2018年4月2日(月)

 韓国芸術団の平壌公演は10年前のNYフィルハーモニの平壌公演の再現

韓国芸術団の平壌公演会場に姿を現した金正恩委員長


 昨日、平壌市内で開かれた韓国芸術団の公演に金正恩委員長が突然、李雪主夫人を連れ立って現われ、韓国側を驚かせたようだ。

 金委員長夫妻は韓国歌手らの歌に合わせて拍手をし、公演後は出演したアーティストたちと握手を交わしたほか記念撮影もしていた。

 金委員長は韓国側の引率者に「私が(アイドルグループの)レッド・ベルベットを見に来るかどうかに関心が多かったようだが、もともと明後日(3日)に来る予定だったが、日程を調整して今日来た。南北が共に行なう合同公演も意義深いが、南側だけの公演を見るのも意味がある」と語ったとのことである。

 文在寅大統領が平昌五輪の際に北朝鮮芸術団のソウル公演を鑑賞していたことから当然、予想されていたこととはいえ、それでも鑑賞するなら南北合同公演ではないかとみられていただけに、初日に訪れるとは意外だったようだ。金委員長曰く、「単独公演でも見るのが人情」だと述べたとのことだが、金委員長が鑑賞したこともあって韓国スーパスター、チョ・ヨンピルら韓国歌手11人による平壌公演は大いに受け、盛り上がったようだ。

 金委員長が昨年まで喧嘩相手だった「敵国」から芸術団を招くスタイルははやり、父・金正日総書記のDNAを受け継いでいることの証でもある。「蛙の子は蛙」と言われているが、明らかに金委員長は父のスタイルをそのまま踏襲している。

 というのも、今回の講演は金正日政権下の10年前の2月26日に平壌で行われたニューヨーク・フィルハーモニックの公演を連想させるからだ。

 公演会場の舞台の両袖には、米国と北朝鮮の両国旗が掲揚されていた。米国からは公演の仕掛け人であるグレッグ元駐韓米大使とペリー元国防長官が会場の中央で李根外務省対米局長と並んで座っていた。

 公演は両国の国歌演奏で始まったが、北朝鮮の国歌に続き、米合衆国国家が演奏された時も北朝鮮の機関、団体幹部らから成る観客は起立したままで、演奏が終わると、熱烈な拍手で応えていた。

 ワーグナーの「ローエングリン」第3幕への前奏曲、ドボォルザークの交響曲第9番「新世界より」が次々と演奏された。各曲の演奏の合間に指揮者のローリン・マゼール氏の簡単な解説があったが、ジョークを交えたり片言の朝鮮語を駆使したり、彼の話術も完全に観客を虜にしていた。

 ガーシュウィンの「パリのアメリカ人」、そして最後はバーンスタインの「キャンディード」序曲で締めくくったが、会場はアンコールの大合唱。これに応え、アンコール曲として管弦楽「アリラン」を編曲、演奏した。観衆は完璧に魅せられていた。会場はるつぼに化し、「ブラボー」の声とともに握手がしばらく鳴り止まなかった。

 それでも、この時は、音楽好きなのに最高指導者の金正日総書記の姿は会場にはなかった。

 金総書記が出席しなかった理由は朝鮮人民軍最高司令官の立場上、国交のない敵国の国歌に直立不動で敬意を表するわけにはいかなかったことである。米韓合同軍事演習が3月2日から行われることに備え、全軍に「高度の警戒心をもってあたれ」とはっぱをかけている最中に最高司令官が「星条旗」の演奏を聴くわけにはいかなかった。軍の士気にかかわるからだ。

 公演が行われた昨日、韓国では米韓合同軍事演習が始まった。それでも、金正恩委員長は公演会場に姿を現した。父親よりも度量のあるところを見せたかったのだろうか?