2018年6月14日(木)

 米朝首脳会談で「人工衛星」の問題はどう決着?

2年前に発射された「光明星4号」


 北朝鮮は4月20日に核実験と中長距離弾道ミサイル及びICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射中止を一方的に宣言し、5月24日に咸鏡北道・吉洲にある核実験場を爆破、閉鎖した。また、北朝鮮分析サイト「38ノース」は商業衛星写真の分析に基づき、平安北道・亀城にある弾道ミサイルの実験用発射台が撤去されたと伝えていた。

 亀城からはこれまで潜水艦弾道ミサイル(SLBM)を地上型に改良した中距離弾道ミサイル「北極星2型」やグアムを射程に収めた中長距離弾道ミサイル「火星12型」、それに米国の西海岸に届く長距離弾道ミサイル「火星14型」が発射されている。

 「火星14型」は中国との国境に近い慈江道・舞坪里からも発射されており、また昨年11月29日に発射されたICBM「火星15型」は平安南道・平城に基地があるので、北朝鮮が全ての弾道ミサイル発射台を撤去したという話ではない。最も深刻な問題は米国が長距離弾道ミサイル「テポドン」の発射基地とみなしている平安北道・東倉里のミサイル発射場の扱いだ。

 北朝鮮が「西海衛星発射場」と称している東倉里発射場には高さ65メートルの発射台がある。北朝鮮はここから2006年、2009年、2012年(2回)、2016年と「人工衛星」を発射してきた。

 弾道ミサイルには「火星」、「北極星」という名称が付けられているが、人工衛星には「光明星」という冠が付けられている。人工衛星と称するロケットは1998年の「1号」から始まり、およそ3年スパンで発射が行われ、2016年には「光明星4号」が打ち上げられている。この「4号」は本来、2015年10月の「労働党創建70周年」の式典に合わせる予定だったが、完成が間に合わず、数か月後の2016年2月に発射されている。

 北朝鮮は今年4月20日に開催された党中央委員会総会で「4月21日から核実験やミサイル発射を中止する」と宣言したが、人工衛星については言及してない。人工衛星の発射については一貫して「自主権の権利行使である」と主張してきた。

 実際にオバマ政権下の2012年2月29日に米朝で交わされた合意が破綻した最大の原因は北朝鮮が「光明星3号」を打ち上げたことにあった。オバマ政権は北朝鮮に対して敵視政策の撤回と24万トンの食糧支援を見返りに北朝鮮に「実りある会談が行われる期間は長距離ミサイルの発射を行わない」と長距離弾道ミサイル発射の凍結を約束させたが、合意から2カ月もしない4月13日に北朝鮮は「光明星3号」を発射してしまった。

 オバマ政権は北朝鮮の合意破りを非難したが、北朝鮮は「国際法で公認された宇宙利用の権利である」「6か国協議共同声明には人工衛星を発射してはならないとの合意はない」「平和的な衛星打ち上げは米朝合意とは別問題である」等と反論し、米朝合意の破綻を意に介さなかった。

 金正恩委員長は2016年2月に「光明星4号」が発射された際「実用衛星をもっと多く発射せよ」と指示し、これを受けた北朝鮮の国家宇宙開発局(NADA)は7か月後には推進力を3倍に増やした新型の停止衛星運搬ロケット用大出力エンジンを開発し、その地上噴出実験を成功させている。

 当時、米航空宇宙研究機関の「エアロスペース」は「38ノース」への寄稿文で「北朝鮮が公開したエンジンは小型無人用探索装備を発射するには十分だ。停止軌道に通信衛星など多様な低高度偵察衛星を発射するのに適している」と解析していた。また、ロシアの政府系メディアも昨年12月訪朝したロシアの軍事専門家のコメントとして「北朝鮮が地球観測衛星1基と通信衛星1基の開発をほぼ完了した」と伝えていた。

 金正恩委員長は昨年の新年辞で「これにより宇宙政府に向かう道が敷かれた」と演説し、北朝鮮メディアも「平和的宇宙開発の権利」を主張する記事を相次いで掲載していた。例えば、労働党の機関誌・労働新聞は昨年12月25日付で「国家宇宙開発5か年計画」に関する記事の中で「平和的宇宙開発を一層推進し、広大な宇宙を征服していく」と、今後も開発研究を進めていく意思を明確にしていた。労働新聞が「宇宙開発の権利」を主張する記事を掲載したのは、昨年12月の1か月だけで3回。人工衛星の研究・開発が金正恩政権の重要な国策の一つであることがわかる。

 9月9日に建国70周年を迎える今年は「およそ3年」というスパンからしても、また国家の大きな節目であることを考えても、人工衛星を打ち上げてもおかしくはない。

 米国は衛星発射も弾道技術を使用することから国連決議に抵触するとして容認しない方針だが「人工衛星は安保理決議よりも優位を占める国際法で公認された宇宙利用の権利である」と主張する北朝鮮とどう折り合いをつけるのか、興味深い。

 ちなみに金正日政権は2000年にミサイル問題でクリントン政権と交渉した際、ミサイル開発を中止する条件として3年間で30億ドルの支援を要求し、人工衛星については「米国が代わりに打ち上げてくれれば、発射しない」との条件を提示していた。