2019年10月14日(月)

 遅きに失したチョ法相辞任! 「喧嘩両成敗」で次はユン検察総長?

文大統領から任命状を授与されるユン検察総長(左端はチョ法相)(青瓦台提供)


 娘の不正入学や投資ファンド絡みで夫人共々検察から疑惑の目を向けられていたチョ・グク法相が電撃的に辞意を表明した。

 法相就任から35日目。とうとうとと言うか、やっとと言うか、ついにと言うべきか、とにもかくにも辞任した。正直なところ、遅きに失した。もっと早く辞めるべきだった。いや、最初から法相を引き受けるべきではなかったし、文在寅大統領も任命すべきではなかった。

 そもそも、常識に考えて、チョ一族のスキャンダルが取りされた段階で法の番人の法相には不適任、失格であった。それを強行突破した文大統領の任命責任と、無節操にも最後まで庇い続けた政府・与党の責任は極めて重いと言わざるを得ない。国内で内乱に近い混乱を引き起こしたからだ。

 それにしても、文政権も、チョ氏本人もなぜかくも強気を崩さなかったのか?万に一つ、乗り切れると思っていたら、それこそ過信である。結局のところ、文政権も朴槿恵前政権の没落から何一つ教訓を学んでいないことがわかる。歴代大統領が何度も同じ過ちを繰り返す、ある種の「韓国病」と言えばそれまでだ。

 朴前大統領は周知のように友人の崔順実スキャンダルに連座し、連日、退陣を要求する国民の大規模蝋燭デモにさらされたが、全く聞く耳を持たなかった。国会で弾劾の動きが起きても与党が否決してくれるだろうと高を括り、辞任することはなかった。一部与党議員の造反で弾劾が可決されても、裁判長を含む保守系判事が多数を占める憲法裁判所で争えば、ひっくり返るだろうと過信し、往生際悪く、法廷闘争に打って出たが、結果は罷免され、結局は有罪、収監という末路を辿ってしまった。

 チョ法相もしかりで、検察、国会で追及され、そして大規模の「チョ辞任」要求デモに直面しても、また、学生を中心とした若い世代から中間層、そして一部与党系の支持層からも辞任を求める声が沸き上がっても、法相の座にしがみついていた。

 朴前大統領とチョ法相にあえて違いがあるとすれば、チョ氏は朴大統領と違って、自ら進んで辞意を表明したことぐらいである。その点では、遅きに死した感はあるが、賢明な判断であったと言えなくもない。

 今後の焦点の一つは、チョ・グク氏に司直の手が及ぶかどうかである。

 検察は、チョ氏が民間人に戻ったことで今後は、文政権に忖度せず、遠慮せずに調査することが可能になった。「チョ辞任」で勢いづいた野党が徹底追及を求め、世論がこれに同調すれば、「チョ逮捕」は時間の問題である。

 まして、今回の辞任が仮に本人自らの意思によるものではなく、「もはやこれまで」と、文大統領が印籠を渡した結果ならば、検察とすればなおさらやりやすくなる。文大統領は「容疑の段階で閣僚を任命できない前例を作るのは好ましくない」との理由でチョ氏を法相に起用したわけだから翻意せずに辞表を受け入れ、任を解くことは実質的にチョ氏にまつわる疑惑がホワイトではなく、限りなくブラックに近いと判断したからと受け止めるだろう。

 崔順実スキャンダルを上回る数の検事を投入し、2ヶ月にわたって延べ100か所以上も家宅捜索を行うなど、総力を挙げての今回の捜査には検察の威信がかかっているだけに決して中途半端に終わらせることはなさそうだ。

 但し、仮に検察のチョ夫人を含むファミリーへの追及の真の狙いが、巷間言われるように「検察の敵」であるチョ氏の法相就任を阻止することにあるならば、チョ氏の辞任で目的を達したことになる。文政権とのこれ以上の軋轢は得策ではないと判断すれば、夫人や弟、甥止まりで終わる可能性もゼロではない。

 もう一つの焦点は、ユン・ソクヨル検察総長の去就である。

 この期間、韓国国論は「チョ辞任」と「チョ死守=検察改革」で真っ二つに割れ、激しく対立してきたが、文大統領がチョ氏の辞意を受け入れたことは「チョ法相死守」の旗の下、結集していた革新・進歩勢力を落胆、失望させることになる。チョ氏の辞任は「死守派」の事実上の敗北となるからだ。支持率が急落しているとは言え、それでも4割強あるこのコンクリート層の離反は来年総選挙を抱える文大統領、政府与党にとっては悪夢である。従って、苦肉の策として、支持層を宥めるためにも「喧嘩両成敗」という形でユン総長に辞表を書かせようとするかもしれない。

 チョ法相をターゲットにしたチョ一家への捜査は結果として青瓦台及び政府・与党と検察の間で確執が生じたことは否定しがたい事実である。まして、検察の追及でチョ氏が辞任に追い込まれたことは、結果として検察が大統領の人事権に介入したことに等しい。その責任を取らせるという形で辞任に追い込むシナリオだ。

 文大統領としては、ユン総長が自ら辞表を提出するのが望ましいが、2021年7月まで任期があるユン総長がそう簡単に首を差し出すかどうか、それが問題だ。