2021年1月7日(木)

 明日(8日)「慰安婦裁判」判決! 被告は企業ではなく、日本政府!

ベルリンに設置され、日韓の火種となった「慰安婦像」(在独「コリア協議会」が撮影)


 日本企業に元徴用工への賠償を命じた韓国の大法院(最高裁)判決が日韓関係悪化の主たる原因となっているが、元徴用工問題がまだ片付かないうちに今度は日本政府を相手にした元慰安婦の裁判問題が日韓の新たな懸案として急浮上している。

 戦時中に日本軍の慰安婦にされ、肉体的、精神的苦痛を強いられたと主張する韓国人女性被害者の遺族らが日本国(政府)を相手にした損害賠償訴訟の1審判決が明日(8日)ソウル中央地裁で下される。明日の判決に続き、13日も同様の判決がもう1件予定されている。

 日本政府に対する元慰安婦らによる訴訟は日本では1991年に元慰安婦を含めた韓国太平洋戦争犠牲者遺族会が起こしているが、2004年に最高裁が原告側の上告を棄却したことで原告側の敗訴に終わっている。日本の最高裁は一部の原告については損害賠償請求権の存在は認めたものの1965年の日韓基本条約に伴う措置法及び除斥期間の経過により権利は消滅したと判断し、日本国への賠償義務を認めなかった。

 しかし、韓国では2011年8月に憲法裁判所が「韓国政府が元慰安婦の賠償請求に関する日韓間の協定解釈の相違をめぐる争いを解決しないことは憲法違反」とする判決を下したため2013年に原告らは日本政府を相手に慰謝料1億ウォンを請求する調停申請を行った。日本政府が訴状の受取りを拒否したため原告らは2015年から正式な裁判による損害賠償請求に踏み切っていた。昨年4月には第1回口頭弁論がソウル中央地裁で開かれていた。

 日本は国際民事訴訟では被告が国の場合、外国の裁判権から免除されるとする「主権免除」の原則を盾に「訴訟は却下されるべきである」と主張し、訴訟には応じなかった。従って、裁判では国際法上の「主権免除」を認められるかどうかが最大の焦点となる。

 仮に認められず、日本の敗訴となれば、日本の反発は元徴用工の問題で2018年10月に民間企業に支払いを命じた大法院判決に対する反発の比ではない。日韓関係は破局を迎えるだろう。

 韓国の裁判所が主権免除の法理を受け入れれば、原告人らの訴えは棄却されるが、原告側の弁護人は「重大な人権侵害が認められた場合は、主権免除が認められない可能性は大いにある」と強気である。その根拠としているのが、以下二つのケースのようだ。

 一つは、北朝鮮当局に拘束され、2017年6月に昏睡状態で帰国し、その後死亡した米国人大学生、ワームビアさんの両親が2018年4月に北朝鮮を提訴したケースである。

 ワシントン連邦地方裁判所は両親が負った被害について北朝鮮は責任を負うべきとして、5億100万ドルの支払いを命じる判決を言い渡し、北朝鮮の海外にある資産を差し押さえる措置を取った。

 もう一つは、朝鮮戦争で北朝鮮軍の捕虜となった元韓国軍人2人が昨年7月に韓国国内で北朝鮮を相手に起こした損害賠償請求訴訟である。

 ソウル中央地裁は原告の訴えを認め、北朝鮮と最高指導者の金正恩氏に対して原告1人あたり2100万ウォンの支払いを命じる判決を出していた。

 しかし、北朝鮮と修交していない米国は北朝鮮を国家として承認していない。国家として承認していない以上、北朝鮮の主権は尊重されない。また韓国も憲法では北朝鮮を国家として承認しておらず「反国家団体」扱いにしているため北朝鮮の主権は認められない。従って、この二つのケースをそのまま当てはめるのは無理があるように思われる。

 どちらにせよ、仮に裁判所が主権免除を認めず、原告の訴えを認めた場合、日本政府は控訴せずに「元徴用工裁判判決」同様に「国際法違反」の観点から韓国政府を外交的に圧迫するだけでなく、経済的制裁を科すであろう。控訴すれば、これまで無視してきた訴訟に参加する格好となるからだ。

 一方の韓国政府もまた、これまでと同様に司法の判断には介入しないとの立場を貫くことが予想されることから日韓関係は奈落の底に落ちることになるだろう。