2020年7月20日(月)

 2日連続で怒りまくった金正恩委員長 一体、何に怒っているのか?

18日の党中央軍事委員会拡大会議での金正恩委員長(労働新聞から)


 最長で3週間以上、最短でも2週間の間隔を開けて公式活動を行っていた金正恩委員長が一昨日(18日)に続き、昨日も公の場に姿を現した。

 一昨日の土曜日は平壌で開催された党中央軍事委員会拡大会議を指導するためだ。祖父・金日成主席の命日(8日)に錦繍山太陽宮殿を参拝してからまだ10日目しか経っていない。

 昨日の日曜日は10月10日の労働党創建75周年までの完成を目指している平壌総合病院の建設現場を視察するためだ。金委員長の2日連続の活動は軍部隊の訓練視察と政治局会議に出席した4月10日〜11日以来、約100日ぶりのことである。巷間囁かれていた健康不安はこれで完全に払拭したとも言える。

 日米韓のメディアは「核戦争の抑止力」が討議されていた5月の拡大会議とは異なり今回の会議では単に「戦争抑止力」という表現にとどめていたことを話題にしていたが、例の金委員長の専属女性アナウンサーが伝えた3分34秒にわたる映像をチェックする限り、今回拡大会議を開いた目的が他にもあるような気がしてならない。何よりも、金委員長は終始、不機嫌で怒りまくっていた。そのことは、以下の点から窺い知ることができる。(※写真はいずれも「労働新聞」から)

 ・眉間にしわを寄せ、終始険しい表情だった。

 ・眼光鋭く、まるで睨みつけるかのように会場を見渡していた。

 ・一度も原稿に目を通さず、身ぶり手振りまくし立てていた。

 ・時に激高するかのように早口でまくし立てていた。

 ・思うようにいかないことに腹を立てているのか、何度も念を押すかのように右手指で卓上を突いて、何事かを強調していた。

 ・会場に座っている軍人を何人かを立たせて、問いただしていた。

 ・拡大会議なのに演壇で発言する者は一人もいなかった。

 ・結局、一人で一方的にしゃべりまくり、会場を後にして行った。

 音声はかき消されているため何を問題にしていたのか、何に怒りをぶつけていたのかは不明だが、会議では「新世代の軍指揮官らを我が党の革命思想で徹底的に武装させることの重要性が強調された」と報道されているところをみると、軍の規律の乱れ、即ちタガが外れていることが問題にされたようでもある。

 韓国のメディアには北朝鮮の指揮官や兵士らの間で麻薬が流行り、麻薬がらみの犯罪が横行していること、腹が減った軍人が民家を襲い、略奪する事件が後を絶たないこと、動員された工事・建設現場から「脱走」する兵士が増えていること、さらに最近、脱北兵士が米国のメディアに「賄賂があれば、軍事演習をしないで済む」と賄賂次第の実情を暴露したことなどが怒りに繋がったのかもしれない。

 怒りは翌日の平壌総合病院建設視察でも爆発し、朝鮮中央通信によれば、現場で責任者(平壌総合病院建設連合常務)から工事全般に関する報告を受けた金委員長は「建設に関連した経済組織事業で表れた問題点を厳しく指摘した」ようだ。

 問題点として▲「今になっても建設予算を立てておらず、めちゃくちゃに経済組織事業を行っている」こと、▲「設備や資材の保障事業が政策的に脱線している」こと、そして▲「支援事業を奨励することでむしろ人民に負担をかけている」ことがやり玉に上がったようだ。

 ここで指摘されている「支援事業を奨励することでむしろ人民に負担をかけている」とは日本でも一部メディアで報道されていた一般人民から「献金」という名の徴収を半ば強制的に行っていることを指しているようだ。「献金」徴収が人民の反発を買っていることは言うまでもない。

 朝鮮中央通信は「金委員長が厳しく叱責した」と伝えていたが、金委員長はよほど頭に来たのか、随行した経済担当の朴奉珠国務副委員長(前総理)及び金才龍総理に対して現場責任幹部らの全員交代を指示していた。

 金委員長肝いりの平壌総合病院建設の着工式が行われたのが3月17日。長引く経済制裁と「コロナ禍」の最中、人海戦術、突貫工事で進められているが、10月10日までに3か月を切った。果たして間に合うだろうか?