2017年11月2日(木)

 北朝鮮はソウル五輪同様に平昌五輪もボイコットか!―その三つの理由

スタートした韓国国内での平昌五輪聖火リレー


 平昌(ピョンチャン)冬季五輪開催(2018年2月9日〜25日)まで100日となる11月1日、聖火リレーが韓国国内でスタートした。

 北朝鮮の核問題を巡り朝鮮半島で米朝軍事衝突の危険性が取り沙汰されている最中、ドイツやオーストリア、フランスなど欧州の一部の国から参加を不安視する声が上がっているが、平昌五輪が成功裏に行われるかは偏に北朝鮮の参加にかかっているようだ。

(参考資料:韓国でまたまた米国人の疎開訓練!ハワイでは核攻撃に備えた退避訓練!

 南北関係改善を公約に掲げて発足した韓国の文在寅政権は平昌五輪を南北融和の場にするためスキーなど一部競技の北朝鮮での分散開催から南北統一チームの結成、さらに共同入場行進など様々なプランを検討したもののどれもこれも実現不可能とわかり断念。今は、北朝鮮が自発的に参加するのを待つのみだ。仮に北朝鮮が不参加を決定すれば、平昌五輪に暗雲が漂うことになる。

 このため韓国は文大統領が自ら北朝鮮に向かって参加を呼び掛ける一方、今日(11月2日)からプラハで開かれる各国オリンピック委員会連合(ANOC)総会に金日国体育相率いる北朝鮮代表団が参加するのを機に国際オリンピック委員会(IOC)と共に平昌五輪への参加を促すことにしている。IOCもまた、北朝鮮が平昌五輪に参加する場合、費用を全額負担する意向を明らかにするなど北朝鮮への働き掛けを行うようだ。

 韓国の五輪組織委員会は北朝鮮がドイツ国際大会に選手らを送り、フィギュアスケートペアで出場枠を手にしたことや、IOCが国際競技連盟と協議し、ショートトラックやノルディックスキーなどの種目で北朝鮮選手にワイルドカードを与えることも検討していることから北朝鮮の参加に期待を寄せているが、成否のカギを握る北朝鮮は参加可否についてまだ態度を明らかにしてない。再三にわたる韓国側の呼び掛けにも無反応のままだ。

 一部では、フィギュアスケートペアで平昌五輪の出場枠を獲得したことから出場権を行使するとの意向を国際スケート連盟に通知したとの報道もあるが、確認は取れてない。韓国統一部の白泰鉉報道官も北朝鮮側から参加可否の連絡はないかとの記者らの質問に「具体的な動向はまだ把握されていない」と答えていた。

 過去のケースからすると、不参加の可能性の方が高いと言える。その理由は大きく分けて3つある。

 一つは、朝鮮半島での軍事・政治的対立が解消されてないことにある。

 IOC委員でもある北朝鮮の張雄(チャン・ウン)国際テコンドー連盟(ITF)名誉総裁は9月にペルーのリマで開かれたIOC総会に出席した際に「スポーツと政治は別だ。平昌五輪に何らかの問題が生じるとは思わない」と韓国の記者らに語っていたが、これはIOC委員としての建前を語ったものであり、次の「平昌五輪が選手にとって安全な場所となるか」との質問への「スポーツマンとしてはそれを期待しているが、誰もわからない」との回答が本音ではないだろうか。

 北朝鮮はそもそもスポーツと政治は別物とは捉えてない。何よりも政治優先のお国柄である。その典型的なケースが古くは、1988年にソウルで開催された夏季五輪である。

 名古屋と競って勝ち取ったソウル五輪は「分断国家での開催は朝鮮半島の平和及び南北統一に寄与する」というのが韓国の招致、開催のキャッチフレーズであった。しかし、北朝鮮は提唱していた南北共同開催案が霧散すると、ソウル開催を阻止する目的で大韓航空機爆破事件を引き起こした。結果として、ソウル五輪は南北融和・平和どころから、対立が一層深まってしまった。

 また、2000年の史上初の南北首脳会談(5月)の結果、その年の9月に開催されたシドニー五輪で初めて実現し、04年のアテネ五輪にも引き継がれた南北共同入場行進も北京五輪(2008年)で途切れてしまったこともその一例である。

 原因はこの年の2月に発足した李明博政権が金大中―盧武鉉政権下での約束・合意事項を再考すると言ったことに北朝鮮が猛反発し、韓国との政府間対話、交流を一切拒否してしまったことにある。

 李明博−朴槿恵政権下で断絶した南北関係は文在寅政権下にあっても好転する兆しはない。「文在寅も朴槿恵と何ら変わらない」として軍事会談も赤十字会談も拒絶した金正恩政権が態度を軟化させ、南北スポーツ会談に応じて、平昌五輪への出場を決めるとは考えにくい。何よりも、トランプ大統領に同調して北朝鮮に対して制裁と圧力を強めている文在寅大統領に金正恩委員長が花を持たせる理由が見当たらない。北朝鮮にとっては金委員長が文大統領の露払いをするのはその逆はあっても、あり得ないのではないだろうか。

 二つ目の理由は、平昌五輪終了(2月25日)後に恒例の米韓合同軍事演習が予定されていることだ。

 毎年演習は早ければ2月末から遅くとも3月初旬にはスタートする。

 周知のように米韓合同軍事演習は昨年から北朝鮮への先制攻撃のための作戦や金委員長を除去する斬首作戦などが取り入れられている。演習を中止するなら、核実験を止めても良いと言うほど猛反発している合同軍事演習をそのまましての直前の平昌五輪への参加はあり得そうにもない。まして、「平昌五輪終了後に米国の軍事攻撃があるかもしれない」との噂が飛び交っているならなおさらのことである。

(参考資料:秘密裏に行われていた米特殊部隊による「斬首作戦」訓練!

 三つ目は、参加してもメダルの獲得が望めないことだ。

 北朝鮮にとってスポーツは参加することに意義があるのではなく、一にも、二にもメダルを取ることにある。「たかがスポーツではなく、されどスポーツ」で、選手やコーチらには優勝すること、メダルを獲得すること、世界一になること、チャンピオンになることが常に求められている。それもこれも国威発揚に繋がるからである。

 出場枠を手にしたフィギュアスケートペアを含めて仮に幾つかの種目でワイルドカードを与えられて、何人かが出場できたとしてもメダル獲得の可能性はゼロに近い。前回、友好国のロシアで開催されたソチ五輪にも参加しなかったことからも明らかなようにメダルが見込めない大会には選手を派遣しないのではないだろうか。

 主催国の韓国がメダル獲得数でおそらく上位5位に入ることを考えると、南北の格差を曝け出すような大会に費用を全額負担してもらっても出るほど金正恩政権は寛容ではないし、その余裕もないだろう。

 ここ1〜2ヶ月の間に朝鮮半島の一触即発の現状が緩和されない限り、南北の対立が解消され、関係が改善されない限り、また、米韓合同軍事演習が中止されない限り、現状では北朝鮮が平昌五輪に参加する可能性は極めて低い。