2019年3月31日(日)

 いずれも「ハッタリ」に終わった金正恩政権の直近3回の「予告」


 ベトナムでの米朝首脳会談にも随行した金正恩委員長の代弁人でもある崔善姫外務次官が「米国の要求に譲歩し、交渉を続ける意思はない。我々の最高指導部(金委員長)が核実験とミサイル発射猶予を続けるかどうか、近く自らの決心を明らかにするだろう」と3月15日の記者会見で予告してから2週間が過ぎた。

 金委員長自身も今年の新年辞で「米国が依然として制裁と圧迫を続けるならば、我々としても止むを得ず国の自主権と国家の最高利益を守り、朝鮮半島の平和と安定を実現するための新しい道を模索せざるを得なくなるかも知れない」と新年辞で予告していたことから北朝鮮が米国との交渉を打ち切り、「新たな道」を歩む可能性も取り沙汰されているが、北朝鮮のこの種の予告というか、「脅し」はこれまでほとんど現実化することなく、ハッタリで終わっていた。代表的な例を三つ上げる。

 その1 グアムを包囲するための「火星12型」4発の発射予告

 北朝鮮は米朝対立が先鋭化していた2017年8月8日、核戦略爆撃機があるアンダーソン空軍基地を含むグアムの主要軍事基地を制圧すること狙った長距離戦略弾道ロケット「火星12型」4発による「グアム包囲作戦計画を慎重に検討している」との戦略軍報道官声明を発表したことがあった。

 この時は、2日後には金洛謙戦略軍司令官が「発射されれば、島根、広島、高知を通過し、射程距離3、356.7kmを1分65秒間飛行した後、グアム周辺30〜40km海上に着弾することになる」と計画の詳細まで明らかにし、「8月中旬まで作戦計画案を最終完成させ、核兵力総司令官(金正恩委員長)に報告し、発射待機態勢で命令を待つ」と述べていた。

 明らかに8月21日から始まる夏の米韓合同軍事演習(フリーダムガーディアン)を意識した言動だった。米軍が米韓合同軍事演習を中止すれば、あるいは「B−1B」戦略爆撃機の飛行を止めれば、計画を中止してもよいとのメッセージであった。

 しかし、「北朝鮮が米国を脅かすなら今直ぐに世界が見たことのない火炎と激しい怒りに直面するだろう」とツイトしていたトランプ大統領が即座に「グアムであれ、どこであれ、米国の領土であれ、同盟国であれ、何かすれば、金正恩は本当に後悔することになる」と北朝鮮に警告を発したうえで予定通り軍事演習を強行したものの北朝鮮は怖じ気ついたのか、予告した「グアム包囲作戦計画」を実行することはなかった。

 その2 「史上最高の超強硬対応措置」としての「太平洋上の水爆実験」予告

 トランプ大統領が2017年9月19日の国連演説で金正恩政権を「不良国家」「犯罪者集団」「堕落した政権」などと露骨に非難したうえで「米国と同盟を防御すべき状況になれば、他の選択の余地はなく、北朝鮮を完全に破壊するだろう」と発言したことに反発した金委員長は2日後の21日、自ら声明を発表し、「トランプが世界の面前で私と国家の存在自体を否定、冒涜し、我が共和国を消してしまうと歴代で最も暴悪な宣戦布告をしてきた以上、我々もそれに相応する史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮する」と述べていた。

 金委員長は「朝鮮民主主義人民共和国を代表する者として我が国家と人民の尊厳と名誉、そして私自身の全てを賭けて、我が共和国の絶滅を騒いだ米国の統帥権者(トランプ大統領)の暴言に対して必ずその代価を払わす」と断言していた。

 この「史上最高の超強硬対応措置」について11月15日付の労働新聞の論評は「米国は最も望まないものを身の毛がよだつほど体験することになる。悪夢で思い浮かべた物凄い光景を確実に見ることになる」と予告していた。

 米国が最も望まない「身の毛がよだつほど体験」や「悪夢で思い浮かべた物凄い光景」が何かについては国連総会に出席していた李容浩外相が「おそらく歴代最大級の水素爆弾の地上実験を太平洋上でやるのでは」(9月22日)と個人的な感想を述べていたことや北朝鮮外務省の外郭機関「米国研究所」の李容弼副所長が平壌での米CNNとのインタビューで「李外相は最高尊厳(金正恩委員長)の意を良く知っているからこそ世界は李外相の言葉を文字通り受け取るべきだ」と語っていたことから誰もが太平洋上の水爆実験を想定していた。

 しかし、トランプ政権が11月21日に「殺人政権を孤立させる」としながら北朝鮮をテロ支援国家に再指定したにもかかわらず、それでも北朝鮮は「史上最高の超強硬対応措置」を断行することはなかった。

 その3 崔善姫外務次官の「シンガポール米朝首脳会談の再考」予告

 崔善姫外務次官は2018年5月24日、北朝鮮が完全かつ検証可能で不可逆的な非核化に応じなければ、リビアの二の舞になるとか、軍オプションも排除しないと発言したマイク・ペンス米副大統領を「無知で馬鹿げている」と非難したうえで「米国が我々の善意を冒涜し、不法無道に出るならば、(開催で合意していた)米朝首脳会談の再考を最高指導部(金正恩委員長)に提起する」との談話を発表し、米国を牽制したことがあった。

 ところが、崔外務次官の発言に怒ったトランプ大統領が先手を打って、米朝首脳会談の中止を発表するや北朝鮮は慌てて、病床にあった金桂寛外務第一次官を引っ張り出して、トランプ大統領が金委員長との首脳会談に応じたことを「歴代米大統領ができなかった勇断である」と持ち上げたうえで「突然一方的に会談の取り消しを発表するのは我々としては意外であり、至極残念なことである」と述べ、「我々としてはどのような方法でも直接会って、問題を解決する用意がある」と逆にトランプ大統領に再考を促す談話を出さざるを得なかった。

 今回の崔善姫次官の「警告」も所詮ハッタリで終わる可能性が高いと米国務省が受け止めているのはこうした北朝鮮の「前歴」があるからだ。