2021年1月6日(水)

 閉幕を待たずに判明した北朝鮮労働党第8回大会の「結果」

開幕した朝鮮労働党第8回大会で演説する金正恩委員長(労働新聞から)


 北朝鮮の第8回労働党大会が4年8か月ぶりに開催され、金正恩委員長は党中央委員会の事業決算報告の中で「国家経済発展5カ年の戦略遂行が昨年終わったが、掲げた目標をほぼすべての部門で大きく下回った」と経済不振から脱皮できなかったことを率直に認めた。

 前回(2016年5月)大会で国民生活向上のために打ち出した「国家経済発展5か年戦略」は金正恩政権下の初の経済計画ということもあって金委員長は毎年、新年辞で経済発展の重要性を強調し、「人民経済のすべての分野で国家経済発展5か年戦略目標遂行に拍車を掛けなければならない」と力説していた。目標遂行のため2017年には「万里馬速度」なるスローガンが登場し、2018年にも「増産突撃運動」なるキャンペーンが展開されていた。

 しかし、金委員長は昨年8月に開催された第7期第6次党中央委員会全員会議で「国家経済の成長目標が甚だしく未達成となった」と総括し、党創建75周年の10月10日まで経済目標を達成するよう担当幹部らにはっぱを掛けていた。しかし、それも間に合わないことがわかると、目標達成期限を12月30日まで延長し、10月12日から80日間戦闘を展開していた。

 結局のところ、労働党75周年記念事業である▲年間120万人の観光客を収容する元山と葛麻海岸観光リゾート開発プロジェクト▲三池淵郡文化都市開発プロジェクト▲13万4000キロワットの発電能力の漁郎川水力発電所建設▲金委員長肝いりの平壌総合病院建設の「4大国家プロジェクト」は達成できないまま、今大会を迎えたことになる。

 また、経済責任を取らされたのかは不明だが、党の幹部らがすでに降格されていることもわかった。

 労働党の最高幹部は金委員長を筆頭に5人の政治局常務委員と10人の政治局員、そして18人政治局候補委員で構成されているが、今朝発表された大会執行部のリストをみると、金能五、全光虎、李虎林、李希用、趙春竜、李先建の6人の政治局候補委員が除外されていた。この6人は昨年10月10日の党創建75周年の慶祝行事にも姿を現さず、年末(12月29日)に開かれた党第7期第22次政治局会議も欠席していた。

 金能五氏は2016年5月の党第7回大会で政治局候補委員に選出され、2018年8月に軍総政治局長に転出した金守吉氏の後任として平壌市党委員長に就任し、昨年3月にその座を金英煥・両江道党委員長に明け渡し、最高人民会議常任委員に召喚されていた。

 全光虎氏は咸鏡南道委員長から2019年4月に内閣副総理に起用され、昨年8月に党政治局候補委員及び党部長に抜擢されていた。

 所管は不明だが、党部長の要職にある李虎林氏は2019年12月31日に党中央委員全員会議で政治局候補委員に選出されたばかりだった。今年1月の元女性パルチザン(黄順姫)の国葬の時には政治局員候補のメンバーとして名を連ねていた。

 咸鏡北道党委員長の李希用氏は李虎林氏よりも8か月早い2019年4月に政治局候補委員に選出され、李虎林同様に元女性パルチザンの葬儀委員に名を連ねていた。

 経済とは無縁の趙春竜、李先建の両氏も政治局候補委員から降格したようだ。

 ミサイル担当総局長である趙春竜氏は2014年3月に国防委員に任命され、5年後の2019年4月に李希用氏と共に政治局候補委員に抜擢されていた。

 李先建氏も昨年1月に李容浩氏の後任として外相に就任したのを機に3か月後の4月に政治局候補委員に抜擢されたばかりだ。政治局員候補から外されても李氏は外相の名で1月4日にミャンマーの独立記念日に祝電を送っていることから外相の地位はそのままの維持しているようだ。

今大会の人事の最大の注目ポイントは金委員長の実妹である金与正氏の処遇である。

 金与正氏は党幹部ではあるが、政治局常務委員でも政治局員でもなく、政治局候補委員である。党序列では金正恩党委員長から数えて18位前後にランクされている。

 一昨年からトランプ大統領に対して、あるいは文在寅大統領に対して与正氏の名前で談話を発表していることから金委員長の「名代」あるいは「代行」のような役割を担っている。従って「名代」に、実質「No.2」に相応しい肩書(政治局常務委員もしくは政治局員)、あるいは部長に昇格するかが、金委員長の後継問題絡みで注目の的となっているが、ひな壇の序列をみると、現状のままの可能性も考えられる

 なお、党大会には党中央指導機関から250人、各組織で選出された代表4750人、傍聴者2000人が参加していたが、誰ひとりマスクを着用してなかった。