2017年9月10日(日)

 米朝が軍事衝突すれば、被害は第2次世界大戦を上回る

爆弾を投下する米軍の戦略爆撃機「B−52]


 トランプ大統領は7日の記者会見で「軍事行動も選択肢の1つだ。不可避でないものはない」と発言したうえで「軍事的な路線は辿りたくないが、米国が北朝鮮に対し軍事力を行使した場合、北朝鮮にとって非常に悲しむべき事態となる」と述べていた。

(参考資料:有事の際の米韓連合軍の「地上から平壌を完全に消す作戦

 マティス国防長官はその4日前(3日)に「米国とグアムを含む米本土、また我が同盟国に対するいかなる脅威もとてつもない軍事的対応に直面することになる」と北朝鮮に対して米国の軍事行動を誘発するような挑発行為を慎むよう促していた。

 一方、北朝鮮の金正恩委員長は8月29日に「火星12号」を太平洋に着弾させた際に「これは太平洋上の(我々の)軍事作戦の第一歩であり、グアムを牽制するための前奏曲である」と発言し、「太平洋に向けてミサイル発射訓練をもっとやれ」と関係者らに指示していた。

 北朝鮮には4枚のカードがある。1枚目は、グアムに向けられた一段式の「火星12」、2枚目がロフテッド(高角度)方式の発射を2度行ったもののまだ正常飛行の実験を行ってない2段式の「火星14」、3枚目が一度も発射実験がされたことのない3段式の「火星13」、そして残り1枚が潜水艦弾道ミサイル「北極星1号」の改良型である「北極星3号」である。

 「米国には言葉は通じない。行動で示さなければならない」とミサイル発射の理由を語る金委員長はそれでも「米国の行動を引き続き、注視する。それによって次の行動を決心する」と追加発射は米国の出方次第と猶予期間を置いた。しかし、トランプ政権は北朝鮮の警告を意に介さず、米韓合同軍事演習最終日(8月31日)に戦略爆撃機「B−1B」や「F−35B」を投入する一方、国連を舞台に北朝鮮への圧力と制裁を一段と強めている。

 北朝鮮アジア太平洋平和委員会は7日、「制裁と圧力に執着すれば、米国はとても耐えることのできない断固たる対応に直面することになる」と威嚇していた。「とても耐えることのできない断固たる対応」が何を指すかは定かではないが、ミサイルの発射であることだけはほぼ間違いない。

 米国が国連安保理に提出した制裁決議が11日(日本時間12日)に原案のまま採択されるかは微妙な情勢にあるが、一部修正で中露両国が同意すれば、遅かれ早かれ採択されるのは確実である。そうなれば、制裁決議そのものを問題視している北朝鮮としては決議の強弱に関わらず、ミサイルの発射ボタンを押すことになるだろう。

 中露のみならず、EU諸国も韓国もまた外交的、平和的解決を求めている。米国がミサイル基地を限定攻撃すれば、北朝鮮の反撃次第では全面戦争に発展する恐れがあるからだ。仮に米朝が正面衝突し、第2次朝鮮戦争が勃発すれば、被害はどの程度になるのだろうか?

 ドイツのガブリエル外相は「第2次世界大戦以上の犠牲者が出る可能性がある」との見解を示していた。

 ドイツ紙に掲載されたガブリエル外相の発言を伝えた米誌「ニューズウィーク」(9月1日付)によると、ガブリエル外相は「朝鮮半島での戦争被害は途轍もないものになるだろう。最悪の場合、第2次世界大戦よりもより多くの犠牲者が発生するだろう」と語っていた。

 ロシアのラブロフ外相も8月30日、ティラーソン米国務長官との電話会談で「予測不可能な事態を招きかねない。いかなる軍事措置も自制する必要がある」と米国に自制を求めていた。その2日後の9月1日にはプーチン大統領が大統領府を通じて出した声明で「朝鮮半島に迫る大規模な衝突」への憂慮を表明していた。

 当事国である米国も被害規模については共通の認識を持っているようだ。

 マティス国防長官は5月19日、「仮に軍事オプションの行使となれば、信じがたい規模の悲劇を招くことになる」と述べ、朝鮮半島での武力衝突は大規模戦争に拡大する恐れがあると予測していた。米国の制服組に至っては早くからこうした認識を共有している。

 シャープ元駐韓米軍司令官は現職時の2011年に韓国の与野党国防委員らとの懇談会で北朝鮮の軍事力を世界4位(韓国は8位)と評価していた。世界1位の米国と4位が全面戦争となれば、その被害は甚大である。

 スカパロッティ前駐韓米軍司令官は2016年2月、米下院聴聞会で「朝鮮半島での北朝鮮との衝突は第2次世界大戦規模に匹敵することになるかもしれない」(24日)と証言し、その理由について「(双方の)軍事力と武器のレベルなどを考慮すれば、非常に複雑な形態で展開され、多くの死傷者が出る」と語っていた。ちなみに第2次大戦での米軍の死者だけで約40万5千人、朝鮮戦争での米軍の戦死者は約3万6千人であった。

(参考資料:北朝鮮は有事時、4個軍団で総攻撃――ソウル半分は緒戦で壊滅

 一昨年秋に就任したジョゼフ・ダンフォード統合参謀本部議長(海兵隊大将)も昨年3月17日に米上院軍事委員会が開催した聴聞会で「朝鮮半島で戦争が起きれば、北朝鮮は特殊部隊の投入や大規模の長距離ミサイルの発射などで主導権を握るかもしれず、多くの人的被害は避けられない」と証言していた。

 「好戦的な北朝鮮指導部と世界第4位規模の在来式軍事力、さらには年々強化されている核・ミサイル能力は同盟国の脅威になっているばかりか、米本土への脅威も増している」と述べ、北朝鮮の能力を決して過小評価はしなかった。

 この日、同じく証言に立ったマーク・ミレー陸軍参謀総長に至っては「我が軍隊は満足できるような、戦争を実行する水準でない。犠牲者、死傷者が相当出てくる」と驚くべき証言を行っていた。

 ちなみにクリントン政権下の1994年5月19日、クリントン大統領は対北空爆を決断する前にシュリガシュビリ統合参謀本部議長、ラック司令官らと戦争シミュレーションのブリーフィングを受けたが、その時の予想された米韓連合軍側の被害は以下のようなものだった。

 「戦争が勃発すれば、開戦90日間で▲5万2千人の米軍が被害を受ける▲韓国軍は49万人の死者を出す▲南北間の隣接性と大都市戦争の特殊性からして米国人8万〜10万人を含む100万人の死者が出る▲戦争費用は610億ドルを超す」

 昨年、スカパロッティ前司令官は金正恩委員長に対して「自身の政権が挑戦を受けると考えれば、大量殺傷兵器を使うだろう」と言明し、最悪の場合、即ち、北朝鮮が敗戦寸前に陥った場合「北朝鮮が大量殺傷兵器を使うこともありうる」と示唆していた。

 米国防相の研究報告書によれば、ソウルに広島級(15キロトン)の核爆弾が投下されれば、62万人が死亡するとされている。また、2005年に米国防省傘下の国防脅威減少局(DTRA)は米軍基地のあるソウル竜山に20キロトンの核爆弾が投下されれば、死傷者は約275万人に及ぶとのシミュレーション結果を発表している。北朝鮮が9月3日に実験した「水爆」の爆発規模は150〜160キロトンだった。 

 オバマ前大統領は「戦争になれば韓国が深刻な影響を受ける」として、任期中に軍事オプションは選択しなかったが、さて、トランプ大統領は?

(参考資料:衝撃の米国の対北朝鮮開戦シナリオ