2021年8月30日(月)

 北朝鮮が核開発を再開か! IAEAが寧辺核施設再稼働の兆候をキャッチ!

 ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の記事(現地時間29日付)によると、国際原子力機関(IAEA)は最新報告書で「(北朝鮮の)寧辺で7月以降、冷却水の排出のような原子炉稼働の兆候が発生している」と指摘したようだ。

 寧辺の原子力発電所は少なくとも2018年12月から稼働していなかった、とIAEAが推定していたのでWSJは原子炉の再稼働はイラン核合意復帰に向けた交渉などを抱えるバイデン政権の外交に「新たな問題となる」とみているようだ。

 寧辺核施設の再稼働が始まったのが7月頃ならば、「対話と対決のいずれの準備もしなければならない」との金正恩総書記の6月17日の労働党中央委員会総会での発言後ということになる。ということは、北朝鮮は対話のために7月27日に1年1か月ぶりに遮断していた南北通信連絡を再開させ、その一方で対決に備え核開発を再開したということになる。

 金総書記の実妹、金与正党副部長は米韓合同軍事演習について「我が政府と軍は韓国が8月に再び敵対的な戦争演習を行うのか、それとも勇断を下すのか,鋭意注視している」と述べ、中止を求めていた。米韓が要請を無視して演習を強行すると、兄の委任を受け「我々に反対するいかなる軍事行動にも迅速に対応できる国家防衛力と強力な先制攻撃能力をより強化していくことにいっそう拍車をかける。(米韓の)危険な戦争演習は必ず自らをより重大な安保脅威に直面させるであろう」との談話を発表していた。

 一昨日も北朝鮮外務省は演習終了を受け、ホームページ(29日付)に「今回の侵略戦争演習を通じて我々は外部の脅威を強力に牽制し、除去できる国家防衛力と先制打撃能力を引き続き強化する必要があることを改めて認識した」との記事を載せていた。

 この記事で目を引くのは「敵対勢力に強対強で立ち向かい、最強の戦争抑止力を不断に備蓄していく」ことを強調していることだ。北朝鮮は核開発に反対している中露や国際社会の眼を意識し、「核戦力」という言葉は使用していないが、「戦争抑止力」が核・ミサイルを指しているのは言うまでもなく、「戦争抑止力を不断に備蓄する」ということは核ミサイルの生産を継続することを意味している。

 北朝鮮は史上初の米朝首脳会談(2018年6月)を前に開催した党中央委員会総会(4月21日)で「臨海前核実験と地下核実験、核兵器の小型化、軽量化、超大型核兵器と運搬手段開発のための事業を順序行い、核武器兵器化を実現した」として、「4月21日から核実験と大陸間弾道ロケット試験発射を中止する」と宣言し、実際に核実験場を爆破していた。

 しかし、核開発の中止までは宣言していなかった。核施設の破棄は米国に北朝鮮の要求を呑ます切り札にするためだ。北朝鮮は米国が制裁を解除すれば、寧辺の核施設を破棄する用意があったが、ハノイでの2度目の米朝首脳会談でトランプ政権は北朝鮮の要求を受け入れなかった。

 北朝鮮はハノイ会談が決裂した翌年1月の党中央委員会総会で前回の総会で採択した核と経済開発を同時に並進する路線の離別から再び「戦略兵器」の開発を軸とした国防力強化の路線への回帰を宣言していた。

 また、金総書記は今年1月に開催した労働党第8回大会での報告で「敵対勢力の脅威と恐喝を終息させるため」▲核兵器の小型軽量化及び様々な手段に用いることができる戦術核兵器の開発▲超大型核弾頭の生産▲原子力潜水艦の建造▲軍事偵察衛星の運用▲1万5千kmの射程圏内にある戦略的対象物を正確に打撃できる命中率をさらに向上させ、核先制と報復打撃能力を高度化させること等を指示していた。

(参考資料:進水式目前の北朝鮮の新型潜水艦とSLBM(北極星1〜5)の全容)

 今回の寧辺の原子炉再稼働がバイデン政権の気を引くためのアドバルーンなのか、それとも来るべき米国との対話再開に向け、交渉力を高めるための戦術なのか、或いは核を絶対に放棄しないことへの意思表示なのか、どちらにしても、気掛かりなニュースである。

(場所が特定された北朝鮮の隠されたウラン濃縮施設「カンソン」)