2019年2月24日(日)

 米朝首脳会談を前に金正恩―ポンペオ会談に同席した元CIA高官の「金正恩評」

平壌での金正恩―ポンペオ会談に同席したキム氏(後ろ向きの白髪)(労働新聞)


 ベトナムでの第2回米朝首脳会談を前にパイプ役として首脳会談をお膳立てしたアンドリュー・キム前コリア・ミッションセンター長が今月22日、ウォルター・H・ショレンスティン・アジア太平洋研究センターで講演し、金正恩委員長の印象について、また二度目の米朝首脳会談の見通しについて興味深い発言を行っていた。

 アンドリュー・キム氏はCIAのソウル支局長兼アジア太平洋地域責任者(次官級)を長年務めた後、昨年12月までCIAが設立した北朝鮮情報を総轄する特別組織「コリア・ミッションセンター」(職員600〜700人)のトップの座にあった。

 韓国の鄭義溶国家安全保障室長とは縁戚関係にあり、また韓国の情報機関・国家情報院の徐薫院長とはソウル高の同窓生でもある。センター退任後、上記研究所の客員研究員になっている。ポンペオ国務長官の4度の訪朝に全て同行し、金委員長との会談にも同席している。

 CIAの要人が退任から間もないのに世界中の注目を集めている米朝会談の舞台裏や金正恩委員長の印象について語るのは極めて異例で、それだけに注目せざるを得ない。以下、彼の講演から注目すべき発言をピックアップしてみる。

 金正恩委員長について

 「金委員長は魅力的な人物だ。本当に核心を突き、技術的にも非常に精通しているし、本当に肯定的な方式でモノが言える人物だった。父親の金正日総書記と比べると、交渉相手としては金正恩委員長のほうがましだ。二人を比べるならば、問題(核問題)の解決相手としては父親よりも息子を取る。直ぐに本論に入ろうとしない人よりも、コントロールし、リスクを冒してでも肯定的に物事を考える人と仕事をしたい。」

 金委員長の非核化の意志について

 「金委員長は『私も父親でもあり夫でもある。私にも子供らがいる。私は子供らが核を持ったまま生涯生きることを望んでいない』と言っていた。私がみたところ、彼は本当に米国との関係改善に強い熱望を持っていた。まさにそれが、彼の国を繁栄に導き、体制安全を増進する唯一の道である」

 「必要なものを得るために核を放棄しなければならないという金委員長の主張に全ての人が同意しているわけではないが、金委員長はそうした人たちをコントロールしようと努めている」

 「金委員長は昨年、人民により良い生活と経済の繁栄を約束した。北朝鮮の人民の大多数が彼の関与政策を歓迎、支持しているようだ。人民の大多数が経済に力点を置いた金委員長の政策の変更に満足することになるだろう」

 金委員長の対米認識について

 「北朝鮮は終戦宣言の確保を望んでいる。また、核保有国として認めてもらいたがっている。最終的には米国と外交関係を樹立するため関係改善を望んでいる。北朝鮮は金氏家門の支配を引き続き担保するためにも長く持続できる平和メカニズムを望んでいるので北朝鮮もトランプ政権下で合意をしなければならないことをわかっている。というのも長く待ち過ぎたからだ。今後、どこに引っ張られるかわからないからだ。北朝鮮が今、合意を望み、それに集中している理由はトランプ政権が彼らを相手にしてくれている政権であると評価しているからだ。北朝鮮は米国の政治を非常に綿密に研究している。北朝鮮の連中らと交渉しているとワシントンでの政治動向についてよく知っていることに驚かされる」

 金委員長の対米不満について

 「金委員長は米国が彼らの努力を認めようとしないことに不満も述べていた。北朝鮮当局者らは『米国がこれまで取ってきた相応措置よりも我々の譲歩のほうがはるかに価値あるものだった』とか『米国は我々の措置を十分に認めようとはしない』と口をこぼしていた」

 第二回会談の展望について

 「私は預言者ではない。1回目の首脳会談よりも、2回目はより生産的なものになるだろう。北朝鮮は自らの努力が十分に認められてないとの挫折感を感じているが、望むだけ認められたければもう少しやらなければならない」

 「金正恩委員長は寧辺のプルトニウム生産施設を交渉のテーブルに上げる準備ができていると言っていた。米政府は寧辺の施設を閉鎖できれば北朝鮮の核兵器生産能力を著しく減少できるとみている。米国は北朝鮮に経済制裁の緩和と軍事関係の開放、朝鮮戦争を終息させる平和協定締結など核放棄への相応措置を取る用意がある。交渉がうまく行けば、これらすべてを手にすることができるだろう」

 なお、アンドリュー・キム氏は完全なる非核化のロードマップに関連して、北朝鮮による核・ミサイルの持続的な実験中止を出発点にして米国が北朝鮮に対して▲核関連の包括的申告と専門家による視察▲核ミサイル及び核物質の放棄▲北朝鮮のNPT(核拡散禁止条約)への復帰を求めていることを明らかにした。

 その見返りとして米国が与える相応措置は経済、政治、安保の三つのインセンティブに分類されており、経済面では▲人道支援▲北朝鮮銀行と国際金融機関との取引規制緩和▲北朝鮮輸出品の輸入制裁の緩和▲北朝鮮経済特区でのジョイントベンチャーの制裁免除を挙げている。

 政治面では▲旅行禁止国からの解除▲連絡事務所の設置▲オーケストラ公演など文化交流の開始▲金ファミリー及び高官らに対するブラックリストの解除▲テロ支援国再指定からの解除などを検討している。

 安全保障では▲終戦宣言への署名▲米朝軍事協力(military to military engagement)▲平和協定の締結及び外交関係の樹立をインセンティブとして提供する用意があることを明かしていた。