2017年11月9日(木)

 韓国国会での「トランプ発言」に北朝鮮はどう出る!

究極のチキンレースを展開するトランプ大統領と金正恩委員長


 トランプ大統領の昨日(8日)の韓国国会での演説は33分のうち24分は北朝鮮に費やしていた。それも金正恩委員長への痛烈な批判に終始していた。

 金委員長を「残酷な独裁者」「腐敗した指導者」「残忍な暴君」と呼び、北朝鮮を「悪漢体制」「悪党体制」と切り捨て、飢餓、貧困から収容所、脱北、拉致問題などの人権問題に踏み込み「腐敗した指導者が圧政とファシズム、弾圧の下で国民を牢獄に入れている」と扱き下ろしていた。

 注目の核・ミサイル問題でも「軍事力の行使」という直接的な表現こそ使わなかったものの以下のように米国の強い決意を北朝鮮に見せつけていた。

(参考資料:トランプ大統領は米議会の同意なく北朝鮮を攻撃できるか

 「我々の政権はこれまでの政権とは違う。我々を過小評価する!我々を試そうとするな!歴史はから見捨てられた体制は多い。それらの体制は愚かにも米国の決意を試した体制だ。米国の力、米国の決意を疑うものは我々の過去を振り返ってこれ以上、疑ってはならない」

 「我々は(北朝鮮が)米国と同盟国を脅迫し、攻撃するのを許さない。我々は米国の都市が破壊の脅しを受けるのを許さない。我々には脅迫は通じない。世界は悪党体制の脅しに寛容ではない。核惨禍で世界を脅かす体制の脅威に寛容ではない。我々は残忍な暴君の野心から国民を守る準備ができている」

 「責任ある国家は力を合わせるべきだ。北の残酷な体制を孤立させなければならない。(北朝鮮への)いかなる支援、供給、容認を断ち切るべきだ!」

 トランプ大統領は北朝鮮を圧迫する一方で文在政権への配慮から一応対話も呼びかけていたものの北朝鮮の全面降伏を前提としたものであった。

 そのことは「お前が持っている核兵器はお前を守るのではなく、お前の体制を深刻な脅威に陥れている。暗い道に向かう一歩一歩はお前が直面する脅威を増加させるだろう。北朝鮮はお前の祖父が描いていた天国ではなく、誰も行ってはならない地獄である」と核開発を批判したうえで「お前が神や人類に対して犯した罪にもかかわらず我々には良い未来のための機会を提供する準備ができている。その出発は攻撃を終息させ、弾道ミサイル開発を中止し、完全かつ検証可能な形で非核化することだ」と言っていることからも明らかだ。北朝鮮が核実験やミサイル発射などの挑発を止め、核を放棄しなければ、対話には応じないとの姿勢を鮮明にしていた。

 今のところ、北朝鮮からの反応はまだない。トランプ大統領が9月19日に国連総会の場で北朝鮮を批判した際には2日後に金委員長自らがTV前に登場して、反論の声明を読み上げていた。 

 国連総会での演説ではトランプ大統領は41分のうち北朝鮮問題に5分間時間を割き、北朝鮮を「不良国家」「犯罪者集団」「完全破壊」「堕落した政権」などの用語で露骨に非難し、金委員長を「ロケットマン」と呼び「ロケットマンは自分と自身の政権にとって、自殺行為となる任務を遂行している」と皮肉り、「我々は米国と同盟国を防御すべき状況になれば、選択の余地はなく北朝鮮を完全に破壊するだろう」と言ってのけた。

 この発言に対して金委員長はトランプ大統領を「火遊び好きな放火魔」「チンビラ」「臆病な犬」「老いぼれた狂人」と罵倒したうえで次のように敵意を露わにした。

 「一つの主権国家を完全に壊滅するとふざけたことを言う大統領の精神病的狂態は正常な人間ですら知り分別と落ち着きを失ってしまう。臆病な犬ほどうるさく吠えるものだ」

 「トランプに警告しておくが、世に向かってものをいう場合は、該当する言葉を慎重に選び、相手をみてからものを言え!トランプの発言は私を驚かすことも、止めることはできないどころか、私が選んだ道が正しく、最後まで行くべき道であることを確認させてくれた」

 「トランプが世界の面前で私と国家の存在自体を否定し、冒涜し、我が共和国を消してしまうと歴代で最も暴悪な宣戦布告をしてきた以上、我々もそれに相応する史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮する」

 「私は我が国家と人民の尊厳と名誉、そして私自身の全てを賭けて、我が共和国の絶滅を騒いだ米国の統帥権者(トランプ大統領)の暴言に対して必ずその代価を払わす。トランプが何を考えていたとしても、(彼は)それ以上の結果を目にすることになるだろう。米国の老いぼれた狂人を必ず、必ず火でしずめるだろう」

 トランプ大統領の「北朝鮮を破壊する」発言を「宣戦布告」とみなし、「我々もそれに相応する史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮する」との金委員長の発言は大きな波紋を呼んだことは周知のとおりだ。

 この「史上最高の超強硬対応措置」について北朝鮮の李容浩外相が国連総会での演説を前に個人的な感想として「おそらく歴代最大級の水素爆弾の地上実験を太平洋上でやるのでは」と述べたことから「太平洋上の水爆実験」の可能性が取り沙汰されていた。

(参考資料:北朝鮮は本当に「太平洋上の水爆実験」をやる気なのか?

 しかし、北朝鮮は史上初の最高指導者の名による声明で「国家と人民の尊厳と名誉、そして自身の全てを賭け、言葉ではなく、行動で示し、トランプに必ずそのツケを払わす」と大見得を切ったものの今もって行動には出てない。

 一度ならず、二度も罵倒されたことで金委員長が切れて、行動に出るのか、それとも事態を静観するのか、北朝鮮の反応が注目されるところだが、ICBMの発射にせよ、核実験にせよ、次に行動を起こせば、トランプ政権の軍事オプションは確実に作動することになるだろう。従って、北朝鮮はよほどの覚悟がなければ、原子力空母3隻が朝鮮半島近海で展開している状況下でのミサイル発射はできないだろ。裏を返せば、北朝鮮の覚悟次第では一気に開戦という事態も想定される。

 「嵐の前の静けさ」はいつまで続くのだろうか。

(参考資料:北朝鮮の「史上最高の超強硬対応措置」で米朝軍事衝突は不可避!