2018年7月18日(水)

 金正恩委員長が経済視察で激怒!粛清の嵐は吹くか!

現地の幹部らを叱責する金正恩委員長(労働新聞から)


 朝鮮中央通信は17日、金正恩委員長は北東部・咸鏡北道にある漁郎川水力発電所やホテルの建設現場、かばん工場、温泉休養所など8カ所の視察を伝えていたが、水力発電所の建設が17年過ぎても70%しか完成していないことを知り、「発電所を建設する気があるのかないのか分からない」と激怒し、かばん工場の視察では期待に反していたことから「党の方針を受け、執行する態度が大きく間違っている」と憤激していた。また、温泉休養所では浴槽が「魚の水槽に劣る。本当にみすぼらしい」と酷評していた。

 今月初旬には中国と隣接する平安北道の新義州にある紡織工場と化学繊維工場を相次いで訪問した際にも「近代化水準が不十分だ」として責任者らを叱責していた。尻を叩いても、発奮しない現場へのいら立ち、経済が一向に思うようにいかないことへの焦りが垣間見える。

 父親の金正日総書記は祖父の金日成主席がまだ健在の頃の1984年、自身の42歳の誕生日に際して開いた党中央委員会責任者協議会で「人民生活を向上させるために」と題する演説を行い「人民生活を高めることが労働党の最高原則である」と拳を振り上げていた。

 金総書記は金主席死去6年後の2010年、「首領様(故金日成主席)は人民が白米ご飯に肉のスープを食べ、絹の服を着て瓦屋根に住むようにしなければならないと言われたが、われわれはこの遺訓を貫徹できずにいる」(労働新聞1月9日付)と人民生活を向上できないことのふがいなさを嘆いていた。そのうえで「私は人民がまだトウモロコシの飯を食べていることに最も胸が痛む。今、私が行うべきことは、この世で一番立派なわが人民に白米を食べさせ、小麦粉のパンや麺を腹いっぱい食べさせることである。我が人民をとうもろこし飯を知らない人民としてこの世に立たせよう」(同2月1日付)と幹部らにはっぱをかけていたが、結局17年の在任中についに金主席同様に人民への約束を果たせぬまま他界した。

 金正日総書記は何もせずにただ手をこまねいていたわけではない。何度も内閣を改造し、担当大臣を入れ替え、あるいはデノミ政策を断行したり、それなりの手は打ったものの結局は「笛吹けども踊らず」だった。

 金正日時代は農業や経済がうまくいかず、人民の間で不満が高まれば、その担当者に責任を転嫁させてきた。未曾有の飢饉に瀕し、大量の餓死者が出た1996年には農業担当の徐寛煕党書記が、デノミ政策の失敗で物価が高騰した2010年には党計画財政担当の朴南基部長が責任を問われ、処刑された。驚いたことに「米帝国主義の指示を受け、我が国の農業、経済を破綻させたスパイ」というのが処刑理由(罪状)だった。

 故・金総書記が息子に残した遺産が唯一指導体系、軍を中心とした権力基盤であるとすれば、背負わせた負は破綻した経済であろう。

 金委員長は政権を引き継いだ年の2012年4月15日、祖父生誕100周年の式典での演説で人民に向かって「これ以上ひもじい思いをさせない」と公約していた。公約実現のためには二代続けて実現できなかった「白米に肉スープ、瓦葺の家」を担保できるかにかかっている。

 人民から支持と忠誠心を得るにはまさに食糧難、エネルギー不足を解消し、国民生活を早急に向上させるほかない。しかし、現状は厳しく、食糧とっても、今年も国連食糧農業機構(FAO)が7月に発表した統計では64万トンも不足している。相変わらず、国連をはじめとする国際社会に人道支援を要請している始末だ。

 気が狂ったかのように核実験を繰り返し、ミサイルを乱射していた金正恩委員長が南北首脳会談、そして米朝首脳会談を機に核とミサイルを棚上げにし、経済に舵を切り、そのため経済分野への視察を増やしているのは、建国70周年(9月9日)を目前にしていること、また、一昨年5月に36年ぶりに開催した党大会で打ち出した「国家経済発展5か年戦略期間」の成否がかかっているからであろう。建国70周年を「一大慶事」として盛大に祝うには前に目に見える経済成果を上げなければならず、また、金正恩政権下で初めて打ち出した5か年経済計画を失敗に終わらすわけにもいかない。

 金委員長は「党の方針を受け、執行する態度が大きく間違っている」と咸鏡北道の党委員会を叱責しただけでなく、内閣をはじめ経済指導機関の責任幹部、さらには「しっかり指導しなかった党中央委員会経済部と組織指導部の該当指導課にも問題がある」として「党中央委員会の該当部署の事業を全面的に検討して厳重に問責し、調査するよう」指示していた。

 「許せないのは、国の経済の責任を負った幹部が発電所建設場に一度も出てきたことがなく(中略)竣工式には顔を見せる厚かましい態度である」とか「このように仕事をして、どうやって党の経済発展構想を進めていくのか」との怒り心頭の発言からしておそらく今後、地方の責任者のみならず、内閣さらには党の担当幹部らに対する査問、粛清が行われることになるだろう。

 金正恩体制下ではすでに2016年に金勇進教育担当副首相と黄民元農業相が粛清されている金勇進副首相は韓国統一省の発表(2016年8月31日)では「反党反革命分子」「現代版分派分子」の烙印を押され、7月に処刑されたとのことだ。その前年には当時軍No.2の玄永哲人民武力相がやはり「反党反革命分子」として銃殺刑に処せられていた。

 今回、地方幹部では金委員長から直接叱責された咸鏡北道の李ヒヨン党委員長と李サングァン人民委員会委員長の2人と両江道の李サンウォン党委員長と梁ミョンチョル三池淵郡委員長、それにキョンソン郡の崔スンナム委員長の3人が標的にされるだろう。さらに、7月初旬の視察の際にあまりのふがいなさに「心を痛めた」とされる新義州紡績工場のある平安北道の金ヌンオク党委員長と李テイル、安ギョングン副委員長の3人も処罰の対象に挙げられるかもしれない。

 次に「内閣をはじめ経済指導機関の責任幹部」では経済を仕切る朴奉柱総理(政治局常務員)と国家計画委員委員長でもある盧斗哲副総理(政治局員)さらには李ムヨン、金ミョンフン、任チョルンの3人の副総理に責任が及ぶかもしれない。閣僚では当然、崔一竜軽工業相、権相虎国家建設監督相、張吉竜化学工業相、朴勲建設建材工業相、鄭英寿労働相らがやり玉に挙げられるだろう。

 さらに「党中央委員会経済部と組織指導部の該当指導課にも問題がある」と指弾されていることから安正珠党軽工業部部長(政治局員)と呉秀英経済計画部長(政治局員)の二人が粛清の対象にされるだろう。

 問題は「組織指導部」の責任だが、トップの部長は党序列3位で政治局常務委員である崔龍海党副委員長であるが、金正恩体制を支える側近中の側近だけにそう簡単には切れないだろう。誰を身代わりに出すのか、今後の人事に目が離せない。