2018年4月12日(木)

 米韓首脳を介しての拉致問題の解決は!?


 日本の頭越しに南北首脳会談と米朝首脳会談が決まったこともあって梯子を外された感のある日本政府の動きが俄かに慌ただしくなってきた。

 核やミサイルの他に拉致問題などの懸案を抱える安倍政権は河野外相を韓国に派遣し、文在寅大統領に金正恩委員長との首脳会談で拉致問題を議題に取り上げるよう要請する一方で安倍総理自らも今月17日訪米し、トランプ大統領と直談判し、拉致問題の解決に向け協力を求めるようだ。

 日本の要請に対して文大統領は直接的な回答を避けつつも「拉致問題を含め、北朝鮮と日本の間の懸案解決と関係の改善のため、(日韓)両国で協力していこう」と応じ、トランプ大統領もまた、金委員長との会談で日本人の拉致問題を提起することを約束するようだ。

 拉致問題への協力要請とは米韓両首脳が拉致被害者を全員日本に帰すよう金委員長に決断を促してもらう、あるいは拉致問題解決のため日朝政府間協議を速やかに再開するよう働きかけてもらう二点を指すが、こうした第三者を介した働きかけは側面支援とはなるが、根本的な問題解決に繋がるかは何とも言えない。

 日本政府が拉致問題で第三国に協力を求めたのは何も今回が初めてではない。

 北朝鮮と友好関係にあった中国への協力要請は一、二度ではない。胡錦涛前政権時代には再三協力を要請してきた。

 中朝両国間では胡錦涛主席の訪朝(2005年10月)と温家宝首相の訪朝(2009年10月)があり、金正日総書記もまた、2006年から死去する2011年まで計4度訪中し、首脳会談を行っているが、拉致問題が議題になったことは一度もなかった。

 米国に対してもしかりである。ブッシュ政権時も、クリントン政権の時も、またオバマ政権時も拉致被害者が大統領や国務長官などに直接会って、訴えてきた。しかし、米朝首脳会談が開かれなかったこともあって米大統領が金総書記に直接働きかけることは一度もなかった。

 トランプ大統領と金正恩委員長による首脳会談は米朝歴史上、初めてである。トランプ大統領が金委員長に直に拉致問題の解決を求めることができる。仮に米国が同盟国の日本の拉致問題が解決されなければ、核とミサイル問題が解決しても、国交正常化はできないとの厳しい条件を北朝鮮に突き付ければ、話は別だが、トランプ大統領が拉致問題への北朝鮮の考えを聞くことだけに終始すれば、過去の南北首脳会談ではすでにその回答が出ている。

 一回目の南北首脳会談は金大中政権下の2000年6月に行われたが、当時はまだ北朝鮮が拉致の事実を認めてなかった。北朝鮮が拉致を認めたのは2年後の2002年9月、小泉総理が訪朝し、金正日総書記と日朝史上初の首脳会談を行った時だ。従って、小泉政権が直接、金大中政権に拉致問題への協力を求めることはなかった。

 しかし、二回目の盧武鉉政権下の2007年10月の南北首脳会談では拉致問題が膠着状態に陥ったこともあって、当時福田康夫総理は盧武鉉大統領に金正日総書記宛のメッセージを託していた。当時も今と状況が似ていて、ジュネーブでの米朝関係正常化実務者会議で北朝鮮の核施設の年内不能化と全面申告で合意した直後で、米朝和解ムードが漂っていた。

 当時の報道によると、盧大統領は金総書記に福田政権で対北朝鮮政策が変わる可能性について言及し、遠まわしながら拉致問題の解決を促していたが、金総書記は「福田政権に代わったので日本の状況を見守っている」と答えただけだった。

 しかし、その後、金総書記は南北首脳会談で「拉致日本人はもうこれ以上いない」と語っていたことが判明した。また、南北首脳会談から10日後に共同通信社社長と会見したNo.2の金英南最高人民会議常任委員長も金総書記と口を合わせるかのように「拉致問題はすでに解決した問題である」と語っていた。

 二人の発言はこれまでの北朝鮮の公式見解、立場を繰り返したに過ぎないが、トップツーがここまで「断言」したとなると、日本が求めるような形の拉致問題の解決は容易ではないこともわかる。実際にこれ以降、拉致問題は全く進展が見られず、誰一人生存者は戻って来てない。

 「拉致問題は未解決」との立場の日本が求める拉致問題の解決とは、ずばり「死亡した」と発表された8人を含む12人の政府認定の拉致被害者の生存と、拉致された疑いの高い特定失踪者らの存在を北朝鮮が認め、日本に帰国させることだが、3年前の日朝ストックホルム合意に基づき、北朝鮮は拉致被害者の再調査を実施し、その結果を日本に通告することを約束していた。

 再調査は北朝鮮による核実験やミサイル発射によって中断したままとなっているが、安倍政権としては最終報告書を受け取る前に米韓首脳らを通じて金委員長に「勇断」を促したいところだ。米韓との一連の首脳会談で金委員長が日本人拉致問題についてどう言及するのか大いに注目されるところである。