2017年11月28日(火)

 いつまで続く不気味な北朝鮮の沈黙

「史上最高の超強硬対応措置」を公言した金正恩委員長


 北朝鮮が9月15日の中距離弾道ミサイル「火星12号」の発射を最後に弾道ミサイルの発射を自粛、自制している。

 自粛理由については主に▲米国の軍事攻撃を恐れているため▲米国との対話再開のため▲次なるミサイルの発射準備に時間を要しているための三つの説が流れていた。

 そうした最中、日本政府は昨日(27日)、弾道ミサイル発射準備をうかがわせる電波信号が捕捉されたことから「ミサイル発射があり得る」と警戒を強め始めた。共同通信が政府関係者の話として伝えたところでは「数日内の発射もあり得る」とのことだ。

 信号が捕捉されたものの発射に至らなかったケースもあることから即断は許されないが、北朝鮮のこれまでの言動や過去のケースからすれば発射準備が整えば、いつボタンを押しても不思議ではない。

 太平洋上の米軍基地グアムを制圧する訓練として8月29日に「火星12号」を正常角度で発射させた北朝鮮は9月15日に「火星12号」を太平洋に向けて再発射させたが、北朝鮮外務省は直前にそれを示唆する声明や談話を連発していた。

 外務省の外郭団体である平和統一委員会は9月7日に国連安保理が北朝鮮に対して制裁決議を採択すれば「米国にとって耐えられない、類例のない断固たる措置を取る」との声明を出したのに続き、外務省も9月11日に「それ相応の代価を払わす」と対抗措置を取ることを示唆する声明を出していた。

 北朝鮮はこの9月15日の「火星12号」発射以来、行動は鳴りを潜めているものの、決して音なしの構えであったわけではない。対抗措置の予告は絶え間なく続いていた。

 例えば、トランプ大統領の国連総会での「ロケットマン」や「破壊する」発言に反発した金正恩委員長は9月21日に「我が国家と人民の尊厳と名誉、そして私自身の全てを賭けて必ずその代価を支払わす」と述べた上で、「史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮する」と発言していた。

 先月(10月)も労働新聞が12日付で「制裁と封鎖、軍事圧力の策動を水の泡にし、国家核武力の完成目標を我々がどう完成させるか(米国は)自分の目で見ることになるだろう」と予告し、6日後の18日には全民族非常対策委員会なる団体の名で「我々の適切な自衛的行動は任意の時刻に断行されることを(米国は)瞬時も忘れてはならない。予想外の時刻に想像できない打撃に直面することを覚悟しておくべきだ」と警告していた。

 労働新聞は23日付でも「侵略者、挑発者のヒステリー的な戦争(に向かおうとする)狂気が絶えず続いている中、それに伴う我々の適切な自衛的行動が任意の時刻に想像を超えた打撃で断行されることになるだろう」と触れていた。

 今月(11月)に入っても米国への対決姿勢を鮮明にしており外務省代弁人は12日に「米国との対決で必ず最終勝利を収める」との談話を出したのをはじめ15日付の労働新聞の論評に至っては「米国は最も望まないものを身の毛がよだつほど体験することになる。悪夢で思い浮かべた物凄い光景を確実に見ることになる」と予告していた。

 米国が最も望まない「身の毛がよだつほど体験」や「悪夢で思い浮かべた物凄い光景」が何かについては李容浩外相が国連総会出席の際に「歴代最大級の水素爆弾の地上実験を太平洋上でやるのでは」と個人的な感想を述べていたことや北朝鮮外務省の外郭機関「米国研究所」の李容弼副所長が平壌での米CNNとのインタビューで「李外相は最高尊厳(金正恩委員長)の意を良く知っているからこそ李外相の言葉を文字通り受け取るべきだ」と語っていたことから太平洋上の水爆実験も想定されている。

(参考資料:北朝鮮は本当に「太平洋上の水爆実験」をやる気なのか?

 また、北朝鮮戦略軍司令官が8月10日に予告していた「火星12号」を4発、グアム近海に落とす計画を実行することもあり得るし、すでに7月4日、28日と2度にわたってロフテッド方式による発射実験を行った2段式の大陸間弾道ミサイル「火星14号」の太平洋上に向けた正常発射も考えられる。

 「火星14号」はロフテッド方式による発射で飛行時間47分12秒、高度は3,724km、水平距離は998.47kmあった。正常角度で発射すれば、飛行距離は1万km以上と言われ、米本土に届くと言われているが、まだ一度も正常角度による発射は行われてない。

 ちなみに「火星12号」はロフテッド発射(5月12日)から正常角度による発射(8月29日)に移るまで109日間かかった。「火星14号」の2度目のロフテッド発射(7月28日)からすでに123日経過している。準備期間としては十分である。

 さらには、3段式の固体燃料による「火星13号」の初の発射実験もスタンバイの状態にある。新型の潜水艦弾道ミサイル「北極星3号」も完成しているならば、発射実験もその前後に行われるだろう。

 核実験についても「水爆実験」に目を奪われているが、咸鏡北道吉州郡豊渓里の核実験場では一度も使用されてない3番(西側)と4番(南側)の坑道が整備中であることからもう1〜2回の実験が予想されている。

 李容浩外相は10月12日、訪朝したタス通信代表団とのインタビューで「米国との力の均衡を維持する。最終目標はゴール寸前にある」「核武力完成の歴史的課業を成功裏に終わらせる」と発言していた。

 米韓連合軍は今月11日から14日までの間、原子力空母3隻、イージス艦12隻を動員して朝鮮半島沖で大規模の海上演習を実施したのに続き来月4日から8日までステルス戦闘機「F−22」や「F−35A」「F−35B」など最新戦闘機を沖縄やグアム、米本土から出撃させ、北朝鮮攻撃に向けた「Vigilant ACE」と呼ばれる訓練を韓国で実施する。

 この史上最大規模の連合訓練には米空軍、海軍及び海兵隊兵力1万2千人以上が参加し、米韓両軍合わせて230機が出撃するが、こうした米韓による軍事プレッシャーの中、北朝鮮がミサイル発射を強行すれば、朝鮮半島は一触即発の状態に陥るだろう。

(参考資料:トランプ大統領は米議会の同意なく北朝鮮を攻撃できるか