2017年6月3日(土)

 「中身のない、及び腰」の安保理決議では北の核・ミサイルは止められない!

北朝鮮に対する制裁決議を採択した国連安保理


国連安保理は6月2日、北朝鮮に対する新たな制裁決議を採択した。北朝鮮に対する安保理制裁決議は2006年10月の北朝鮮初の核実験の際に採択されて以来、これで7度目となる。

安保理メンバー15か国が全員一致で賛成した制裁決議「2356号」は個人及び団体の海外渡航規制と資産凍結に焦点が合わせられ、北朝鮮への原油供給の中止や北朝鮮にとって貴重な外貨獲得手段となっている海外出稼ぎ労働者らの受け入れ規制などはいずれも除外された。

一時は、石炭の輸出全面禁止や海産物の輸出禁止、さらには高麗空港の運航中断なども取り沙汰されていたが、蓋を開けてみると、骨抜きとなっていた。これでは実質的に北朝鮮経済に与える影響は微々たるもので、北朝鮮にとっては痛くも痒くもないだろう。

今回、制裁対象に高麗銀行、北朝鮮戦略ロケット司令部、武器取引業者の「剛峰貿易」、そして「朝鮮錦山貿易」の4つの団体がリストアップされていたが、規制対象に指定したからといって、効果が期待できるというものでもない。

そもそも北朝鮮の金融機関に対してはすでに昨年3月の5回目の制裁決議(2270)で「北朝鮮銀行の国連加盟国の海外支店、金融機関の支店開設禁止」など金融取引の制限が拡大されており、金融機関である「高麗銀行」もその対象となっていた。

武器取引に関しても「小型と在来式も含めすべての武器取引が禁止(修理目的も不可)されていることから「剛峰貿易」も「朝鮮錦山貿易」もすでに「開店休業」状態にあると言っても過言ではない。

さらに、貿易も金、銀、銅、ニッケル、亜鉛、チタニューム、レアアースなど鉱物資源の輸出が完全に禁止され、石炭、鉄、鉄鉱石なども原則規制対象とされている。売るものがないのである。加えて、外国から輸入する贅沢品の規制対象も拡大され、貨物検査も厳しくなっていることからすでに貿易も成り立たない状態にある。

また、戦略ロケット司令部を新たに制裁対象に指定したからといって、解体に追い込めるわけでもない。

国連安保理はこれまですでに北朝鮮に対しては42の団体を制裁対象に指定しているが、その中には戦略ロケット司令部を管轄する党軍需工業部、国防科学院、第二自然科学院、宇宙開発局、宇宙空間技術委員会、党39号室、第二経済員会、原子力工業省(2013年4月新設された内閣部署)、偵察総局などが含まれている。それでも、北朝鮮は核実験もミサイル発射も続けている。団体・機関を増やしても抑止になってないことは自明だ。

個人に関しても今回、新たに朴道春・前軍需工業部部長(党軍需担当書記)、白世峰・前第二経済委員会委員長、李在一・前党宣伝部第一副部長のほか、趙容遠・党組織指導部副部長、趙一宇偵察総局第5局長、朴漢世・第二経済委員会副委員長、金東浩・丹端産業銀行駐ベトナム代表、金哲南・朝鮮金山貿易代表ら14人をリストアップしているが、朴道春、白世峰、李在一の3氏はすでに一線から退いて、リタイアしている。

(参考資料:北朝鮮の弾道ミサイル開発のエキスパートは誰!?

団体や機関、貿易会社や金融機関の代表にしても制裁対象に指定されれば、その都度、別の人物に交代させている。ちなみに、端産業銀行駐ベトナム代表の前任者は趙誠一で、制裁対象に指名されたことから金東浩代表に替えていた。いくらでも後釜がいるという具合だ。資産凍結や渡航禁止措置の対象にされた個人は貿易関係者を除けば、そもそも海外に資産もなければ、国外に出ることのない面々ばかりだ。

前回同様に今回もまた、安保理決議は及び腰というか、骨がないものとなっている。

安保理決議(1718号)では制裁対象人物は「北朝鮮の核関連、弾道ミサイル関連及びその他の大量破壊兵器関連の計画に関係のある北朝鮮の政策に責任を有している(北朝鮮の政策を支持し又は促進することを通じた者を含む)者」と定められている。となると、本来ならば、真っ先に金正恩委員長がリストアップされなければならない。

その理由は、昨年1月6日の水爆実験は金委員長が決断し、また昨年2月7日の長距離弾道ミサイル「光明星」の発射も「2月7日に打ち上げろ」との命令を出していたからだ。昨年春から続いているミサイル乱射も金委員長の立会いの下で行われているのは周知の事実だ。それなのに不可解にも今回も制裁対象から外されている。

また「北朝鮮の政策を支持し又は促進することを通じた者」とは水素爆弾成功祝賀平壌市軍民大会やミサイル発射成功を祝った宴会の出席者である金永南最高人民会議常任委員会委員長や黄炳誓軍総政治局長、朴奉柱総理ら党・軍、政府幹部らである。国際会議の場で核実験やミサイル発射の正当性をPRする李容浩外相らも本来ならば対象とならなければならない。

サダム政権下のイラクに対しても同じく7度にわたる制裁が科せられていたが、制裁委員会が作成したブラックリストにはフセイン大統領を含め89人の個人と205の組織、団体がリストアップされていた。

(参考資料:ICBM発射はイラクへの武力行使に繋がった7度目の国連制裁決議を招く

北朝鮮の制裁対象は新たに個人16人、4団体が追加され、個人は延べ53人、団体も46と増えたものの、その数はイラクとは比較にならない。核開発疑惑で同じく制裁を受けていたイランでさえ4度の制裁でアフマディネジャド大統領(当時)との支持基盤である革命防衛隊の関連企業を含め75の団体が制裁対象にされていた。

国連安保理の制裁は国連憲章第7章第41条(平和的手段)に基づいて行われている。仮に第41条に定める措置では不充分であることが判明した場合、安保理は第42条を適応することになっている。

「42条」には「国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動をとることができる。この行動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる」となっている。

今回の7度目の制裁決議でも北朝鮮の核とミサイル開発を止めることはできないだろう。安保理史上過去最大の8枚目の制裁決議ももはや時間の問題だろう。

結局のところ、関係各国が覚悟をもって「42条」に踏み込み、「政策を転換しなければ体制を維持させない」との本気度を示さない限り、金正恩政権が核とミサイル開発をそう簡単に断念することはないだろう。

(参考資料:北朝鮮に対する米軍の先制攻撃はいつでも可能な状態