015年の新年辞で軍力強化の4大戦略路線と3大課業を打ち出し、最先端武装装備を積極的に開発するよう党と軍に命じていた。

 この時は直前に人民軍空軍・防空空軍第991軍部隊を視察していたが、軍総政治局長に抜擢されたばかりの黄炳誓氏のほか、李炳哲人民軍空軍・防空空軍司令官(現党軍需工業部第一副部長)や人民武力部の徐興賛第一副部長ら軍人が行動を共にしていた。

 3回目は2015年4月18日で、直後に軍No.2の玄永哲人民武力相が処刑されている。また、初の外遊として注目されていたロシアの対ドイツ戦勝70周年記念式典(5月9日)への出席も急遽取り止めとなっている。訪露ドタキャンは今もって謎となっている。

 当時の随行者は金委員長の両腕である黄炳誓軍総政治局長と崔龍海政治局常務委員、それに金養健政治局員と李在逸党宣伝担当第一副部長らであった。

 4回目は昨年、2016年11月27日で崔龍海政治局常務委員と金容珠党部長の二人が随行していた。

 今年の「新年の辞」で金委員長は大陸間弾道ミサイル(ICBM)について初めて言及し、「試験発射準備が最終段階に達した」と述べていた。そして、5月から9月にかけて「火星12型」と「火星14型」の発射実験を繰り返した後、11月29日に北朝鮮初のICBM「火星15型」の発射に成功している。

 今回(2017年)は金委員長にとって5回目の白頭山参拝(12月8日)となる。それも、230機の戦闘機・爆撃機を動員した米韓連合軍による史上最大規模の空中訓練の最中に姿を現していた。

 随行者として公表されたのは崔龍海政治局常務委員一人だけだった。しかし、直前の三池淵郡ジャガイモ加工工場の視察には崔龍海氏のほかに金容珠党部長と趙容遠副部長の2人の姿も見えていた。

 先月「不純な態度」を理由に「処罰説」が流れていた黄炳誓軍総政治局長と金元洪第一副局長の二人の処遇について決断するためなのか、それとも昨年視察した際に建設を指示していた三池淵郡ジャガイモ加工工場が完成したことからの単なる視察なのか、それとも別の目的があってのことなのか定かではない。

 報道によると、金委員長は「国家核戦力完成の歴史的大業を輝かしく実現してきた激動の日々を感慨深く振り返った」そうだ。こうしたことから来年の新年辞では核戦力の完成、保有を宣言し、来年からは核・ミサイル開発から併進路線のもう一つの要である経済発展に舵を切るのではとの見方もなされている。

 核とミサイルの乱射で悪化した経済を好転させるには国連安保理の経済制裁を緩和させる必要性がある。米国務省やジョセフ―ユン6か国首席米代表が「(核とミサイル実験を)60日間凍結すれば、対話の用意がある」との条件を依然として提示していることから米国に対して▲「火星15型」の正常発射実験を行わない▲グアム近海への「火星12型」4発の発射を行わない▲太平洋上の水爆実験を行わないとの三枚のカードを使って米国との交渉に乗り出すことも考えられる。国連のゲルトマン事務次長を平壌に招請したのはその仲介役を依頼することに狙いがあるのかもしれない。

 白頭山詣でのもう一つの見方はこれとは真逆で米国との戦争も辞さないとの決意固めと言えなくもない。

 「火星15型」成功祝賀大会で演説に立った朴英植人民武力相は金委員長が軍に対して「戦争準備完了に総力を集中せよ」との指示があったことを明らかにしている。

 マクマスター大統領補佐官の「北朝鮮との戦争の可能性が日々高まっている」との12月3日の発言にみられるようにトランプ政権は北朝鮮の核戦力完成を阻止する手段として軍事力行使を検討している。これに対して北朝鮮外務省は6日、「我々は戦争を望まないが、決して避けることもしない」と米国の攻撃に対して受けて立つ考えを表明している。

 北朝鮮が「火星15型」の発射でミサイル発射も核実験も凍結すれば、軍事衝突の可能性が著しく減少するが、新たに開発した潜水艦弾道ミサイル「北極星3型」の発射の動きもあることや先頃訪朝したロシアの軍事問題専門家に対して北朝鮮の人工衛星(テポドン)発射機関である国家宇宙開発局の担当者が「地球観測衛星1基と通信衛星1基を完成させた」と説明していたことから北朝鮮は来年9月の建国70周年に向けて事実上の長距離弾道ミサイル(テポドン)を発射する可能性も大だ。

 北朝鮮は「火星15型」発射後も党序列No.6朴光浩党中央委員会副委員長が、また対米・対南窓口機関である祖国平和統一委員会が米国や韓国に対して「史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮するとの金委員長の9月21日の演説を忘れるな」と警告を発していることから米国が強行に出れば、労働新聞が先月(11月15日)に論評で予告していた「米国が最も望まない、身の毛がよだつほど体験」とか「悪夢で思い浮かべた物凄い光景」を見せつけるかもしれない。そうなれば、軍事衝突は回避不可能となる。

 白頭山で核・ミサイル開発の凍結を決意したのか、それとも、継続を決意したのか、父親の命日である17日までに動きがあるのかどうか、最大の焦点となりそうだ。