2019年7月20日(土)

 「日韓紛争」で北朝鮮が韓国を「後方支援」! 拉致問題への影響は?


 日韓の抗争を「目くそ鼻くそ」とか「同じ穴の狢」と云々し、どちらかと言うと北朝鮮はこれまで「高みの見物」をしてきたが、今回は韓国に加勢し、日本を激しく叩いている。昨日(19日)も国営の「朝鮮中央通信」は日本の対韓輸出規制めぐり日本を「千年来の敵」と評し、批判を展開していた。

 北朝鮮が「日韓貿易紛争」を初めて伝えたのは7日で、「朝鮮中央通信」が韓国のインターネット新聞「自主時報」の記事を引用し、「日本の経済報復措置に対する南朝鮮(韓国)の角界で憤怒が爆発している」と伝え、この日を皮切りに北朝鮮のメディアは連日、関連記事を記載している。

 過去10日間、党機関紙「労働新聞」や政府機関紙「民主朝鮮」そして国営通信の「朝鮮中央通信」などが伝えた主な記事の見出しだけを時系列でみると;


 9日 「日本が生きるべき道は過去の清算しかない」(民主朝鮮論評)     「南朝鮮(韓国)大学生団体が日本の過去犯罪清算を要求」(労働新聞)
 10日「現実を見極められない日本総理の客気嘲笑」(労働新聞論評)
 12日「南朝鮮団体過去犯罪正当化しようとする日本の規制措置非難(朝鮮中央通信)
 13日「日本当局の破廉恥な妄動を糾弾」(労働新聞)
 14日「輸出規制措置に表れた凶悪な企図」(労働新聞解説)
 15日「南朝鮮で日本商品排斥気運高潮」(労働新聞)
 16日「過去の清算なくして日本に未来はない」(民主朝鮮論評)
 18日「日本の破廉恥な経済報復措置を断罪糾弾」(労働新聞署名記事)
 19日「日本の経済報復をロウソクで燃やしてしまえ」(朝鮮中央通信)

 特に北朝鮮の対日批判が激しさを増したのは、日本が韓国への半導体素材輸出を厳格した理由として「北朝鮮への横流し」説が流布されたことと無縁ではない。

 「労働新聞」は14日付の「輸出規制措置に表れた凶悪な企図」と題する記事で「我慢できないのは、日本反動らが我々に引っ掛けて南朝鮮に対する経済報復措置を合理化しようとしていることだ」として「これは我々に対する容認できない政治的挑発である」と憤慨していた。

 「北朝鮮関連説」が取り沙汰されたことについては朝鮮総連の機関誌「朝鮮新報」(20日付)も「国際的孤立を招く日本の経済報復措置」と題する記事で「北朝鮮をダシに使って経済報復を正当化している安倍政権の挑発行為を北朝鮮も注視している」と触れ、北朝鮮に無条件首脳会談を呼び掛けている安倍総理が「植民地支配の被害者らの人権と名用回復を軽視し、経済報復措置を取ったことで日朝平壌宣言に明示された過去の清算について真摯に考慮する気がいないことを自ら露呈した」と非難していた。その上で「日本は過去に我が民族に与えた全ての被害と苦痛について正しく、謝罪し、補償しなければならず、それなしでは平壌行きの切符も手にできないことを知るべきだ」と釘を刺していた。

 「日韓紛争」への北朝鮮の「参戦」意図については▲日韓に楔を打ち込み、日本を孤立させる▲韓国に連帯することで文在寅政権を取り込む▲来るべき日朝首脳会談で賠償をより多く引き出すことにある等が考えられるが、意図はどうであれ「北朝鮮関連説」が取り沙汰されたことに北朝鮮が反発しているのは確かだ。

 安倍総理は「次は私の番だ」と述べ、金正恩委員長との首脳会談実現に向け無条件対話を呼び掛けている。トランプ大統領や習近平主席を通じて金委員長に「相互不信の殻を破り、新たな一歩を踏み出す用意がある」とのメッセージを伝え、習主席によると、金委員長は「留意する」との回答があったとのことだが、それもこれも今回の一件でご破算になったかもしれない。

 韓国から「安全保障上の不適切な事案が何か証拠を示せ」と迫られた故か、それとも首脳会談実現のため、拉致問題解決のため北朝鮮の名を出すのは得策ではないと判断したのか、あるいは実際にそうした事実がなかったからなのか、日本政府は「北朝鮮横流し」を公式に否定したが、もはや北朝鮮が猛反発している以上、今でも「めどが立ってない」金委員長との首脳会談はさらに遠のくことになるかもしれない。

 「信用の置けない」韓国を懲らしめるための韓国への措置は逆に北朝鮮の対日不信を助長させ、拉致問題の解決を遅らせるブーメラン現象招いてしまったような気がしてならない。