2017年6月29日(木)

 金正恩委員長の裏金を担当した党「39号室」元幹部の「証言」

北朝鮮が貿易拡張のため建造した5千トン級の貨物船


金正恩委員長の統治資金(裏金)を調達、管理する党「39号室」で燃料の調達を担当していた元党幹部が米国の声(Voice of America)のインタビューで北朝鮮は1990年代からシンガポールの会社を通じてロシアから原油20万〜30万トンを輸入していたことを明らかにした。

ロシアから輸入される原油の多くは軽油でウラジオストクやナホトカから運ばれ、自動車や船舶、列車の燃料として北朝鮮では使われていた。

現在、米国に亡命しているこの元党幹部は「39号室」で大興総局貿易管理局局長を務めた李正浩(リ・ジョンホ)氏で、ロシア極東からの燃料調達だけでなく、中国への石炭輸出、さらには日朝貿易にも携わっていたことで知られる北朝鮮の対外経済エキスパートの一人。李正浩氏は2014年に韓国に脱北した後、2年後の昨年(2016年)3月に米国に渡っていた。

顔も身元も公開した李氏(59歳)はVOAとのインタビューで自身の経歴を詳細に語っているが、1998年から2004年まで7年間、「39号室」で大興総局貿易管理局局長を務めた後、2007年には金正日総書記に直接任命され、国防委員会所属の金剛経済開発総会社理事長に就任するほど金総書記の信頼が厚かった。事実、李氏は2002年には北朝鮮の最高勲章である「労力英雄」の称号を授与されている。

韓国に2014年10月に脱北するまで中国大連駐在大興総会社支社長の座にあった李氏は亡命の動機から国連の経済制裁の影響にまで踏み込んで証言しているが、亡命の直接的動機については2013年12月の張成沢党部長(国防副委員長)の粛清に伴い多くの幹部やその家族らが高射銃で処刑されたことや息子の友人家族らが政治犯収容所に送られたことに大きな衝撃を受け、「私も家族もそうした悲劇的状況をこれ以上、見たくない」と思ったことが原因とのこと。李氏は、金日成―金正日時代にも粛清、処刑はあったが、金正恩政権下の迫害は「前代未聞」と語っていた。

李氏は自身が務めていた「39号室」が一部では言われている不法手段による資金調達機関であるとの説について「事実とは違う。国家指導者の統治資金を管理し、外貨獲得のための生産と貿易を指導する合法的な機関で、その直属上官が最高指導者(金委員長)で、その下で数十万が仕事に従事している」と否定した。

「39号室」の組織はピラミッド型で、中央機関には金剛総局、大聖総局、大聖銀行、対外建設総局などを含め牡丹指導局、先峰指導局、大慶指導局、柳京指導局、楽園指導局などがある。「39号室」の中央機関責任者らはその規模に従い、長官、次官級の待遇を受ける。

一部で取り沙汰されている麻薬や偽札や偽タバコなどは「39号室」とは関係のない、特殊機関で行われており、北朝鮮指導部も「小さなことのために大きなものを失い、労働党のイメージが損傷する」との判断に基づき「39号室」では不法経済活動をしないよう厳格に統制しているとのことだ。

「39号室」は銀行業務も行っているが、外国の銀行だけは正常な銀行業務ができないため個人口座をつくるか、取引相手に頼み、仮名口座を幾つか開設して取引しているとのことである。

李氏は北朝鮮の外貨獲得手段である鉱物資源の輸出について「北朝鮮の輸出は1年におよそ30億ドル、そのうち鉱物が占める比率は45%に達しているが、北朝鮮の炭鉱は生産規模も大きくなく、設備も良くない。炭鉱らの労働環境も劣悪で、生産性も低い。それでも2008年に中国での五輪を機に石炭の需要が伸びたことから競って石炭輸出に乗り出したことであちらこちらで小規模の炭鉱ができた。一部では浮浪孤児らを連れてきて、食べ物を与え、仕事をさせたりしたことから物議をかもしたこともあった」と証言している。

国連安保理が制裁対象として石炭など鉱物の輸入を規制する措置を取っているが、「対北制裁が北朝鮮指導部に打撃を与えているか」とのVOA記者の質問に「今、鉱物を輸出している会社の多くは軍隊の会社や特殊機関に属する会社である。鉱物資金が入ってこそ、北朝鮮指導部が推進している対象建設物に、核とミサイル開発など国防部門に、さらには軍隊の維持費として資金が充当できるが、それが詰まれば当然影響を受けることになる。対北制裁が続けば、政権の機能が弱体化し、個人の市場活動空間が広がり、不正腐敗や無秩序が乱舞することになる。そうなれば、政権の統制機能が弱まり、首領(指導者)中心の体制基盤が揺れることになる」とその効果を語った。

また、中国の対北制裁については「中国政府がこのまま米国に便乗して対北制裁を続けるとは思えない。中国の戦略的目的が米国と異なるためだ。中国は北朝鮮よりも朝鮮半島全体を中国の影響圏に編入させようとの戦略を持っている。今でも北朝鮮を利用して、韓国を自国の影響圏内に取り込もうとしている。中国が北朝鮮の政権を崩壊させて得るものは何もない。むしろ、韓国や米国にその場を奪われるだけだ。従って、中国はレッドラインを越えないだろう。北朝鮮指導部もそうした中国の戦略とジレンマを知っている」

李氏は北朝鮮が核を持っても、韓国に対しては使用しないとの韓国国民の楽観論について「仮に北朝鮮指導部が制裁と圧迫にこれ以上堪えられないと判断すれば、最悪の選択として核で韓国を攻撃し、統一を試みるかもしれない。彼らの核攻撃目標が常に韓国に向けられているのは明白な事実である」とくぎを刺した。