2018年3月5日(月)

 異例中の異例!今年まだ一度もない金正恩委員長の軍関連視察

軍部隊の演習を視察する金正恩委員長


 文在寅大統領が平壌に派遣した韓国特使一行との会談が注目されている金正恩委員長だが、異例にも今年まだ一度も演習を含めた軍関連の視察を行っていない。

 今年の金委員長の現地指導は1月12日に報道のあった国家科学院の視察を皮切りに平壌製薬工場視察(17日)、無軌道電車工場視察(2月1日)そしてトロリーバスの試運転視察(2月4日)といずれも経済分野だった。軍関連は2月8日に行われた軍事パレードへの出席のみだ。これがどれだけ異例のことかは、過去6年間のケースと比較してみると、一目瞭然だ。

 金正恩政権発足年の2012年から金委員長の軍関連視察をチェックすると;

 2012年

 1月は人民軍第169軍部隊の視察(18日)を皮切りに空軍第354空軍部隊、第3870軍部隊、空軍第378軍部隊、空軍第1017部隊視察の5件。2月は第324大連合部隊指揮部と第842軍部隊視察の2件。

 2013年

 1月はゼロだったが、2月は第323軍部隊視察と第526大連合部隊の攻撃的戦術練習指導、空軍・防空空軍・第630大連合部隊の飛行訓練指導、砲兵火力打撃訓練指導と4回部隊を訪れている。

 2014年

 1月は第534軍部隊と第323軍部隊の2件。2月は射撃館訪問、海・空軍軍人体育競技視察と「人民軍11月2日工場」視察の3件。

 2015年

 1月は砲射撃競技大会の指導、空軍・防空軍指揮部視察、空軍・防空軍師団傘下の爆撃連隊飛行戦闘訓練指導、装甲歩兵部隊の冬季渡河攻撃演習指導、軍各種打撃訓練の計5件。2月は人民武力部機械工具展示会場視察、海軍第597軍部隊、島占領演習指導、新型対艦ロケット試験発射、戦勝記念館内の近衛部隊館視察など5件。

 2016年

 1月は大連合部隊の砲射撃競技視察の1件。2月は大連合部隊の双方実動訓練と対戦誘導武器試験射撃指導の2件。

 2017年

 1月は第233軍部隊直属部隊視察、第1314軍部隊視察、戦車・装甲車の冬季渡河攻撃戦術演習指導の3回。2月は中距離弾道ミサイル「北極星2型」の試験発射に立ち会っていた。

 また、今年は2月までミサイルの発射も一度もなかった。過去3年間を検証すると;

 2015年は1月中のミサイル発射はなく、2月になって6日に日本海に面した江原道・元山から新型艦隊艦ミサイルを、27日に同じく日本海に面した咸鏡南道・新浦で潜水艦弾道ミサイル(SLBM)の水中実験を行っていた。

 2016年は1月6日に核実験、2月7日に黄海に面した平安北道の東倉里から人工衛星と称して事実上の長距離弾道ミサイル(テポドン)を発射していた。

 昨年(2017年)も前述したように2月12日に平安北道・亀城から潜水艦弾道ミサイル(SLBM)を地上型に改良した中距離弾道ミサイル「北極星2型」発射していた。

 北朝鮮は毎年12月から冬季訓練を行っている。昨年も12月から始まったと伝えられているが、それだけに軍部隊の視察に訪れないのは異例と言える。

 燃料や食料などの備蓄不足で思うような演習ができないため軍関連の視察を控えているのか、それとも、金委員長が新年辞で「北と南は情勢を激化させることをこれ以上やるべきではない。軍事緊張を緩和し、平和的環境を作り出すため共同で努力しなければならない」と言った手前自粛しているのか、判断が分かれるところだが、その後の平昌五輪への参加表明、実妹の与正党副部長を派遣しての文大統領の平壌招請、そして、韓国特使一行の受け入れなどの流れをみると、後者の可能性が強いようだ。

 文大統領は金委員長に対して非核化に向けての何らかの意思表示と、その一歩としての核実験とミサイル発射の凍結約束を手土産に特使をワシントンに派遣し、トランプ大統領に北朝鮮との対話のハードルを下げるよう、即ち、北朝鮮の完全で検証可能な、かつ不可逆的な非核化を米朝交渉の入り口ではなく、出口にするよう説得する構えのようだ。

 金委員長は昨年12月24日 労働党第5回細胞委員長大会で「社会主義強国建設のため今後、大胆で度量の大きい(太っ腹の)作戦を果敢に展開していく」と公言したが、どうやら南北の一連の融和ムードは金委員長のシナリオに基づき、それに文大統領が乗った出来レースのような気がしてならない。

(参考資料:「犬猿の米朝」を韓国は仲を取り持つことができるか――「水と油」の米朝の主張 )