2017年10月30日(月)

 「米軍基地から本土、そして核攻撃」へと過激化する北朝鮮の対日非難

党中央軍事委員会を主宰する金正恩委員長


 北朝鮮の対日非難が年々エスカレートし、エキセントリックかつヒステリックになっている。

 北朝鮮の対米・対日窓口機関でもある朝鮮アジア太平洋平和委員会は一昨日(10月28日)、報道官談話を発表し、安倍政権に対して「米国の手先となって軽率に振る舞えば日本列島がまるごと海中に葬られかねない」などと恫喝していた。この団体は先月(9月14日)も「日本は制裁を主導する米国の言いなりになっている」と憤慨した挙句、「日本列島の4つの島は、核爆弾によって海に沈むべきだ」と威嚇していた。

(参考資料:北朝鮮の対日核攻撃はあり得るか!?

 対日批判のオクターブが高まる理由は、安倍政権が経済制裁、外交圧力、軍事プレッシャーの3本の矢で北朝鮮に核放棄を迫るトランプ政権に同調し、側面支援していること、それが功を奏しない場合の選択肢である軍事オプションにも理解、支持を表明していることへの苛立ちであることは言うまでもない。

 日本政府が国連安保理で米国と共に制裁決議を主導し、北朝鮮と国交のある160余国に対して外交関係や経済関係を断つよう働きかける一方で、朝鮮半島有事が現実になった場合、北朝鮮攻撃の先陣を切るB−1B戦略爆撃機や原子力空母と自衛隊が共同訓練を行い、日米安保協調体制を強めていることは公の事実で、秘密でも何でもない。

 先月の国連総会での演説で北朝鮮を「犯罪集団」、金正恩委員長を「ロケットマン」と扱き下ろし、「米国と同盟を防御すべき状況になれば、北朝鮮を完全に破壊する」と発言したトランプ大統領に連帯し、安倍晋三総理が金正恩委員長を「史上最も確信的な破壊者」「独裁者」と規定し、「全ての選択肢はテーブルの上にある」とする米国の立場への全面的な支持を表明していたことも周知の事実である。北朝鮮のミサイルが立て続けに日本の上空を飛び越えてきたことへの怒りと同時に不動の日米関係を内外にアピールするために強硬に対応せざるを得なかったと言える。

 本来ならば、日本が北朝鮮と一戦交えなければならない必然性はない。日本と北朝鮮はパレスチナとイスラエルのような不倶戴天の関係にもない。日中、日露、日韓のような領土、資源紛争もない。韓国と異なり北朝鮮を併合、統合する意思もない。侵略する意思も、能力もない。国交はないものの主権国家として尊重している。小泉政権下での「日朝平壌宣言」(2002年)も安倍政権下の「日朝ストックホルム合意」(2014年)がその証左でもある。

 さらに、北朝鮮とは国際法的には「撃ち方、止め」の休戦状態にある米韓両国と違い、日本と北朝鮮は交戦国同士ではない。従って、北朝鮮からミサイルで狙われる理由はどこにも見当たらない。ただ唯一例外があるとすれば、米韓両国が北朝鮮と交戦状態となり、日本が米韓に協力した場合のみ「北の脅威」は現実のものとなる。

 在韓米軍が駐屯する朝鮮半島で戦争が勃発すれば、在日米軍は援軍として出陣する。沖縄から海兵隊が朝鮮半島に上陸し、横須賀から空母が出動し、そして三沢など在日米軍基地から戦闘爆撃機が発進する。日米安保条約の第6条に日本の安全と、極東における国際平和と安全を維持するため米軍が日本の施設と区域を使用することが許されているからだ。日本が韓国に武器弾薬、燃料など軍需救援物資を運ぶための米軍の補給基地、兵站基地、あるいは後方基地と化すのは既成事実である。

 自衛隊が戦闘に直接加わらない後方支援であったとしても、朝鮮半島有事が現実となれば、湾岸戦争で米軍に協力したことでイラクからミサイルを撃ち込まれたサウジアラビアと同じ立場に立たされるだろう。北朝鮮が自衛隊の非軍事分野での協力も非戦闘行為も「準軍事行動」とみなすのは必至だからだ。そのことは韓国に亡命し、2010年に死去した黄ジャンヨプ元労働党書記が生前「朝鮮人民軍は戦争が起きれば、日本などに駐屯している米軍の基地を攻撃し、これらを無力化してこそ戦争に勝てると考えている」と証言していたことからも明白だ。

 朝鮮半島有事の際にはF−22ステルス戦闘機やF−15戦闘機、E−3早期警報機などが数時間内に出動できる沖縄の嘉手納基地、F−35Bステルス垂直離着陸戦闘機が配備されている山口の岩国基地、4万トン級の大型上陸艦など上陸に不可欠な艦艇が配備され、数百万トンの戦時用弾薬も備蓄されている長崎の佐世保海軍基地、原子力空母など第7艦隊の母港である横須賀海軍基地のほか、Xバンドレーダのある車力に近い青森の三沢空軍基地や横田空軍基地などが攻撃のターゲットとされている。というのも、北朝鮮は昨年2月23日の最高司令部の重大声明で朝鮮半島有事の際の第二次攻撃対象に「アジア太平洋地域の基地」、即ちグアムと在日米軍基地も含まれていることを公言していたからだ。

 北朝鮮が核爆弾の軽量化、小型化に成功し、ミサイルに搭載可能ならば、朝鮮半島有事が現実となった場合、日本の安全保障にとって死活的な脅威となる。北朝鮮はすでに日本攻撃用の「ノドン」に加えて「スカッドER」、潜水艦弾道ミサイル「北極星1」そしてその地上型の「北極星2」の4種類のミサイルを完成させ、配備してある。

 新型の中距離弾道ミサイル「スカッドER」は今年3月に4発発射され、そのうち3発が日本の排他的経済水域に落下したが、その際、北朝鮮は初めて在日米軍基地を攻撃するミサイル部隊の存在を明らかにしていた。また、人民軍総参謀部は太陽節(4月15日)の前日に発表した談話で「日本本土や沖縄の米軍基地も照準内にある」と、攻撃対象が在日米軍基地にとどまらず、日本の本土に及ぶことも初めて公言していた。

 今年5月にも、北朝鮮外務省は「これまで日本にある米国の侵略的軍事対象(軍事基地)だけが我々の戦略軍の照準内にあったが、日本が現実を正しく直視せず、米国に追従し、我々に敵対的に出るなら、我々の標的は変わらざるを得ない」と攻撃対象を米軍基地から本土にまで拡大させていた。そして、今では核攻撃を公然と言い出し始めている。

(参考資料有事の際の米韓連合軍の「地上から平壌を完全に消す作戦」

 「悪魔の爆弾」に手を掛けた瞬間、北朝鮮も金委員長も地球上から消えることを百も承知しているならば、軍事衝突での核の使用はあり得ないとは思われるが、米国家情報局(DNI)のブレーア初代局長や二代目のクラッパ―局長、あるいはスカパロッティ前駐韓米軍司令官らが証言しているように絶体絶命になれば、あるいは敗戦寸前になれば金委員長が使う恐れもあるだけに用心に越したことはない。

(参考資料:シミュレーションされた北朝鮮の核使用による日韓の被害状況