2020年10月31日(土)

 韓国の前大統領(懲役20年)と元大統領(懲役17年)が再び揃って収監!

再び収監される李明博元大統領(左)と朴槿恵前大統領(筆者による合成写真)


 今年2月に保釈されていた李明博元大統領(79歳)が29日に最高裁で懲役17年の判決が確定したことで再び収監されることとなった。李元大統領は来月(11月)2日にソウル東部拘置所(ソウル市内)に護送される。李元大統領の後任の朴槿恵前大統領(68歳)はソウル東部拘置所とは別のソウル拘置所(京畿道義王市)にすでに収監されている。

 元職と前職の大統領が枕を並べて収監されるのは1995年に逮捕、収監された全斗煥元大統領 (1980年9月1日―1988年2月24日)と後継の盧泰愚元大統領 (1998年2月25日―1993年2月24日)以来である。

 全・盧両氏とも反乱(1979年のクーデター)と内乱(1980年の光州事件)、大企業からの収賄容疑で逮捕され、1997年にそれぞれ死刑と無期懲役が求刑された。判決ではそれぞれ無期懲役と懲役12年に減軽されたが、全斗煥被告の場合は追徴金が2259億ウォン、盧泰愚被告にも追徴金2838億ウォンが課せられた。

 ▲李明博元大統領(2008年2月25日―2013年2月24日)

 収賄容疑などで2018年3月に逮捕された李明博元大統領は翌4月に起訴され、この年の10月5日の1審で懲役15年、罰金130億ウォン、追徴金82億ウォンを宣告され、収監された。

 翌2019年3月に病気治療を理由に保釈(保釈金は10億ウォン)されたが、今年2月19日の2審で懲役17年、罰金130億ウォン、追徴金57億8千万ウォンの刑が宣告されため保釈が取り消され、再度拘束された。しかし、保釈取り消しの決定に対して抗告したため保釈取り消しの執行が停止され、25日にソウル東部拘置所から釈放されていた。

 今回、最高裁が李被告の上告を棄却したことで2審(高裁)の判決が最終的に確定したが、横領と収賄絡みの李被告の容疑は主に二つに集約されていた。一つは「BBK絡み」である。

 「BBK」は在米韓国人の金敬俊氏が1999年に韓国で設立した投資顧問会社である。金敬俊氏は株価を操作し、投資資金を横領したとして逮捕され、その後、実刑判決を受け、服役を余儀なくされたが、李被告は大統領在任時代に大統領府を動員して「BBK株価操作」関連事件に介入した疑いを掛けられていた。もう一つは「ダース秘密資金疑惑」である。

 李被告の指示で設立されたとされる自動車部品会社「ダース」(旧、テブ機工)の秘密資金120億ウォンの造成経緯や「ダース」が「BBK」への投資金140億ウォンを金敬俊氏から回収する過程で李被告が介入したとの疑惑だ。「ダース」が投資金回収のため米国で起こした訴訟の代金をサムソンが収監されていたオーナの恩赦を見返りに支払ったことで李被告に収賄罪が適用されることになった。この疑惑との関連ではすでに李被告の子息や兄、親族、さらには「李大統領の金庫番」と称される側近らが軒並みに検察に召還され、調査を受けていた。

 大法院の判決では李被告は「ダース」から約252億ウォンを横領し、また、同社の米国での訴訟費用を韓国最大の財閥サムスングループに負担させるなど計約94億ウォンの賄賂を得たとされている。

 ▲朴槿恵前大統領(2013年2月25日―2017年3月10日)

 朴槿恵前大統領は長年の知人である崔順実(チェ・スンシル)被告と共謀してサムスングループなど大企業から多額の賄賂を受け取った容疑や情報機関・国家情報院(国情院)から裏金を受け取った容疑などで2017年3月31日に逮捕され、4月に起訴された。

 検察は朴被告に懲役30年と罰金1185億ウォンを求刑していた。罰金の額は一足先に懲役20年の判決(求刑25年)を受けた共犯の崔順実被告のそれとほぼ同額であった。

 ソウル高裁(2審)は今年7月に差し戻し審で朴被告に崔順実同様に懲役20年(収賄罪15年+職権乱用罪5年)を宣告したが、罰金は約6分の1の180億ウォン、それに追徴金35億ウォンの判決を言い渡していた。なお、朴被告が大法院に上告していないため刑は事実上確定している。

 韓国は日本以上に経済犯への罪は重く、厳罰に処される。特別犯罪加重処罰法に基づけば、収賄金額が1億ウォンを超えた場合、最低でも懲役10年が課せられる(最高で無期懲役刑)。

 それにしても、韓国では歴代大統領が裁かれるという歴史が途切れることなく、繰り返されている。

 全斗煥―盧泰愚と2代続いた軍人政権の後に登場した文民政権の金泳三大統領 (1993年2月25日―1998年2月24日)も次男が逮捕され、次の「民主政権」の金大中大統領 (1998年2月25日―2003年2月24日)も3人の息子も収賄容疑で芋づる式に逮捕されていた。

 李明博氏の前任の盧武鉉大統領 (2003年2月25日―2008年2月24日)もまた退任後、収賄容疑で兄が逮捕され、夫人と本人自身にも容疑が掛けられ、最後は崖から身を投げて自ら命を絶っている。これほど光と影のコントラストがくっきりと分かれる権力者ばかりが続く国は他にはないだろう。

 韓国の大統領史はまさに前任者が後任に裁かれるという歴史であると言っても過言ではないが、国民から与えられた絶対的な権力を乱用して、私利私欲に走り、国民の信に背くような罪を犯したならば、退任後にそのツケを払わなければならない、自分とその家族、親戚、側近たちがやってきた悪事までひっくるめて責任を追及されるのが韓国の大統領の宿命である。