2017年6月28日(水)

 支持率下降の文在寅大統領の訪米は成功するか

大統領に就任し群衆に応える文在寅大統領


文在寅大統領は明日からのワシントンでトランプ大統領との首脳会談のため本日ソウルを出発した。

大統領選挙で圧勝した文大統領だが、気になるのはここにきて支持率が下がっていることだ。

大統領に就任したのが5月10日。世論調査機関「リアルメーター」によると、就任直後の調査では国民の支持率は81.6%に達した。その後もアップし、最高で84。1%(5月の第4週の調査)まで上昇した。しかし、6月に入ると、78.9%(第一週)、75.6%(第二週)、74.2%と下がり始め、政権発足当初10.1%だった不支持が今では18.6と跳ね上がっている。

支持率下落の理由は、内定した外相や国防相らの人事を巡る混乱などが災いしているが、外交や安保への国民の不安が解消されず、高まっていることが大きな要因となっている。具体的にはTHAAD(高高度ミサイル防衛システム)問題での米国との軋轢、漂流する北朝鮮との関係、さらには慰安婦問題の再燃による日本との不安定な関係などが尾を引いているようだ。

支持率が再び上昇するのか、それとも今後、下降の一途を辿るのか、最初の関門は革新系大統領としては盧武鉉大統領以来の訪米にあることは疑いの余地もない。

米韓首脳会談ではトランプ大統領から貿易不均衡の象徴として破棄もしくは再交渉を迫られている米韓FTA(自由貿易協定)やTHAADの配備問題が取り上げられるのは確実だ。

「米国第一主義」のトランプ政権は貿易赤字を解消するため中国、日本など16か国を対象に保護貿易を強めるとの強硬策を打ち出していたが、日米、米中会談の結果、日本と中国はその対象から除外され、一応難を逃れることができた。FTAの現状維持を望む文在寅政権は果たして日中並みの扱いを受けられるだろうか?

FTA問題以上に深刻なのはTHAADの問題だ。

THAADの配備については大統領になる前は反対の立場に立っていたが、大統領になると、即反対ではなく「新政権下で慎重に検討する」との立場に立っている。即ち、配置場所周辺の環境に与える影響を再調査し、決定するとのことだが、「決定までには1年を要する」として現実的には年内の全面配備には消極的だ。

米軍はすでに発射台6台を韓国に持ち込み、すでにそのうち2台を配備しているが、文大統領は残り4台については棚上げにしたままだ。米国との同盟関係を重視するか、THAAD配備断固反対の中国に配慮するか、板挟みの状態にある文大統領にとって「二者択一」の選択は容易ではない。

THAAD以上に頭の痛い問題が北朝鮮の核・ミサイル問題だ。北朝鮮への制裁と圧力を強める「北風政策」のトランプ政権に対して「対話も必要」との「太陽政策」が果たして通じるかどうか。

英国の日刊紙「ファイナンシャル・タイムズ」のコラムニスト、ジダン・ラフマン氏は26日付のコラムで「文在寅大統領がトランプ大統領を説得できなければ、韓国は危険に陥る」と警鐘を鳴らしていた。「危険に陥る」とは米国による対北攻撃を指す。かつて、クリントン大統領が1994年、北朝鮮攻撃を決定した際に金泳三大統領は「戦争はダメだ」と阻止に動いたが、それが文大統領に出来るかどうか。

文大統領は差し迫る北朝鮮の6度目の核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を阻止し、北朝鮮を対話のテーブルに着かせる策として米韓合同軍事演習の規模縮小をトランプ大統領に提案するとも伝えられているが、北朝鮮は規模の縮小ではなく、全面中止を求めているだけにこれまた簡単なことではない。まして、トランプ政権は北朝鮮が非核化に応じない限り「演習中止」という代償を払う考えが毛頭ないだけに二重に辛いところがある。

(参考資料:米韓首脳会談で文大統領が説得できなければ、トランプ大統領は対北攻撃を決断か

文大統領は北朝鮮に対して人道支援や民間交流をカードに南北対話の復活、関係改善を図ろうとしている。しかし、北朝鮮は対話再開の条件として米韓合同軍事演習の中止のほかに昨年中国から集団脱北したレストラン女性従業員らの送還や開城工業団地や金剛山観光の再開など様々な条件を突き付けていることもあって思うように行かない状況下に置かれている。

文大統領がいくら対話、交流を重視する融和政策を取ろうとしても、北朝鮮が6度目の核実験、さらには米国がレッドラインをみなしているICBMを発射すれば、すべて水の泡となる。

(参考資料:北朝鮮 「ICBMの試験発射の準備ができている」と宣言

文大統領がかつて慕った民主化の旗手、金泳三元大統領も大統領就任(93年2月―98年1月)時は「民族のほかに同盟に勝るものはない」と公言し、北朝鮮に秋波を送り、南北統一に向けての首脳会談も呼びかけたものの大統領就任の翌月、北朝鮮がNPT(核拡散防止条約)から脱退し、核開発に着手したため逆に朝鮮半島の緊張が一気に高まってしまった。

結局、北朝鮮に核放棄を呼びかけたものの北朝鮮からのレスポンスもなかったため業を煮やした金大統領は北朝鮮を指して「壊れたヘリコプターのようなものだ」と言って、一転「北風政策」にシフトしてしまった。

文大統領も、金泳三元大統領と同じ轍を踏まないとの保証はない。