2020年1月12日(日)

 韓国メディアの予想に反し、北朝鮮が米国の「イラン軍司令官殺害」を国民に隠さず伝達!


 イラン革命防衛隊のソレイマニ「コッズ部隊」司令官を米国が無人機を使って殺害した事件は非核化の約束を反故にし、「新たな戦略兵器」の発射を示唆している北朝鮮に対する警告との見方が米国、日本、韓国では一般的だ。

 また、反米同盟国のイランの軍司令官が米軍に殺害されたとのニュースはあまりにも衝撃的であるため「金正恩政権は国民に伝えず、一切伏せるのでは」と韓国の一部メディアは予測していた。ロンドン駐在の北朝鮮大使館から4年前に韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)元公使氏もそうした見方を取っていた一人である。

 太元公使氏は6日前に自身のブログで米国がソレイマニ司令官を無人機で殺害した件に関し「今回の空襲事件は金正恩を非常に驚かせただろう。金正恩は事件を国民に隠すだろう」と断言していた。事件のニュースが北朝鮮国内に流入して国民の間で知られることは「金正恩氏にとって大きな負担になるはずだから」とその理由を述べていた。

 さらに、金正恩委員長が警戒のあまり、当面は公の活動を控えるのではとの憶測も流れていた。実際に6日付の韓国を代表する保守紙「朝鮮日報」は「米国の斬首作戦に北朝鮮沈黙 金正恩5日間も外出せず」との見出しを掲げ、長期にわたる潜伏の可能性を示唆していた。しかし、いずれも予想が外れた。

 第一に、北朝鮮は事件発生から3日後の6日、即ち太前公使がブログを書いたその日には外電を引用し、「国連憲章を違反する米国のミサイル攻撃を糾弾」という見出しを掲げて「米国がイラク・バクダッドにある飛行場を攻撃したことに中国とロシアの外相が糾弾した」と労働新聞で伝えていた。

 記事は、「ミサイル攻撃が3日にあった」ことと「この攻撃で現場にいたイランのイスラム革命近衛隊のコッズ部隊の司令官とイラク軍の高位指揮官などが死亡した」と7行程度の短いものであったが、労働新聞は今朝(12日付)も「最近の中東地域情勢」という見出しを掲げてこのニュースを取り上げていた。記事の中身は以下のとおり。

 ▲米国が3日にバクダッドの飛行場を空襲し、コッズ部隊司令官ら8人を殺害した。

 ▲専門家らは米国の空襲は中東地域でのイランの地位を圧迫し、その影響力を弱体化させることに目的があり、そのことがイランの限界線を刺激していると評している。

 ▲イランの最高指導者ハメネイ師が声明を通じてコッズ部隊司令官殺害は抵抗聖戦が倍の力となって継続されると語り、ロハニ大統領も米国は大きな代価を払うことになると強調していた。

 ▲この事件を契機にイランでは反米感情が増大し、5日にイラン政府は核合意の義務履行を順守しないことを発表した。

 ▲イラク国会は特別会議を開き、米国など外国軍隊のイラク駐屯を終息させるための決議を採択した。決議はイラク政府が自国の主権と安全を酷く侵害した行為を国連に起訴し、米国の空襲について最高位級の調査を行うことを呼び掛けている。

 ▲イラン革命防衛隊は8日朝、イラクにある2か所の米軍基地にミサイル攻撃をかけた。

 ▲イラン外務省は自国が緊張激化と戦争を追求しないが、いかなる侵略にも対処し、自ら防衛すると言明した。

 ▲イランのミサイル攻撃後、米国は新たな対イラン制裁を発表した。

 ▲急激に悪化する中東地域の事態発展を国際社会は注目している。

 前回の記事に比べて比較的に長いが、主観を交えず、客観的に伝えており、米国、トランプ政権に対する直接的な批判はなかった。

 金正恩委員長自身も潜伏するどころか、労働新聞が一報を報じた6日には公の場に出ていた。そのことは、朝鮮中央通信が7日に「肥料工場の建設現場を視察した」と写真付きで報じたことで判明した。まさに、「朝鮮日報」が「米国の斬首作戦に北朝鮮沈黙 金正恩5日間も外出せず」と報じたその日に公の場に出ていたのである。

 北朝鮮はイランと違い、米国にまだ危害を加えていない。テロ行為も破壊行為も、米国が定めたレッドラインもまだ越えていない。年末の党中央委員会総会で「米国は直ぐに我々が保有する新たな戦略兵器を目撃することになるだろう」と言ったもののまだ行動には移していない。従って、隠れる理由はどこにもない。あったとしても、まだ早すぎる。

  (参考資料:米国のイラン軍司令官殺害に金正恩委員長は委縮?それとも挑戦!? )  

 ちなみに金正恩政権発足の2012年から2019年までの1月の金委員長の公式活動をみると,2012年=11回、2013年=6回、2014年=8回、2015年=7回、2016年=10回、2017年=10回と、平均して10回前後あったが、2018年は11日の国家科学院と16日の平壌教員大学、及び24日の平壌製薬工場の訪問の3件しかなく、2019年も8日からの訪中(〜10日まで)を除くと、元旦の錦繍山太陽宮殿参拝と23日の訪米使節団(団長=金英哲政治局員)との接見の2件しかなかった。

 今年も今のところ、元旦の参拝を除くとまだ1件。新年辞に替わる昨年末の党中央委員総会での7時間にわたる演説で「衝撃的な実際行動に移す」とか「米国は近々、我々が保有する新たな戦略兵器を目撃する」と予告したこともあって金委員長の動静に目が離せないのは確かだが、何か行動を起こす伏線があるとすれば、過去にミサイルが発射されたことのある地域周辺を訪れた時で、警戒すべきはまさにこの時である。

 ▲ (参考資料:イランの次は北朝鮮? 「米国vsイラン」と「米国vs北朝鮮」の決定的な違い! )