2021年6月28日(月)

 「文大統領は投獄されるのを恐れている」 済州道知事が大規模検察人事を「退任後に備えた人事」と揶揄!

文在寅大統領と金オス・新検察総長(右)(青瓦台HPから)


 文在寅政権は先週金曜日(25日)に改革の対象となっている検察の人事を断行し、「目の上のたん瘤」だった尹錫悦(ユン・ソッキョル)前検察総長系の検事らを一掃したようだ。ところが、この人事を巡って次期大統領選挙に保守野党「国民の力」からの出馬を表明している元喜龍(ウォン・ヒリョン)済州道知事(57歳)が「文在寅大統領は投獄されるのを恐れているのでは」と批評していた。

 元喜龍知事は2000年に36歳で野党「ハンナラ党」(「国民の力」の前身)から出馬し、初当選。国会議員を3期務めた後に朴槿恵(パク・クネ)政権下の2014年に出身地の済州道の知事選に出て、「新政治民主連合」(現与党「共に民主党」の前身)の候補にダブルスコアに近い差を付けて当選。現在2期目だが、李明博(イ・ミョンバク)政権の2010年には「ハンナラ党」の事務総長、2011年には最高委員にもなった実力者の一人である。

 元喜龍知事が「文大統領の退任後に備えた人事」と揶揄している 今回の検察人事では高検検事級検事の90%に当たる652人の異動があった。「検察史上最大規模」と称されている人事異動に伴い自動的に政権絡みのスキャンダルを担当していた捜査チームの責任者は全員交代となった 。多くは捜査と関係のないポストや閑職に配属、または地方に左遷されたが、その一方で政権派に分類されている検事らは主要ポストに抜擢されていた。

 例えば、それぞれ昇進したものの青瓦台(大統領府)の「企画司正疑惑」を捜査していたソウル中央地検のピョン・ピルゴン刑事1部長は昌原(地検人権保護官)に、建設業者から性的な接待を受け、賄賂を受け取ったとして起訴された金学義(キム・ハッギ)元法務次官の不法出国禁止事件を担当していた水原地検のイ・ジョンソプ刑事3部長はも担当から外され、大邱(地検刑事2部長)に飛ばされた。

 また、ソウル中央地検2次長当時、青瓦台の選挙介入疑獄を究明していたシン・ボンス平沢地検長はソウル高検検事に、ソウル中央地検3次長として曹国(チョ・グック)元法相の家族疑惑を指揮していたソン・ギョンホ驪州地検長は水原に高検検事として異動し、捜査の一線から外れた。

 さらに、尹前検察総長を補佐していた側近の一人、ヤン・ソッチョ大田高検検事は大田高検人権保護官に左遷され、尹前検察総長と対立していた政権派の李盛烈(イ・ソンヨル)ソウル中央地検長(当時)に反旗を翻したソウル中央地検のパク・セヒョン広報官は釜山(東部地検長)に追いやられた。

 逆に、「尹錫悦師団」と対峙していた法相系列の検事はいずれも主要ポストに起用されていた。例えば朴範界(パク・ポンゲ)法相のスポークスマンであった法務部のパク・チョル報道官はソウル中央地検2次長に、チン・ジェソン瑞山地検長はソウル中央地検3次長に、法務部のキム・テフン検察課長はソウル中央地検4次長に昇進した。

 また、尹前検察総長の家族に関連する捜査を担当してきたソウル中央地検汚職防止捜査2部長のチョン・ヨンファンは同1部長に移動し、尹前検察総長に手抜き捜査疑惑が掛けられているオプティマスファンド詐欺事件を捜査しているチュ・ミンチョル経済犯罪刑事部長は法務部の検察課長に栄転した。さらに、尹前検察総長の権力乱用を調査していた紅一点のイム・ウンジョン大検察庁監察研究官も法務部監察担当官に任命された。

 曹国―秋美愛―朴範界と3代続いた法相と「尹錫悦師団」との対立は尹総長が3月に辞任し、後任の検察総長にキム・オス法務次官を任命したことで収拾し、文政権は検察の「脱尹錫悦化」に成功したようだ。

 「生きた権力である」政権を標的とした主要権力事件の捜査を指揮していた捜査チーム長が全員交代させられた検察人事を槍玉に挙げた元喜龍済州道知事は元検事である。

 元知事は検事出身ということもあって自身のフェイスブックに「政権関連の捜査を担当していた部長検事らを全員交代させた検察の人事をみて、文大統領の偽善に激怒している。政権が終わりに近づいてきているので怖くなったようだ。投獄されるのを恐れているようだ」と書いていた。また、「政権関連の捜査をそれほど恐れていたならばなぜ政権初期に検察官の強引な特別捜査を止めなかったのか。生きている権力を捜査しろと尹錫悦総長に刃を渡したのはその刃が前の政権だけに向けられ、現政権は守れと言う意味だったのか」と皮肉ってもいた。

 元知事は「犯した罪を隠すことはできるかもしれないが、それをなかったことにはできない。次の大統領に誰がなっても次の政権で赤裸々に暴かれることになるだろう」と、誰が大統領になっても文大統領は罪を暴かれ、収監されると断じていたが、野党陣営では仮に与党の李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事が大統領になっても文大統領の退任後は安泰ではないとみているようだ。

 先週木曜日(24日)に「国民の力」に復党した洪準杓(ホン・ジュンピョ)議員も「李在明知事が大統領になれば文大統領は1年内に投獄される可能性がある」と主張している一人である。

 朴槿恵前政権下で与党代表だった洪議員は5月14日、選挙区の大邱の事務室で開かれた記者懇談会で「身の安全を守りたい文大統領の立場では李知事は最も危険な候補である」と語っていた。

 その根拠については説明しなかったが、韓国の歴代大統領は政権が交代すれば、退任後に前任者によって裁かれるのが伝統、慣習となっていることや仮に与党から与党に政権が引き継がれたとしても、過去に同じことが起きた前例があることからの発言となったようだ。

 因みに、軍人出身の第12代大統領の全斗煥(チョン・ドファン)は後継者に指名した「同期の桜」の第13代大統領の盧泰愚(ノ・テウ)によって山寺に追いやられ、盧泰愚大統領もまた政権を引き継がせた第14代大統領の金泳三(キム・ヨンサム)によって全斗煥氏ともども不正蓄財で獄中に入れられている。さらに、金泳三大統領もかつて「民主化の同志」だった第15代大統領の金大中(キム・デジュン)によって次男が収賄容疑で2年の懲役刑に処されている。

(参考資料:来年の大統領選挙で与党の李在明・京畿道知事が当選したとしても文大統領の監獄行きは避けられない!?)