2017年5月4日(木)

 北朝鮮の核ミサイルが北京に向けられる日

一度も首脳会談したことのない金正恩委員長と習近平主席


くすぶっていた中朝関係の悪化がマグマが噴出するかのように一気に表面化した。北朝鮮が国営メディアを通じて初めて中国を名指しで、それも全面的な批判を展開したからだ。

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は昨日(3日)、北朝鮮が核実験を強行した場合、原油供給を止めるべきとか、中朝友好相互援助条約を見直すべきと、中国の国営メディアが連日、報道していることに「我々を露骨に威嚇している」と強く非難する論評を伝えた。

北朝鮮が中国の対応に不満を表明したのは何も今回が初めてではない。過去にも何度もあった。

(参考資料:中国はもはや同盟国にあらず 北朝鮮の「反中・嫌中語録」

例えば、金正恩政権となった2012年4月に金日成主席生誕100周年に際して「衛星」(テポドン)を発射した際も「国連安保理常任理事国は米国の対朝鮮敵視政策に便乗し、我々の自主権と平和的宇宙及び核利用権利を侵害する不法行為を行った。深刻なのは、常任理事国が公正性からかけ離れ、絶え間ない核脅威恐喝と敵視政策で朝鮮半島核問題を作った張本人である米国の罪悪については見て見ぬふりして、米国の強盗的要求を一方的に後押ししていることだ。無視できないのは、国連安保理が米国の策動に追随し、主権国家の自主権を乱暴に侵害したばかりか、我が共和国の最高利益である国家と民族の安全を直接侵害する道に入ったことだ」との外務省スポークスマン談話(5月6日)を出して、北朝鮮非難・制裁に賛同した中国を露骨に批判していた。

また、翌年も、国防委員会の声明(2013年1月24日)で「一極化世界を企む米国と他の核保有国らはお互いに対峙する国家利益と理念を持っている。しかし、他の国の核保有についてはいかに相手が長い付き合いの友であっても、また、その国の生死存亡がかかっていたとしても、意に介さず、お互いに野合し、必死で妨害している。19世紀の欧州のブルジョア政治家が『永遠の聯盟はない。あるのは永遠の利益だけだ』と言ったことがある。今日の核大国はこの政治家の説教とおり、動いている」との対中批判を展開していた。

国防委員会は習近平主席が訪韓した2014年にも中韓首脳会談での共同声明に反発し、「我々の正々堂々とした自衛力強化措置にケチをつけるな。すでに公正性を喪失して久しい安保理を立て、主体性もなく複雑な騒動を起こし、世論を誤導し、拡散しようとしている。このような奇怪な騒動に一部節操のない国が盲従し、米国が描くお尻を追いかけ、哀れな立場に置かれた朴槿恵を抱きかかえようとつまらないことをしている」(7月21日)と辛らつに批判していた。

党機関紙の労働新聞もまた「何人かが共謀結託、こそこそ話をして我々の核を奪うと取引していることそのものを絶対に容認しない。米国にへつらい、体面も捨ててしまった者は我々の核放棄を夢見るな」(2015年3月28日付)と個人筆名の論説で対中批判を展開していた。

それでも直接名指しすることは避けていた。それだけに北朝鮮の習近平政権への不満が極度に達していることが窺い知れる。

北朝鮮は昨日の朝鮮中央通信論評で「核は尊厳と力の絶対的象徴であり、最高の利益である」として、中国が説得しようが、圧力を加えようが「国家の存立と発展のための我々の核保有路線を変更することも揺るがすこともできない」としている。

また、「朝中親善がいくら大事とはいえ、命である核と変えてまで中国に対し友好関係を維持するよう懇願する我々ではない」として中国に対して「制裁を強めれば手を上げて、関係復元を求めてくると期待することこそ幼稚な計算である」と反発していた。ということは、北朝鮮の次の核実験は原油供給中止などの制裁覚悟の上での実験となる。

その中国は北朝鮮の核実験も核保有も認めることはない。その証拠に北朝鮮はこれまでに5度核実験を行ったが、中国は国連安保理の非難・制裁決議に一度も拒否権を発動したことも、棄権したこともない。「国際社会の普遍的な反対を無視し、勝手に核実験を実施した」との最初の核実験(2006年10月)の際の中国の立場は胡錦濤政権から習近平政権になった今も不変だ。

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報は3度目の核実験の際(2013年2月12日)には社説で「北朝鮮政府が核実験を強行した場合、中国は関係断絶もいとわない」と異例の批判を行い、中国共産党中央党校が発行する「学習時報」の副編集長は英紙フィナンシャル・タイムズに寄稿した論文(2013年2月28日)で「北朝鮮との地政学的な同盟が中国の戦略的安保だとする価値観はもはや時代遅れだ」と断言し「北朝鮮の3度目の核実験を機に、中国は金(正恩)王朝との同盟関係を見直すべきだ」とまで主張した。

中国全国人民政治協商会議の賈慶國常務委員に至っては「韓国は北朝鮮が挑発を行った場合、北朝鮮に報復できるよう徹底的に準備しておくべきだ」と述べ、驚いたことに「北朝鮮と衝突が起きたら、米中など関連国家から国際的支援を確保しておくべきだ」とまで言い切っていた。

北朝鮮の3度目の核実験に怒ったのか、習主席もまた、2013年6月に米カリフォルニアで開催された米中首脳会談でオバマ大統領に対して「経済的手段を使って、若い金正恩氏を屈服させる」と約束したと米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は2013年6月9日付(現地時間)で伝えていた。

北朝鮮が中国の警告を無視して、6度目の核実験に踏み切れば、取り沙汰されているように米国のミサイル基地や核施設へのピンポイント攻撃や「斬首作戦」を含む金正恩政権のレジームチェンジを黙認することもあり得なくもない。

(参考資料:作動する米中合作の「金正恩除去隠密作戦」

北朝鮮は北朝鮮で2014年6月5日に出された労働党中央委員会内部指示で「習近平(主席)は文化大革命の時に受けた被害を中国共産党の弾圧と思っている人物である。今の中国は我々の核自衛力までも米国と一緒になって誹謗中傷する悪い隣人ある。過去中国共産党は金日成、金正日大元帥様らと抗日伝統で結ばれ継承された革命的友誼関係にあったが、今の中国共産党は改革開放の概念よりもカネを一番に置く習近平式利己主義の党である」とみなしていることでもわかるように心底からあてにしてないことがわかる。

北朝鮮は中国が反対しようが、核・ミサイル開発を断念する考えは毛頭ないようだ。

朝鮮中央通信は先月21日にも「我々の意志を誤判し、どこかの国(米国)に乗せられ、我々に対して経済制裁に走れば敵から拍手喝采を浴びるかもしれないが、我々との関係に及ぼす破局的な関係を覚悟せよ」と警告していた。

両国の関係が極度に悪化し、中国が仮想敵国となれば、北朝鮮の核ミサイルが本当に北京に向けられる日が来るかもしれない。

(参考資料:中国が北朝鮮を突き放せない5つの理由