2018年3月22日(木)

 米朝首脳会談は実現するか?北朝鮮の「本気度」を占う4つのチェックポイント

史上初の米朝首脳会談に臨む金正恩委員長とトランプ大統領


 平昌五輪後に訪朝(3月5日)した韓国大統領特使一行に対して金正恩委員長が南北首脳会談と米朝会談の意向を内内に表明したと伝えられてから2週間以上経過したが、その後、北朝鮮から一連の首脳会談についても、韓国特使を通じてトランプ大統領に伝達したとされる「非核化」についても一切言及がない。

 労働新聞などのメディアも沈黙したままである。スウエーデン外相との会談のためストックホルムを訪問(3月15−18日)した李容浩外相も、また現在フィンランドのヘルシンキを訪れている崔光一(チェ・ガンイル)外務省北米副局長も公式に言及したとの報道もない。それでも、北朝鮮が金委員長と韓国特使との接見を報じた際、「金正恩委員長は南側特使から首脳の出会い(会談)との関連した文在寅大統領の意向を聞き、意見を交換し、満足の合意を見た」と伝えていたことから南北首脳会談には間違いなく同意しているのだろう。

 また、国営放送の朝鮮中央通信が2日前(20日)、「米国との関係でも変化の機運が現れている」と伝えたところをみると、米朝首脳会談にも前向きなことが窺い知れる。韓国特使を通じてトランプ大統領に「早期にお会いしたい」とのメッセージを伝達したのならば、トランプ大統領が提示した5月末までの米朝首脳会談を拒む理由はないはずだ。

 しかし、北朝鮮が米朝首脳会談だけでなく、トランプ大統領が金委員長との首脳会談を受託した最大の理由である北朝鮮の「非核化」について何一つ言及しないのは不気味極まりない。本当に金委員長はトランプ大統領との会談に臨むのだろうか?その際に、北朝鮮の非核化を約束するのだろうか?北朝鮮の対応が不透明なだけに誰もが半信半疑となるのは無理もないことである。

 では、今後、北朝鮮の本気度を占う意味で、主な4つのチェックポイントを挙げてみる。

 一つは、4月1日から始まる米韓合同軍事演習への対応である。

 米韓は平昌五輪で延期していた恒例の米韓合同軍事演習を4月1日から開始する。期間が1か月近く短縮され、規模も原子力空母や戦略爆撃機などの参加が見送られるなど縮小されるようだが、米海兵隊ら1万人以上が参加して、4万トン級の大型の強襲揚陸艦「ワスプ」を投入しての上陸訓練や有事の際の平壌制圧訓練などは例年どおり行われる。

 北朝鮮はこれまで米韓合同軍事演習が行われる度にミサイル発射などの対抗措置を取ってきた。過去2年間だけをみても、一昨年は新型の短距離ミサイルを6発、スカッドミサイルを2発発射していた。また、昨年は日本海に向け弾道ミサイル「スカッドER4」を何度も乱射していた。

 韓国の特使の話では、金委員長は「米韓合同軍事演習を理解する」と容認したうえで「対話が持続している間は、追加の核実験も、弾道ミサイルの試験発射も行わない」と約束したとのことだ。仮に北朝鮮のメディアが米韓合同軍事演習を非難したとしても、ミサイル発射などの挑発を自制すれば、金委員長の本気度の裏付けとなる。

 次に、最高人民会議を4月中に開催して、非核化の意思を表明するかにある。

 北朝鮮は2012年4月に開催した最高人民会議で憲法を修正し、序文に自らを「核保有国」であることを明記した。本当に非核化する意思があるならば、憲法から削除しなければならない。あるいは「朝鮮半島の非核化は先代の遺言である」との文言に修正しなければならない。

 最高人民会議は春と秋に2度開催されるが、春の開催は金正恩政権となった2012年は4月13日、2013年は4月1日、2014年は4月9日、2015年も4月9日、そして昨年(2017年)は4月11日に開催されている。唯一例外は2016年のみで、この年は5月初旬に36年ぶりに開催された第7回党大会後の6月29日に開かれている。

 最高人民会議を召集する場合、通常、3週間前に公示しなければならない。公示された代議員らは開催10日前に代議員登録しなければならない。

 第三に NPT(核不拡散体制)への復帰表明である。

 北朝鮮は2003年1月にNPTからの脱退を宣言している。国際社会は依然として脱退を認めてないが、3ヶ月目の4月10日に効力を発している。北朝鮮はNPTからの脱退を宣言しても、国際原子力機関(IAEA)の査察は断続的に受けていた。しかし、これもオバマ政権下の2009年4月に人工衛星と称した事実上の長距離弾道ミサイル(テポドン)発射に対する国連安保理の制裁措置に反発し、IAEAの監視チームを国外退去させ、核無能力化作業を監督していた米国の専門家らも寧辺から追放したままである。

 金委員長がトランプ大統領との会談を前にNPTへの復帰を表明すれば、5月末までの米朝首脳会談は決定的なものとなるだろう。

 第四に、ワシントンへの特使派遣である。

 金正日総書記の時代の2000年10月、クリントン大統領との首脳会談を画策したことがあった。この時も韓国の金大中大統領が6月に訪朝し、南北間で史上初の首脳会談が行われたが、今回同様に韓国は金総書記から依頼され、米朝首脳会談の仲介役を買って出た。

 米朝首脳会談を熱望する金総書記のクリントン大統領宛のメッセージを金大統領の随行者、黄源卓大統領補佐官が直ちに訪米し、伝達したが、クリントン大統領が北朝鮮からの確認を求めたため金総書記は当時、最も信頼していた最側近の軍トップの趙明禄朝鮮人民軍総政治局長を特使としてワシントンに派遣していた。

 過去の経緯からして、金正恩委員長がトランプ大統領との早期会談に真に乗り気ならば、躊躇うことなく、側近をワシントンに送ることになるだろう。

 最側近となると、韓国に特使として派遣された実妹の金与正(キム・ヨジョン)党第一副部長の起用も考えられなくもないが、与正氏は米国の制裁対象になっているだけに現実には難しい。順当ならば、李容浩外相が特使として派遣されることになるだろう。北朝鮮における米国の利益代表部を担っているスウェーデンへの李外相の訪問はその布石かもしれない。