2017年10月31日(火)

 「暗殺された金正男」の息子への北朝鮮の「暗殺計画」の真偽

現在裁判中の二人の実行犯(ベトナム女性とインドネシア女性)


 韓国の大手紙「中央日報」は昨日(10月30日付)に中国公安当局が今年2月にマレーシア・クアラルンプールの空港で暗殺された金正男氏の長男、ハンソル君の殺害を北朝鮮が企てていたとして朝鮮人民軍偵察局所属工作員2人を逮捕していたと伝えていた。

 「北朝鮮モノ」を得意とする「朝鮮日報」を含め韓国のメディアは一斉に中央日報の「スクープ」を横並び報道している。

 北朝鮮は金正恩委員長の異母兄である正男氏の殺害を否定しているが、マレーシア当局は北朝鮮による組織ぐるみの犯行と断定している。下手人として逮捕された二人の東南アジア女性を除く暗殺団が全員北朝鮮に帰国してしまったため正男氏殺害の理由、目的は不明のままだが、マレーシア当局の見立て通り、北朝鮮暗殺団による犯行ならば、父親以上に「問題発言」をしている息子のハンソル君が次のターゲットにされるのではと早くから懸念されていた。

 ハンソル君が2012年にフィンランドのテレビ局とのインタビューで「叔父がどのようにして独裁者になったのか知らない」と叔父の正恩委員長を「独裁者」呼ばりしたことや亡命政府を画策する海外の脱北団体がハンソル君を父親の代わりに旗頭にしようとする動きを金正恩体制が警戒しているならば、暗殺計画があったとしても不思議ではない。

 それまで滞在していたマカオから母(キム・ヘギョン)と妹(ソルヒ)と共に身を隠し、「天里馬民防衛」なる支援団体の手を借りて出国し、台湾を経由して第三国に移ったのも命を狙われる危険性があったからで、そのことは脱出後、ハンソル君自身が米国・中国・オランダの各政府の支援に対し感謝の意を伝えていたことからも明らかである。

 一連の報道を整理すると▲暗殺団は人民軍偵察局に所属する特殊工作員▲人数は支援組、行動組、遮断組から成る7人▲7人のうち2人が中国国家安全部に逮捕され、現在は北京郊外の特殊施設で極秘に取り調べられている▲逮捕の時期は中国共産党大会(10月18-24日)期間中というのが現在までの「全容」だ。

 暗殺計画が事実だとすると、ハンソル君は巷間言われているようにオランダや、フランス、従妹のいる米国ではなく、中国に滞在していた可能性が浮上する。

 一旦脱出した後、中国に再び戻って来たのか、あるいは第三国への脱出は偽造で、単にマカオから北京に移り、身を隠していたのかは定かではない。仮に北京にいたならば、中国当局の保護下に置かれていたのだろう。中国が保護している人物への殺害の企てがあったからこそ、摘発し、逮捕したということになる。

 今回の事件は中国公安当局が公式発表したものではない。韓国メディアデが「北朝鮮消息筋の話」として公にしたものである。ということは中国公安当局が「北京郊外の特殊施設で極秘に取り調べている」情報を韓国側に流した可能性が大だ。

 中国公安当局が極秘情報を北朝鮮と敵対関係にある韓国に流せば、当然公になる。広まれば、さらなる北朝鮮のイメージダウンに繋がる。それを承知の上で、あるいはそこに狙いがあるとすれば、核実験やミサイル発射を止めようとしない、中国の説得に応じない北朝鮮への懲罰、見せしめとして流したのかもしれない。

 最後に、中国の主権をないがしろにして北朝鮮が目に余る不法活動を継続していることへの中国側の反発と、これまで目をつぶるか、あるいは摘発しても内々に処理してきた慣例を無視し、逮捕し、さらには韓国側にそのことを漏らしたことへの北朝鮮側の不満が交錯すれば、中朝関係はさらに悪化の一途を辿ることになるだろう。

 ただ、この報道には幾つか不自然な点があるのも否めない。

 ▲二人の工作員の名前が特定されてないこと▲逮捕された日付も不明なこと▲逮捕された工作員が簡単に口を割ったこと▲実行犯である二人の東南アジア女性らの裁判中に「事件」が明るみになったこと▲「金正男暗殺団」が8人で、その息子の暗殺団が7人と少々出来すぎであることなどだ。また、韓国のメディアが北朝鮮関連ではこの種の作文を得意としているのも気になる点だ。

 真偽を断定するのは韓国当局(情報機関)の正式発表を待ってからでも遅くはないようだ。