2020年8月22日(土)

 「レーダー照射事件」のような事態とはならなかった日韓「海の睨み合い」

韓国海洋警察庁の警備艇(韓国海洋警察庁HPから)


 長崎県沖の日本の排他的経済水域内(EZZ)で調査をしていた海上保安庁の測量船が韓国公船から調査の中止を要求された「事件」から1週間が経った。

 海上保安庁の発表では、測量船が15日に長崎県女島沖の日本のEZZで海洋調査をしていたところ韓国の海洋警察庁の船から「韓国の海域で調査するには韓国政府の事前同意が必要」と無線で中止要求を受けたとのことだ。

 現場は日韓双方から200カイリの接点地域にあるが、測量船はその中間線の日本側の海域内(五島列島の女島から西側140km付近)で調査をしていたというのが海上保安庁の言い分である。

 日本政府は韓国からクレームを付けられる理由はないとして、逆に韓国側に測量調査を妨害しないよう外交ルートを通じて抗議し、16日も測量調査を行ったと日本では報道されている。

 一報を聞いた時は、また厄介な問題が起きたと、内心心配していた。というのも、2年前の2018年12月に日本のP−1哨戒機への韓国駆逐艦のレーダー照射を巡って日韓が「衝突」したことを思い出したからだ。この時は、日本は「照射された」と韓国を非難し、韓国は「照射してない」と応酬し、両国の間で激しいバトルが繰り広げられた。

 「レーダー照射問題」は防衛省がこれ以上言いあっても無駄と引いたことで一段落したが、直後に今度は韓国国防部が「日本の哨戒機が我々の艦船に低空飛行をし、威嚇した」と日本を批判し、これに日本が「低空飛行はしてない」と真っ向反論し、一大騒動に発展した。

 一歩対応を誤れば交戦を引き起こしかねない緊迫した状況が続いたが、結局「照射」も「低空飛行」も互いに認めることはなく、水掛け論で終わった。外交上の紛争でとどまり、手を出す事態にまではエスカレートしなかった。

 今回の「事件」も一過性で終われば良いが、日韓に横たわるこの種の「機雷」が除去されない限り、いつ爆発してもおかしくはない状況にある。日本の海上保安庁も韓国の海洋警察庁も現場は「自国の水域である」と主張しているからだ。両国とも「領海問題」は「領土問題」同様に譲ることは絶対にありえない。

 日韓両国はかつて、小泉政権下の2006年に竹島(韓国名:独島)周辺海域での海洋調査実施を巡って海上保安庁と海洋警察隊による睨み合ったことがあった。経緯はこうだ。

 韓国の海洋研究院所属の海洋調査船が日本の抗議を押し切って竹島周辺海域を含む日本海(韓国名:東海)の海底地形の韓国名を新たに登録しようと独島周辺海域で調査を実施した際、海上保安庁が巡視船を派遣し、調査中止を要求した。

 日本は当時、韓国が中止しないため対抗上、最新のデータに基づく海図を作成する準備を進め、同年4月に「6月30日まで竹島周辺海域で調査を実施する」との「水路通報」を公表した。

 この日本の動きに対して今度は韓国が周辺海域に非常警戒令を発令し、警備艇約20隻を集中配備し、「日本の調査船が韓国の主張するEEZに進入すれば、実力行使も辞さない」との構えに出た。

 竹島周辺での日本の海洋調査計画を巡るこの対立は、外務次官協議によって▲日本政府は海洋調査を中止する▲韓国政府は国際会議で海底地形の韓国名表記を提案しないことで合意文が交わされ、海上での衝突という最悪の事態は避けられたが、当時の官房長官が今の安倍首相であった。安倍首相はその後、当時の状況について「銃撃戦が起きる寸前だった」と回顧していた。

 今回幸いなのは、日本の抗議に対する韓国外務省による反発がなかったことだ。また、韓国のマスコミも騒がなかったことだ。日本の報道をそのまま紹介する程度で、ほとんど関心を示すこともなかった。

 韓国のメディアで唯一取り上げたのは「OBSニュース」(8月17日)ぐらいで、日本の抗議を「韓国のEZZとの説明を頑として受けいれないばかりか、これまで独島(竹島)測量調査を妨害してきたのに何とも厚かましい」と伝えていた。

 海上保安庁は韓国が抗議しようが、意に介さず今後も同じ行動を取ると言っている。「OBSニュース」よると、韓国海洋警察庁もまた同じ行動を取ると言っている。

 韓国の出方次第では、海上保安庁の測量船による竹島周辺での海洋調査の再開という「実力行使」も予想されるだけに予断を許さない。

  (参考資料:韓国は海では日本に勝てない!世界4位の日本に8位の韓国――日韓海軍力比較