2019年5月3日(金)

 徴用工問題での日本の「報復措置」に戦々恐々の韓国


 韓国の最高裁が日本企業に賠償を命じた元徴用工問題で韓国の被害者支援団体は日本が新元号「令和」をスタートさせた5月1日、すでに差し押さえていた韓国内の日本製鉄(旧新日鉄住金)の資産(約9300万円)と不二越の資産(7千2百万)に対して売却命令を出すよう裁判所に申請した。

 被害者支援団体は売却の手続きに入った理由について「裁判所が賠償責任を認定したにもかかわらず、これら企業が交渉に応じない」ことと、「韓国政府に仲裁の動きがない」ことの2点を挙げていた。

 日本政府は直ちに「日本企業の資産売却は絶対に受け入れられない」(菅義偉官房長官)として韓国政府に抗議したが、韓国政府は「司法の判断を尊重する」(康京和外相)と素っ気なかった。

 どうやら、司法に介入する考えも、仲裁する考えも、日本企業に代わって韓国政府が賠償する考えもないようだ。前者は、朴槿恵前政権の司法介入を糾弾しただけでなく、当時の大法院(最高裁)長官を逮捕、起訴した手前、また、後者は日本企業にかわって税金を充てることに国民の理解が得られないことにあるようだ。

 仮に日本がレッドラインとみなしている売却が行われれば、韓国は日本からそれ相応の報復措置を覚悟しなければならない。すでに麻生太郎財務相は3月12日の衆院財務金融委員会で「関税、送金の停止、ビザの発給停止とかいろいろな報復措置があろうかと思う」と述べていた。

 菅官房長官は報復措置の内容について「手の内を明かすことになる」として言及しなかったが、韓国側が想定しているのは以下の9項目である。

 ▲駐韓日本大使の召還▲国際司法裁判所(ICJ)への提訴▲日本国内の韓国企業の税務調査強化▲韓国人の本国への送金規制▲韓国製品への関税強化▲貿易保険の適用から除外▲韓国への部品、素材の輸出中断▲韓国のTPP加入拒否▲韓国人の入国ビザの審査強化等である。

 報復措置のカードを切る順序は別にしても段階的に、それも陰に陽に韓国が降参するまで日本はプレッシャーを掛けていくことになるだろう。

 韓国が最も恐れ、警戒しているのが韓国への部品、素材の輸出中断と韓国製品への関税強化である。

 日韓貿易品目をみれば、日本の対韓輸出品目は原子炉、機械類の核心部品、半導体部品、光化学機器、測定機器、検査機器、精密機械の核心部分が相当部分を占めている。主力輸出品である半導体、平面ディスプレイ等は日本製の中間財(部品や素材)と資本財(製造機械)に依存する構造にあり、日本にとって代わる国は他にない。

 どれもこれも韓国への輸出がストップすれば、韓国が被るダメージは大きい。特に韓国にとって最も辛いのは、半導体製造に欠かせない「フッ化水素」など核心素材と部品の韓国への輸出が規制されることである。

 昨年の韓国の半導体の輸出増加率は前年同期比57.4%の増。日本からの製造用装備輸入も必然的に増加し、昨年だけで57億ドルに達し、2016年度に比べて127%も増加した。従って、半導体装備や素材などの対韓輸出が規制された場合、供給不足の状況に陥り、韓国経済の最大の稼ぎ手であるサムソンを含む韓国の半導体業界は大きな打撃を被る

 関税強化の報復措置についても、例えば化学、素材業者の場合、日本との取引が活発で、合弁企業が多いだけに関税が上がれば、直撃を受けることになる。

 韓国統計庁によると、すでに2017年1年だけで韓国では5,138の企業が日韓貿易から手を引いている。貿易額は6億8千百万ドルに上る。昨年も5,459の企業が日本との貿易を止めており、この2年間で1万を超える企業が日本との商売を放棄したことになる。

 日本の報復措置は「日韓貿易戦争」を招き、韓国で黒字を出している85%の日本の韓国進出企業にも相当なダメージを与えることになるが、日本の韓国貿易への依存度(輸出の対GDP比率)が2012年の44.8%から2017年の37.49%まで落ちていることもあって、日本は強気である。

 資産が売却され、現金化するまでまだ時間が残されているが、仮に文在寅政権がこのまま対処しない場合、返り血を浴びてでも「伝家の宝刀」を切るのか?安倍政権の「本気度」が試されることになりそうだ。