2021年4月11日(日)

 北朝鮮の矛先は日本! ヒートアップする対日非難! 米国に対しては沈黙!

金正恩労働党総書記(労働新聞から)


 北朝鮮の対日非難が止まらない。エスカレートする一方だ。

 年明けに開催された労働党第8回大会と関連イベントが終了すると同時に日本バッシングが始まったが、1月は岸信夫防衛相が「北朝鮮の軍事動向には引き続き重大な関心を持って情報収集、分析に全力を挙げる」と語った発言(1月12日)に関する16日付の朝鮮中央通信の論評(「大勢を正しく見て分別のある行動を取るべき」)を含め3件だった。また、2月も拉致問題解決に向けて決意を表明した菅義偉首相の衆議院本会議での発言(1月20日)を「世界最大の拉致犯罪を覆い隠そうとする破廉恥な妄言」と批判した2月21日の朝鮮中央通信の論評を含め2件と少なかった。

(参考資料:北朝鮮が「日本非難」を再開! 拉致問題の解決は遠のく?)

 しかし、3月に入ると、ギアアップしたのか、7日に外務省傘下の日本研究所の研究員が駐ジュネーブの日本代表が国連人権委員会(2月24日)で「慰安婦問題は日韓条約で解決済」と発言したことを「歴史を否定する日本の未来はない」と槍玉に挙げるなど批判件数は5件に増えた。そのうち3件は防衛省の護衛艦建造計画や次期戦闘機開発計画を非難するものであった。

 今月はまだ11日なのにその数すでに6件に達している。時系列でみると、以下の通りである。

4月2日  「朝鮮人強制連行被害者・遺族協会」が元徴用工問題や慰安婦問題で日本に賠償を求める談話を発表。「歳月が流れ、世代が変わっても我々は日本の万苦罪悪を決して忘れず、百倍千倍の代価を受け取ってみせる」と強調。

4月4日  朝鮮中央通信が竹島の領有権を記述した文科省の高校教科書検定を非難。「日本の反動者らの執拗かつ破廉恥な歴史教科書歪曲行為の根底には間違った歴史教育を通じて後進たちに軍国主義の亡霊を注入させ、大東亜共栄圏の昔の夢を何が何でも実現しようとする陰険で凶悪な策略が含まれている」と非難。

4月6日  対外宣伝メディアである「我が民族同士」が文科省の高校教科書検定について「ますます露骨になっていく日本の歴史歪曲に全民族が怒っている」と批判。

4月6日  朝鮮中央通信が3月25日の北朝鮮の短距離弾道ミサイル発射を批判した菅首相の発言に対して「自衛権の露骨的な否定であると同時に乱暴な侵害である」と断じ、「日本こそが地域の平和と安全を脅かす張本人である」と反発。

4月8日  朝鮮中央通信が日本海を「東海」と米国のインド太平洋軍が声明で表記したことに坂井学官房副長官が抗議したことに「全朝鮮民族は日本の度が過ぎた歴史歪曲と領土強奪策動を一層鋭利に注視している」と論評。

4月8日  労働党機関紙「労働新聞」が10付の国際面に「朝鮮人を侵略戦争の犠牲物にした日帝の最悪」との見出しの記事を掲載し、「我が人民は日本の反人類的犯罪行為を絶対に忘れず、必ず決算する」との記事を掲載。

 北朝鮮による4月6日の東京五輪不参加表明がこうした対日非難の流れの中であったことは「悪性ウイルス感染症による世界的な保健の危機状況から選手を保護するため」との不参加理由を額面通り、受け止めることができない所以でもある。

 北朝鮮の主敵は自他ともに認めるように米国である。金正恩総書記自身も1月の党大会で米国を「最大の主敵」と位置付けていた。しかし、現実には北朝鮮は米国への批判、非難を控えている。バイデン政権がミサイルや人権問題で金正恩政権を辛辣に非難しても音なしの構えである。

 米国に向けて非難めいた発言をしたのは党大会での金総書記の演説と「米国の対朝鮮敵視政策が撤回されない限り、いかなる朝米接触や対話も行われない」と述べた崔善姫外務第1次官の3月17日の談話ぐらいだ。バイデン政権の新たな対北政策が明らかでないため自制しているのか、それとも米国が譲歩するまで無視する政策の一環なのかは定かではないが、日本への対応とは好対照だ。

(参考資料:「バイデンVS金正恩」 米国の新政権に対する北朝鮮の「A」と「B」プラン)

 問題はヒートアップする北朝鮮の対日非難の狙いだ。

 潜水艦発射型弾道ミサイル(SLBM)など今後予定されているミサイル発射に向けてのアリバイ作りなのか?それとも日韓を離間させることが目的なのか?あるいは近い将来あるかもしれない日朝議員連盟訪朝団との交渉に向けてハードルを上げようとしているのか?どちらにしても不気味だ。

(参考資料:「米朝ハノイ会談」決裂後の北朝鮮の短距離ミサイル発射の全容(2019年5月4日〜21年3月25日))