2017年10月26日(木)

 北朝鮮は本当に「太平洋上の水爆実験」をやる気なのか?

米国のネバタ核実験


 米CNNは昨日(25日、現地時間)、北朝鮮外務省の外郭機関「米国研究所」の李容弼副所長との平壌でのインタビュー内容を伝えたが、李副所長は金正恩委員長が公言した「史上最高の超強硬対応措置」について李容浩外相が国連総会出席の際に個人的な感想として「おそらく歴代最大級の水素爆弾の地上実験を太平洋上でやるのでは」と発言していたことについて「世界はその言葉を文字通り受け取るべきだ」と答えていた。

 CNNは「李副所長の表情は怒っていて、全世界に向け深刻な警告をしていた」とこの言葉を発した時の彼の印象を伝えていた。

 CNNによると、李副所長は李外相について「最高尊厳(金正恩委員長)の意を良く知っている」として「だからこそ、李外相の言葉を文字通り受け取るべきだ」と伝えていた。

 李副所長は北朝鮮が超強硬措置を検討している理由について「米国は軍事オプションを示唆し、実際に軍事行動を実行しており、また制裁を加えながら全方位で我々を圧迫している。これが外交に帰結すると考えるのは大いなる錯覚である」として、制裁と圧力を強化することで北朝鮮に核武装路線を転換させ、対話の席に着かせるとのトランプ政権に屈しない姿勢を示した。

 さらに、CNNはティラーソン国務長官が先月(9月)30日に「北朝鮮とは直接対話できるチャンネルが幾つかある。ブロックアウトという暗澹な状況ではない」と北朝鮮との対話による解決策を模索している趣旨の発言をしていたが、李副局長の発言は「米朝間に外交チャネルが存在してないことを暗示していた」と伝えていた。

 金正恩委員長の「史上最高の超強硬対応措置」の発言は国連総会でのトランプ大統領の「北朝鮮を破壊する」発言への反発、対抗上のもので金委員長自身が太平洋上の水爆実験を言及したわけではない。金委員長は太平洋上で水爆実験を行うとは一言も言ってない。

 太平洋上の水爆実験はこれまでの北朝鮮国内での核実験や公海に落としていた弾道ミサイルの発射実験とは異なり全世界を敵に回すことになる。冷戦時代の1950〜63年までの米露は空中爆発実験を行っていたが、1963年に米露英3か国の間で部分的核実験禁止条約が署名され、大気圏及び宇宙空間、水中での核実験が禁止された。大気圏の核実験は1980年の中国を最後に実施されてない。それを強行すれば、北朝鮮はまさに「人類共通の敵」として指弾されるだろう。

 太平洋上の大気圏(100km)内もしくは水中で核実験をやった場合、環境汚染による物的、人的被害は甚大だ。太平洋上で核実験をやる場合は、放射能被害を最小限度に抑えるため大気圏外(宇宙空間で)で爆発させなければならない。従って、数百km上空で威力の弱い核兵器を爆発させる可能性は考えられなくもない。しかし、それでも核爆弾が炸裂した際に発生する電磁波によって広範囲の地域で被害が発生する。ロシア(旧ソ連)が1961年に水爆実験をやった際にアラスカの早期警報レーダーと半径4000km内の長距離高周波通信が1日以上も断絶される被害にあった。

(参考資料:北朝鮮はEMP(電磁パルス)弾を開発していた!

 北朝鮮が今年9月3日に行った6回目の核実験(水爆)の爆発規模は150〜200キロトンだ。この規模の水爆実験を空中でやれば、アラスカやハワイなどで電磁波被害が発生する。旅客機の墜落もあり得る。当然、懲罰として米国の軍事攻撃を覚悟しなければならないだろう。

 しかし、それでも仮に金委員長が本気で太平洋上の水爆実験を計画しているならば、核戦力(核ミサイル)完成のフィナーレとして行うことになるだろう。

 李容浩外相は10月に訪朝したタス通信代表団とのインタビュー(11日)で▲米国との力の均衡を維持する最終目標はゴール寸前にある▲核武力完成の歴史的課業を成功裏に終わらせると発言していることや北朝鮮が再三にわたって「世界は我々がどのように米国を罰するかを、しっかりと目の当たりにすることになる」(外務省声明)と公言し、党機関紙「労働新聞」(10月12日付)も「制裁と封鎖、軍事圧力の策動を水の泡にし、国家核武力の完成目標を我々がどう完成させるか(米国は)自分の目で見ることになるだろう」と予告していることから太平洋上の水爆実験が決してないとは言い切れない。

 昨日、アジア太平洋地域の諸問題を扱うオンライン誌「ディプロマット」は北朝鮮が今月中旬、固体燃料を使ったエンジン燃焼実験を実施したと報じていた。

 実験が日本海に面した東部・咸興で行われたことや、この夏に同じく東部の新浦造船所で潜水艦弾道ミサイル(SLBM)の射出実験が数回行われていたことから新たに開発されたSLBM「北極星3」用のエンジンを試した可能性があると伝えられているが、SLBMによる水爆発射は水爆のミサイル弾頭装着能力が検証されてないため実現性は乏しい。

 むしろ、まだ一度も発射テストされない三段式の大陸間弾道ミサイル「火星13」が液体燃料の「火星12」や「火星14」とは異なり固体燃料を使用すること、また水爆が「火星13号」搭載用であることが8月に金正恩委員長が国防科学院化学材料研究所を訪れた際に確認されていることから「火星13」を使う可能性が考えられる。

 「想像すらできない強力な対抗措置」(外務省声明)を示唆する北朝鮮が「最終手段も辞さない」との決意を固めているならば「太平上の水爆実験」を単なる脅し、ホラと片づけるわけにはいかないかもしれない。

(参考資料:北朝鮮の「史上最高の超強硬対応措置」で米朝軍事衝突は不可避!