2020年2月7日(金)

 北朝鮮は人民軍創建日(2月8日)に軍事パレードをやる?やらない?

2018年の軍事パレード(出所:労働新聞)


 明日(2月8日)は朝鮮人民軍の創建日である。

 金正恩政権は2012年に発足してから軍事パレードを6回行っている。中でも2013年は7月27日の朝鮮戦争勝利(休戦協定)記念60周年と9月9日の建国65周年に際して2度も実施していた。

 また、米朝開戦の危機にあった2017年は「4月25日」が人民軍創建85周年だったこともあって盛大に行われた。

 時間にして、約2時間50分。3月に発射され、日本の排他的経済水域に3発着弾した「スカッドER」のほかSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を地上型に改良した中距離弾道ミサイル「北極星2型」やキャニスター(収納筒)に収められた新型中長距離弾道ミサイル「火星12号」やICBM級の「火星14号」などが次々と登場した。

 一昨年(2018年)は人民軍創建70周年の年だった。というのも、1月22日の政令で正規の軍の創建日を金日成主席が抗日革命闘争を開始した1932年の「4月25日」から元来の1948年の「2月8日」に戻し、「4月25日」を革命軍創建日にすることにしたからだ。金正恩政権下で軍事パレードが厳冬の2月に行われたのはこれが初めてであった。

 平昌五輪開幕(9日)の前日に行われたこの「軍創建70周年軍事パレード」は前年のパレードとは違い、金正恩委員長が17分にわたって演説を行った。

 ミサイルは「北極星2型」「火星12号」「火星14号」の他に米本土を攻撃可能なICBM「火星15」が最後に登場していたが、前年のパレードと異なる点は米軍の「斬首作戦」を警戒してのことか、護衛司令部縦隊、党中央委員会護衛縦隊、最高司令部護衛縦隊と、金委員長を死守する護衛隊の行進が先陣を切ったことだ。

 護衛司令部は金委員長ら家族の警護を担当するだけでなく、クーデターや人民蜂起を鎮圧する部隊でもある。そのため戦車や装甲車などの火力も持っている。護衛司令部はいわば、金正恩体制を死守する堡塁である。

 また、党中央委員会護衛隊は金委員長を首班とする党中央委員会、即ち党幹部らの護衛を任務とした部隊であり、最高司令部護衛隊は朝鮮中央放送が呼称しているとおり金正恩第一親衛隊、金正恩第一決死隊である。党中央委員会護衛隊も最高司令部護衛隊も金正恩委員長の暗殺や党・軍幹部らの除去を狙った米韓連合軍による「斬首作戦」を警戒し、2017年に創設されている。

 この年の軍事パレードは5日前に労働新聞が「8日に我が軍と人民は軍創建70周年を盛大に記念することになる」と予告していた。

 今年は節目の年ではない。実際に昨年(2019年)も行われなかった。当日(8日)に金委員長が創建日を祝って人民武力省を訪問し、また、軍司令官らを党舎に招き、宴会を開いただけだった。月末(27日)からベトナムのハノイで第2回米朝首脳会談がセットされていたため自制したのかもしれない。実際に軍事パレードが行われなかったことをトランプ大統領はツイッターで評価していた。

 今年も節目の年ではないが、ハノイ会談が決裂したこと、年末まで米国が北朝鮮の要求に応えなかったことで金委員長が米国との対決姿勢への回帰を宣言し、年末の党中央委員会全員会議で国防力の一層の強化を打ち出したこと、先月、米軍が無人機を使ってイランの精鋭部隊、革命防衛隊のスレイマニ司令官を殺害する事件が起きたこともあって軍事パレードを再開するとの見方も米国や韓国内では出ている。

 そうした見方を裏付けるかのように先月末に平壌近郊の美林飛行場に大規模閲兵式を準備しているかのような状況が偵察衛星によってキャッチされていた。北朝鮮としては昨年5月から11月に掛けて相次いで発射実験に成功し、「この兵器の標的にされている勢力にとって我々の試験射撃の結果は払いのけることのできない苦悶となるだろう」と豪語していた北朝鮮版「イスカンデル」を含む一連の新型単距離ミサイルを米国を牽制するためにもお披露目させたいところである。

 しかし、7日現在、予告もなければ、兆候もみられない。計画していたが、世界中を恐怖のどん底に陥れている新型コロナウイルスの感染を恐れ、一転中止、もしくは延期を決めた可能性も否定できない。

 軍事パレードは通常は閲兵式と群衆示威がセットになっている。2018年は軍人が延べ1万3千人、平壌市民5万人が金日成広場に集結していた。中国で猛威を振るっているコロナウイルスの感染を警戒するならば、やりたくてもできないのが実情だろう。