2020年6月19日(金)

 北朝鮮の「爆破」で吹っ飛んだ文大統領の壮大な「野望」 破綻した「朝鮮半島新経済地図構想」

文在寅大統領(青瓦台提供)


 北朝鮮の韓国、文在寅政権に対する怒りは尋常ではない。

 韓国とは「もう対話することも、何か一緒にやることも、協力することもない」と言っている。文在寅大統領の特使派遣を拒絶したのも南北共同連絡事務所を爆破したのもまさにその決別の証のようだ。

 「もう二度と相手にしない」と「絶交」を高らかに宣言した以上、金正恩委員長が文大統領と交わした朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向けた「板門店宣言」も軍事対決を終息することを約束した「平壌宣言」もご破算にする気だ。そして、その手始めとして「平壌宣言」の産物である南北軍事合意の破棄に踏み切った。

  (参考資料:「百害あって一利なし」の南北共同連絡事務所の爆破 北朝鮮の7つのデメリット

 南北双方は2018年9月19日に交わされた軍事合意に基づいて軍事境界線にある10か所の歩哨所(監視所)を爆破、撤収させ、また、軍事境界線より5キロ以内での軍事演習も中止してきた。ところが、北朝鮮の軍総参謀部は歩哨所の再設置と軍事訓練の再開を宣言し、早くも17日午後から行動に移している。鉄帽をかぶった兵士が歩哨所に入っていく様子が韓国側によってすでに確認されている。

 日本の輸出厳格化措置が日韓の火種となった昨年の夏、文大統領は「我々は二度と日本に負けない。今日の韓国は、過去の韓国ではない」と国民向けの談話を発表していた。「日本に負けない」前提条件こそが「南北が協力して平和経済が実現すれば」というものであった。

 文大統領は「南北が力を合わせれば」8000万人の単一市場が出来上がり、そうすれば2024年までに一人当たり国民所得が4万ドル(現在は3万ドル)を超え、GDPランキングは6位(現在12位)に跳ね上がり、国民所得は2050年頃には7〜8万ドルに到達すると数字まで上げていた。さらに、2032年にはソウルと平壌で南北共同による夏季五輪を開催することを誓っていた。

 文大統領はこうした過程を経て南北分断から100年目になる2045年にはワン・コリア(統一)を実現すると国民に青写真まで示していた。

 この壮大な夢を実現するため文大統領は「朝鮮半島新経済地図構想」を打ち出していた。経済面での南北タイアップのため朝鮮半島に3つの経済ベルトを設けるとの構想である。

 具体的には、朝鮮半島の東側(東海=日本海側)にエネルギー・資源ベルト、西側(黄海側)に港湾業・物流・交通ベルト、そして中心の非武装地帯(DMZ)に環境・観光ベルトを作るという構想だ。

 1の東海エネルギー・資源ベルトとは 、日本海側にある金剛山〜元山〜端川〜清津〜羅先(ロシアとの国境都市)を開発し、韓国の釜山からロシアまで連結させるというもの。

 2の西海港湾業・物流・交通ベルトとは 、朝鮮半島の西側にソウル〜開城工団〜平壌〜南浦〜新義州(中国との国境都市)のベルト地帯を設けて、鉄道と道路で結ぶというもの。この中にはソウルから北京まで高速鉄道(新幹線)通すプランも入っている。さらに仁川〜開城〜海州を結ぶ物流ネットワークもある。

 3のDMZ環境・観光ベルトとは、軍事境界線上の雪岳山から金剛山〜元山〜白頭山を結ぶ観光ベルトを指す。

 元山は金委員長の肝いりで巨大リゾート施設の建設を進めていることで注目されているが、文大統領は中断している金剛山観光を再開させ、ゆくゆくは雪岳山と元山を結び、観光事業を発展させる考えだった。また、板門店から開城までを特区(平和協力地区)に指定し、DMZも国際平和地帯にして国連機関を誘致することも構想していた。

 それもこれも今回の北朝鮮の「絶交宣言」で泡と消え、構想が「妄想」となってしまった。文大統領の落胆、失望が半端でないことがわかる。

  (参考資料:文大統領の「南北経済協力で日本に勝つ!」の「隠し玉」は北朝鮮の地下資源か!?