2019年4月29日(月)

 「金正恩訪露」は成功?失敗?

初の首脳会談前に握手する金正恩委員長とプーチン大統領(労働新聞から)


 初の訪露(4月24−26日)を終えた金正恩委員長が4月26日未明に帰国した。

 訪露の成果をめぐっては米国、日本、韓国、中国、さらには現地のロシアでも様々な評価、見方がなされているが、昨日(28日)北朝鮮の国営テレビは金委員長のロシア訪問を記録映画にして午後8時から約1時間にわたって放映し、国民に訪露の成果を大々的に宣伝していた。

  映像をみると、帰国した金委員長を序列No.2の崔龍海国務第一副委員長以下最高幹部らが総出で出迎え、群衆もまた「朝鮮半島と地平和と安定を守護し、我が人民の自主的な暮らしと後世の幸福な未来のため不滅の対外活動業績を成し遂げ、無事帰国した最高指導者を熱烈に祝賀していた」とアナウンサーが興奮気味に叫んでいた。成果なくベトナムから帰国した時と全く同じ光景が再現されていた。

 今回、北朝鮮のメディアが挙げた成果としては;
 ▲金委員長がロシアの国民に熱烈に歓迎されていた。
 ▲伝統的な親善協力関係を一層発展させるための画期的な転換の契機をつくった。
 ▲第2回米朝首脳会談後の不安定な朝鮮半島情勢を戦略的に維持管理するうえで重要な意義を持つ有益な機会となった等、主に3点を自画自賛していたが、訪露の最大の目的とされていた対米非核化交渉への支援と国連安保理の制裁解除、そして経済協力の面では具体的な成果を手にすることが出来なかったとの見方が広まっている。

 第一に、核問題では確かにプーチン大統領は「非核化には北朝鮮の安全と主権の保障が必要だ」と言って、金委員長をバックアップしてあげたものの米朝の最大の争点となっている「北朝鮮の完全な非核化」という一点においてはロシアが米国と共同歩調を取っていることが明白となった。

 そのことは、プーチン大統領が首脳会談終了後の記者会見で「米国と利害は一致している。我々は北朝鮮の完全なる非核化を支持している。大量殺傷兵器の拡散には反対する」と明言していたことからも明らかだ。トランプ大統領が露朝首脳会談後に「プーチン大統領の発言に感謝している。プーチン大統領も北朝鮮の完全なる非核化を見たがっている」とツイートしていたことはロシアの後ろ盾が必ずしもトランプ大統領への圧力にはなってないことを意味する。

 第二に、ベトナムでの米朝首脳会談が物別れに終わった原因の一つとなった国連安保理の制裁解除についてロシアが確約しなかったことだ。実際に北朝鮮の宣伝放送も制裁解除の見通しについては何一つ言及してなかった。

 プーチン大統領は米国に対して国際法に基づき、北朝鮮の体制を保障するよう求める一方で金委員長にも「国際法の規約履行を回復し、武力の代わりに国際法の支配を受けた場所に戻れ」と諭していた。

 北朝鮮に対する過去10回の国連安保理の制裁決議は米国が主導したが、ロシアは一度も拒否権を行使せず、これにすべて賛成してきた。常任安保理事国の立場上、ロシアとしても具体的な非核化に向けた措置なくしては簡単には解除には応じられない。だからこそ、今年12月で期限切れとなる1万人に上る出稼ぎ労働者の残留延長についてOKサインを出せなかったのではないだろうか。

 第三に、ロシアの経済協力についても北朝鮮では「ロ朝間の貿易、経済及び科学技術強調委員会の事業を一層活性化させ、両国の互恵的な経済貿易関係を一段高いレベルに引き上げるためあらゆる分野で積極的な対策を取ることにした」と報道されていたが、ユーラシア鉄道と朝鮮半島縦断鉄道の連結に向けての北朝鮮の鉄道網整備事業(総事業費250億ドル)や北朝鮮の電力不足解消事業(総事業費300億ドル)への協力も、また露朝国境都市・羅先経済特区へのロシア企業の参入も現実には国連安保理の制裁が解除されない限り、履行は困難である。

 金委員長はベトナムでの米朝首脳会談(2月28日)で結果が出せなかったことに気落ちし、ベトナム首脳らとの会談(3月1日)後、日程を短縮し、翌の2日には早々ハノイを出発したが、今回も当初、予定にあったウラジオストク市内の視察をキャンセルし、7時間も早く帰国の途についたのは成果が乏しかったことへ失望感の表れではないかとの見方も出ている。

 もちろん、単独会談(約2時間)に拡大会議(約1時間半)、そして宴会(約1時間40分)と延べ5時間も顔を合わしていたことから表には出せない「密約」が両首脳の間にあったとしても不思議ではない。

 それだけに今後の露朝関係、特にプーチン大統領の言動が注目される。