2017年12月14日(木)

 突然姿を消した「金正恩側近4人衆」

「粛清説」が伝えられる黄炳誓軍総政治局長と金元洪第一副局長


 韓国の情報機関「国家情報院」は先月(11月)20日、国会情報委員会で軍総政治局No.1の黄炳誓軍総政治局長とNo.2の金元洪第一副局長の二人が「不純な態度」を理由に「処罰された」と報告していたが、韓国メディアによると、その後、黄総政治局長は朝鮮労働党から「除名処分」を受け、金第一副局長は政治犯収容所に収監されたとのことだ。

 一説では、黄総政治局長のライバルとされる崔龍海政治局常務委員が部長に就任した党組織指導部が軍総政治局への大々的な検閲を行い、その結果、両人の「規律違反」(不正)が発覚し、それを知った金正恩委員長が激怒し、二人を「処分」したと伝えられている。

 政治局常務委員でもある黄総局長も、政治局員である金第一副局長も金正恩委員長が出席し、指揮した10月7日の朝鮮労働党第7期第2次全員会議に姿を見せなかった。黄総局長は5日後の万景台革命学院創立70周年記念行事(10月12日)には出席し、演壇で演説していた。しかし、直後にあった金委員長の万景台革命学院訪問には同行せず、崔龍海政治局常務委員に取って代わっていた。この日を最後に金委員長の視察に随行することも、公式行事に出席することも一度もなかった。

 黄炳誓軍総政治局長は党第7期第2次全員会議が開催されるまでは金正恩委員長、金永南最高人民会議常任委員長に次ぐ党序列3位の座にあった。ところが、この会議での序列では崔龍海(党組織指導部部長)、朴奉柱(総理)の両政治局常務委員に抜かれ、5位に下がっていた。

 大将よりも一階級上の次帥の称号を与えられている黄総政治局長は軍のトップにある。軍総政治局長に2014年4月に起用されるまでは党組織指導部第一副部長のポストにあり、金京玉第一副部長、趙英俊第一副部長と共に党を仕切っていた。

(参考資料:金正恩第一書記を背後で操る北朝鮮版「4人組」 ) 

 党組織指導部は労働党の各部署の中で最も権力のある部署である。組織部、行政部、幹部部、3大革命小組指導部、63部など5個の部署、38課を管轄している。部長が空席のため実権は第一副部長が握っていた。黄氏は党が軍を掌握するため軍に言わば出向していた。金委員長の最側近である黄軍総政治局長が仮に「失脚」しているなら、その余波は軍内に留まらず、党内にも波及するだろう。

 金元洪第一局長は昨年末に解任されるまで情報機関として知られる国家安全保衛部部長(保衛相)の要職にあった。国家安全保衛部は反体制の動きを監視、摘発する秘密組織である。国内だけでなく海外の情報も収集し、国境の警備や政治犯収容所の管理も担当している。法的手続きもなく、容疑者を拘束し、裁判にも掛けずに処罰できる恐るべき権力機関である。

▲北朝鮮の「ゲシュタボ」のトップが電撃解任!

 金元洪第一副局長は2003年に保衛司令官として金正日体制を支え、2010年に一時的に軍総政治局副局長に転出したが、金正恩体制下の2012年に空白だった国家安全保衛部部長に任命され、政治局員、国防委員にも選出されていた。  

 金正恩委員長が後継者としてお披露目された2010年9月の第3回党代表者会では金委員長の隣に座っていたほど金委員長の信任が厚く、2013年12月には金委員長の叔父である張成沢国防副委員長を連行し、処刑したことでその存在がローズアップされていた。国家安全保衛相を更迭されても、今年5月に軍総政治局第一副局長に起用されたことでも金委員長から絶大な信頼があったことがわかる。

 金元弘第一副局長に掛けられた「規律違反」は保衛相時代の度が過ぎる摘発や過酷な拷問にあったとされているが、真相は定かではない。いずれにせよ、4年以上も情報機関のトップにあり、趙慶チョル保衛司令官と尹正麟護衛司令官と並んで金正恩委員長をガードする将軍の一人とみられていた金元弘大将が粛清されているならば、黄総政治局長の失脚の比ではない。金元弘元保衛相に繋がる情報要員らに動揺が広まることだろう。

 軍と情報機関のトップの異変以上に不可解なのは核とミサイル開発を担当する軍需工業部の実質的No.1とNo.2の「不在」である。

 党軍需工業部のトップの座にあった李万建部長(政務局副委員長兼党軍事委員)は党第7期第2次全員会議で更迭され、太宗秀前咸鏡南道党書記がその座に座っていたことが判明したが、実質的No.1の李炳哲第一副部長とNo.2の金正植党軍需工業部副部長の動静は不明のままだ。金正恩委員長が「核戦力が完成した」と豪語した11月29日のICBM発射「火星15型」の発射にも立ち会ってなかったし、数日前に開催された党軍需工業大会(11−12日)にもNo.3の張昌河副部長が金委員長の隣に座っていたのに二人とも揃って欠席していた。

 李炳哲第一副部長は党のミサイル開発の総指揮者と言っても過言ではない。ロシアで教育を受けた李大将は空軍・防空司令官から2014年12月8日に党軍需工業部副部長に栄転し、翌年(2015年)の1月には早くも第一副部長に起用されたほど金正恩委員長が信頼を寄せている側近の一人である。10月7日の党第7期第2次全員会議では崔龍海政治局常務委員と共に党軍事委員に選出されたばかりだった。

 一連の弾道ミサイル発射に金正恩委員長が立ち会う際には必ず隣に立ち、説明を行う場面が頻繁に目撃されている。また、発射に成功した瞬間、金委員長と抱き合うシーンもあり、タバコを勧められたこともあった。

 金正植党軍需工業部副部長は2012年に宇宙開発局の前身である宇宙空間技術委員会所属で、2012年の2度にわたるテポドン発射に関与した人物である。

 昨年2月7日のテポドン(人工衛星)発射では、すべての過程を金正恩委員長に説明していたことで知られる。人工衛星発射成功に喜んだ金委員長は発射場の東倉里から平壌に戻る専用列車に金正植副部長を乗せ、連れ帰ったほどだ。また、平壌で行われた衛星発射祝賀会では李雪主の隣に座らせるなど厚遇した。

 金正植副部長は2012年12月の二度目の発射による成功で当時、崔春植(チェ・チュンシク)第二自然科学院長ともども「共和国英雄」称号を授与している。中将の階級も与えられ、準ICBMと称される「火星12号」の際には軍服を着て、表れていた。党第7期第2次全員会議では党中央候補委員から党中央委員に昇進したばかりだった。

 失脚したのか、それとも新たなミサイル開発・発射準備に追われているのか、この二人の動静は大いに気になる。

(参考資料:金正恩委員長が実妹を「影のN0.2」に抜擢した理由 )