2021年1月13日(水)

 海上で睨み合う海上保安庁VS韓国海洋警察庁 憂慮されるのは一触即発だった2006年の再現

韓国海洋警察の警備船(韓国海洋警察庁のHPから)


 「徴用工問題」「慰安婦問題」に加え、日韓にまた新たな火種が持ち上がった。それも実に厄介な問題だ。

 それと言うのも、またもや海上保安庁と海洋警察庁が日韓の微妙な海域で睨み合ったからだ。数年前に日本海で韓国駆逐艦による日本の哨戒機(P-1)への火器管制レーダー照射事件が起きたが、それを彷彿させるような出来事と言えなくもない。へたをすると、「紛争」に発展しかねない。事のあらましについての日韓の言い分は以下の通りだ。

 ▲日本の主張

 海上保安庁の測量船「昭洋」が10日午後11時頃から長崎県の五島列島の南西に位置する女島の西140キロの日本の排他的経済水域(EZZ)で地質調査をしていたところ、翌日の11日午前3時25分頃に韓国海洋警察庁の警備艇が現れ、無線で「ここは韓国の海域だ」として調査の中止を要求。これに対して海上保安庁は「日本の排他的経済水域で正当な調査活動をしている」と、逆に韓国の警備艇に対して直ちに日本船から離れるよう警告したとのことだ。日本は外交ルートを通じて韓国政府に抗議もしている

 ▲韓国の主張

 韓国海洋警察庁所属の警備艇が10日午後11時45分、済州島西帰浦南東70カイリ(約126キロメートル)の海上で日本の海上保安庁の測量船を発見し、「韓国の領海である」と伝え、日本の測量船に海域の外へ出るよう求めたとのことだ。韓国の外交部は日本から抗議があった事実を明らかにしたうえで「海洋警察は韓国の管轄水域で正当な活動を行っていた」として「韓国の事前同意のない日本の海洋調査は直ちに中断されなければならない」との談話を出していた。

 ▲問題点

 昨年8月にも同様のトラブルが起きた地点は両国間のEEZが重なる「中間海域」にあたる。

 国連海洋法協定発効(1994年)と共に世界的に「沿岸200カイリ」範囲以内の排他的経済水域概念が適用され、日本は1996年に200カイリの排他的経済水域を宣言したが、韓国との海域距離は400カイリ(200+200)に足りず、重なっていたことから日韓漁業区域の調整が不可避となった。

 日韓両国は延べ15回交渉を重ねた結果、1998年11月に「漁業に関する協定」(第2次日韓漁業協定)を締結したが、漁業については境界線が画定されたもののEEZについては領土問題(竹島=韓国名:独島)があって合意に至らなかった。その結果、両国が主張するEEZが重なる「中間地帯」が存在することとなった。当時、韓国が竹島を韓国の排他的経済水域の基点とせず、緩衝地帯の中間点に位置づけ、漁業協定を締結したため時の金大中政権は野党から「屈辱外交」との批判を浴びていた。

 今回、韓国は「海域は韓国と日本のEEZが重なる区域なので測量は韓国政府の同意が必要だ」と主張しているが、加藤勝信官房長官は12日の記者会見で「調査は日本の排他的経済水域(EEZ)で行われているので中止要求は受け入れられない」として突っぱねている。

 日本は測量を2月まで続ける予定であり、韓国もまた3000トン級の海洋警察庁の船舶が測量船と3カイリ(約5キロメートル)の距離を維持しながら活動を注視するとしているが、今後、韓国が強硬な対応に出れば「一触即発の事態」が生じるかもしれない。

 そこで憂慮されるのは、竹島周辺海域での海洋調査を巡って韓国海洋警察隊と日本の海上保安庁が睨みあった2006年の再現である。

 この年、日本は6月14日から6月30日まで日本海のEEZ内で海上保安庁の測量船による海底地質調査を行うことを計画。すでに、2か月前の4月には海上保安庁の巡視船1隻が竹島と鬱陵島と間に入った。これに当時の盧武鉉大統領が反発し、「日本の探索船が独島に来れば、体当たりして、押し返せ」と強硬な対応を示唆していた。

 海域が韓国のEEZと重なっていたことから、韓国外交部は「同意を得ない調査は国際法違反」として大島正太郎駐韓大使(当時)を呼び、調査の撤回を要求。同省の柳明桓次官(後に駐日大使に就任)は大島大使に「調査を実施するなら必要な措置を取る」と警告した。これに対し大島大使は調査は「日本のEEZ内として国際法上の正当な権利である」と指摘し、「日本の調査船に韓国側が何らかの措置を行うことは受け入れられない」と述べ、韓国の中止要請を拒否した。

 日本は安倍晋三官房長官(当時)が記者会見を開き、「日本のEEZ内で調査を行うことは国際法の観点も含めて問題ない」と応酬し、韓国もまた後に国連事務総長となった潘基文外相(当時)を中心に関係閣僚会議を開き、日本が調査を強行した場合の竹島周辺の警戒強化策を話し合ったが、その際、警備艇によるだ捕などの強硬策も辞さないとの声も上がった。

 強硬策をちらつかせる韓国に対して日本は「日韓で排他的経済水域(EEZ)の主張が重複している地域では日本は30年間調査をしていないが、韓国は過去4年間毎年、我が国の抗議にもかかわらず調査を行っている」(谷内正太郎外務次官=当時)と反論し、韓国による日本の調査船拿捕の動きについて「政府の調査船に対し、物理的な行動に出ることは国連海洋法条約で認められていない」と牽制してみせた。

 竹島周辺での日本の測量船による調査は6月の海底地形の名称に関する国際会議で韓国が海底地形の名称を韓国名にする動きを牽制するのが狙いであった。結局、この日韓の「綱引き」は韓国が折れ、国際会議での名称変更届を断念したことから日本も測量船による調査を取り止め、大事に至らかなった。

 仮に日本が竹島海域に海洋調査船を入れ、それを警護、護衛する目的で海上保安庁の警備艇が入り、それを阻止するため韓国の警備艇が入ってくれば、衝突は避けられなかった。後に安倍前総理は当時の状況について「銃撃戦が起きる寸前だった」と回顧していた。

 日韓にはこれとは逆のパターンもある。

 韓国の海洋調査船が2018年11月24−26日にかけて竹島周辺(日本の排他的経済水域)を航行したところ、日本の巡視船が「日本の領海に入っている」として、外に出るよう注意を喚起。日本は「日本の同意のない調査活動は認められない」(野上浩太郎官房副長官=当時)として外交ルートで韓国側に抗議。これに対して韓国は「独島は歴史的、地理的、国際法的に、明確に韓国固有の領土である」と主張し、日本の不当な主張に断固として対応する」と一蹴した。

 また、2019年にも韓国が竹島周辺で「ドローン」で海洋調査したことを韓国の「国立海洋調査院」が3月25日に公表したところ、現総理の菅義人官房長官は「竹島の領有権に関する我が国の立場に照らし、到底受け入れられない」として外交ルートを通じて、韓国に強く抗議し、本件の中止を求めた。韓国は2018年から2億円をかけて「海上ドローン」と呼ばれる、無人観測装置を使った海洋調査を計画していた。