2020年6月5日(金)

 韓国は「コロナ禍」最中に財界トップを逮捕できるのか?

インド訪問中にサムソンの現地工場を視察した文大統領と李在鎔副会長(出所:青瓦台)


 韓国の検察が昨日(4日)韓国最大企業のサムソングループのトップ、李在鎔(イ・ジェヨン)サムソン電子副会長の逮捕状を裁判所に請求したと聞いても普段は驚かないが、「コロナ禍」のこの時期に逮捕状を請求したとなると、話は別だ。正直意外な感がした。

 サムソンは社員19万人を擁し、世界各地に65の生産法人と130の販売法人を展開し、売上高が300兆ウォンで、韓国のGDPでは22%、輸出額では全体の24%を占め、資産が韓国国富の3分の1に迫る大企業である。

 そのトップを逮捕しようとするのだからこれぞまさに韓国と言うほかない。というのも、韓国は前大統領であれ、前大法院長(最高裁長官)であれ、前検察総長であれ、前警察庁長官であれ、不正があれば、容赦なく逮捕するお国柄だからである。

 李副会長逮捕状請求については8日にソウル中央地方法院(地裁)で逮捕状発付の是非に関する審査が行われ、8日深夜もしくは9日早朝には結論が出るものとみられる。

 李副会長は5月26日、29日に2度、検察に呼ばれ、約17時間にわたって事情聴取されていたことから起訴されるのは時間の問題とみていたが、コロナ禍のこの時期に財界のトップの身柄を拘束することはないだろうとみていた。それだけに検察の執念が半端でないことがわかる。

 世界企業ランキングで18位の世界的ブランド企業であるサムソンの実質的トップの逮捕だけに裁判所がどのような判断を下すのか、当然韓国国内だけでなく国際的な関心を集めることになるだろう。

 李副会長にはサムソンの経営権継承をめぐるサムソン物産と第一毛織の合併過程での不正や第一毛織の子会社であるサムソン・バイオロジックスの会計不正容疑が掛けられており、検察はこれまでにサムソンに対して50数回の家宅捜査と、関係者110人に対して延べ430回に及ぶ事情聴取を行っていた。

 検察の執拗な捜査に困惑した李副会長側は2日前に検察の起訴や拘束令状請求が妥当かどうかを外部の専門家や国民に判断してもらうため検察に「捜査審議委員会」の招集を申請したばかりだった。検察の電撃的な逮捕状請求はその矢先のことだけに李副会長側が受けたショックは想像を絶するものがある。

 韓国の「捜査審議委員会」は日本の「検察審査会」のようなもので検察改革の一環として2年前の2018年に導入されている。しかし、審議委員会関連手続きが行われている最中の拘束令状が請求されたのは今回が初めてである。

 李副会長は経済活性化を目指す文在寅政権の後押しもあって最近も中国の西安半導体工場を視察する一方で国内の平沢の半導体工場の設立計画を発表するなど財界トップとして精力的に動いていた。5月初旬には自ら国民に謝罪し、経営権の継承疑惑については自分の子供に経営権を世襲させないことを誓うなどサムソンの出直し(ニューサムソン)を宣言したばかりだった。

 韓国国内では「コロナ事態」と米中冷戦の悪影響による国家的な経済危機状況で逃亡の可能性のない李副会長を拘束する理由はないとの批判の声が上がっているが、仮にトップが逮捕され、不在となると、サムソンのみならず韓国経済全般に悪影響を与えるのは必至だ。

 なお、李副会長は2017年に朴槿恵前大統領への贈賄を含め5つの容疑で逮捕、起訴されこの年の8月にソウル中央地方法院で懲役5年の有罪判決を受けていた。しかし、翌年(2018年)2月の控訴審では贈賄など一部が無罪となり、懲役2年6か月、執行猶予4年に減刑され釈放されていたが、検察が大法院に控訴した結果、昨年8月に二審判決をすべて破棄され、ソウル高裁に審理が差し戻されていた。

 李副会長が仮に逮捕、起訴されれば、誰よりも困るのは頼りにしていた文大統領ではないだろうか?

 文大統領は2018年7月にインド訪問時にサムソンの現地工場を視察したのを含め昨年4月にサムソンの電子工場、10月にサムソンディスクの工場を訪れるなど李副会長との関係を深めていた。