2017年7月28日(金)

 「4月危機」の次は「8月危機」−対北軍事力行使に傾くペンタゴン

レイモンド・トーマス米特殊作戦軍司令官


北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)をめぐって朝鮮半島の緊張が再び高まりつつある。トランプ政権内で北朝鮮への軍事オプションが真剣に検討されているからだ。

 来月は北朝鮮が猛反発している米韓合同軍事演習(フリーダムガーディアン)が行われる。米軍3万、韓国軍5万人が参加して実施される合同軍事演習を前に北朝鮮が再度、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦弾道ミサイル(SLBM)あるいは6度目の核実験に踏み切れば、「4月危機」の再燃は必至である。

(参考資料:軍事衝突は? 不気味な8月の米韓合同軍事演習(UFG)

 しばらく鳴りを潜めていた対北軍事オプションだが、ペンタゴン内では公然と叫ばれ始め、誰もその可能性を否定していない。

 米国防省は北朝鮮の核問題との関連ですでに対北軍事オプションを作成し、トランプ大統領に提出している。トランプ大統領から「誰もが取ることを望まない軍事オプションを含む多様なオプションを準備するよう」指示があったからである。

 今年5月に米下院軍事委員会に出席し、「北朝鮮の核・ミサイル基地と化学兵器貯蔵所など大量破壊兵器施設への打撃準備ができている」と証言した米軍の特殊作戦を総括するレイモンド・トーマス米特殊作戦軍司令官は昨日(7月27日)、FOXTVのインタビューに答え「金正恩が核と核弾頭の運搬手段開発を持続させている状況下で対北軍事オプションはないだろうとの主張には同意できない」と公然と唱えた。

 「軍事オプションはある常にある」と主張するトーマス司令官は「それが、米国民が毎年6千億ドルの国防予算を支払っている理由である」述べたうえで「米特殊部隊はイラク、シリア、イスラム国、アルカイダなど暴力的な極端な勢力への軍事作戦で核心的役割を担ってきた」と発言し、北朝鮮に対する軍事行動が開始された場合は米特殊部隊が作戦を主導することを暗に示唆した。

 軍事力行使の可能性については制服組トップのジョセフ・ダンフォート米統合参謀本部議長もその5日前の7月22日、コロラド洲で開かれた安保フォーラムに出席し「対北攻撃は不可能ではない」と発言したばかりだ。

 このフォーラムでダンフォード議長は「多くのは人々が対北軍事オプションは『想像できない』と言っているが、そうした考えは改めなければならないだろう」と述べていたが、その理由についてダンフォード議長は「(朝鮮半島での軍事衝突は)無残で、我々の時代に経験したことのない人命損失をもたらすが、私にとって『想像できない』のは対北軍事オプションではなく、北朝鮮がコルラドに到達する核兵器の開発を放置することにある」と説明していた。

 また、NO.2のポール・セルバ統合参謀本部副議長も18日、上院軍事委員会公聴会に出席し、北朝鮮への先制軍事攻撃に関して「潜在的な選択肢として検討する必要がある」と証言していた。

(参考資料:北朝鮮に対する米軍の先制攻撃はいつでも可能な状態

 マーク・ミレー米陸軍参謀総長も軍事攻撃を示唆している軍人の一人である。

 ミレー米陸軍参謀総長は昨日、ナショナルプレスクラブで開かれた記者懇談会で北朝鮮の7月4日のICBM成功について「既存の予想よりも早く、注目すべき進展だ」と述べ、「非軍事的方法(圧力と制裁)で北朝鮮の核危機を解決する時間は依然としてあるが、時間は限られている」と発言し、圧力と制裁が功を奏しなければ、軍事手段による解決を選択せざるを得ないとの考えを明らかにした。また、ハリス米太平洋軍司令官も朝日新聞(7月14日付)との電話インタビューの中で「軍事的オプションは常に準備できている。実行可能な状態にある」と語っていた。

 一方、マイク・ポンペオ米中央情報局(CIA)局長もCNNによると、ダンフォート米統合参謀本部議長と共に出席したコロラド洲での安保フォーラムの席で「北朝鮮の政権交代が望ましい」と発言し、その理由として「我々にとって重要なのは、核の能力と、意図を持っている人物を分離することである」と述べ、金正恩政権を核システムから分離する必要性を力説していた。ポンペオ局長はCIAもペンタゴンも「最終的に達成すべきは何かについて計画を立てている」と語っていた。

 軍事オプションについては米国のニッキー・ヘイリー国連大使が9日にCBSテレビに出演し、「金正恩が我々にその口実を与えない限り、北朝鮮と戦争をする気はない」と語っていたが、北朝鮮がこれ以上米国を挑発するならば「米国を防御するためにやらなければならないときはやる」(6日)とすでに公言していた。

 米国は7月4日のICBMはまだコロラド、ニューヨーク、シカゴ、ワシントンなど大都市に到達するレベルには至ってないと判断しているようだが、仮に北朝鮮が次に発射するICBMがその能力を有するようだと、トランプ政権は北朝鮮は「帰らざる河を渡った」とみなし、軍事力行使に踏み切るかもしれない。

(参考資料:現実となる?北朝鮮のミサイル飛来に備えたハワイ、韓国、日本での避難訓練