2021年6月5日(土)

 間もなく招集される労働党中央委員会総会で北朝鮮は対米、対韓メッセージを出すか?

4日に開かれた政治局会議に現れた金正恩総書記(労働新聞から)


 金正恩総書記が約1か月ぶり姿を現した。公の場に現れたのは先月7日に軍人家族の芸術公演を鑑賞して以来である。

(参考資料:北朝鮮に「数日から数週間内」にミサイル発射の動き!)

 金総書記は昨日(4日)、首都・平壌の労働党本部庁舎で党中央委員会第8期第1次政治局会議を招集し、いつものように自ら会議を主宰した。

 政治局会議が開かれたことで先月21日にワシントンで開かれた米韓首脳会談との関連での発言が注目されたが、対米メッセージも、対韓メッセージも発信されることはなかった。今月上旬に党中央委員会第8期第3次全員会議(総会)を開くことを決定しただけである。

 全員会議招集の理由については「党と国家の政策執行の実態の中間総括と経済事業と人民生活の懸案を解決するための国家的対策を樹立するためである」と報道されている。こうしたことから全員会議は経済が中心議題ではあるが、全員会議がシンガポールでの史上初の米朝首脳会談3周年を前に開かれることもあって外交や対南関連で重要な決定を下す場になる可能性も考えられる。

 北朝鮮は今年1月の第8回労働党大会で新たな国家経済発展5カ年戦略を打ち出し、1年ごとに平壌に1万世帯の住宅を建設し、5年内に5万世帯の住宅建設を目玉に経済計画を採択したが、半年経ったことから上半期の総括をするようだ。但し、今回の政治局会議で「全員会議で提起される案件についても論議した」とされているので全員会議では「党と国家の政策執行の実態の中間総括」との関連で外交問題や南北問題で何らかの重大な発表があるかもしれない。

 兎にも角にも、党中央委員会全員会議は極めて重要な会議で2018年4月21日に開かれた第7期第3次全員会議では米朝首脳会談の開催(6月12日)に向けて核実験と大陸間弾道ミサイル試験発射の中止と核実験場の破棄が決定されている。金総書記は全員会議での演説で「我が国に対する核脅威と核挑発がない限り、核兵器をぜったいに使用せず、いかなる場合も、核兵器と核技術を移転させない」と宣言もしていた。

 また、2019年12月28から31日まで開催された第7期第5次全員会議ではこの年の2月にベトナム・ハノイで行われた2度目の米朝首脳会談が決裂したことから金総書記は「核兵器とICBM実験発射中断など我々が取っていた非核化措置をもはや継続する理由がなくなった」として「米国は直ぐに我々が保有する新たな戦略兵器を目撃することになるだろう」と核・ミサイル開発の再開を宣言していた。

 この時の全員会議での金総書記の報告が2020年の新年辞の代行となったが総書記は「我々にとって経済建設に有利な対外環境が切実で、必要なことは事実だが、決して華麗な変身のため今直ぐ、命のように守ってきた尊厳を売ることはできない。我が国家の安全と尊厳、そして未来の安全を何物にも変えないことを堅く決心した」と述べる一方で「我々の抑止力強化の幅と深度は米国の今後の対朝鮮立場によって状況を調整することになる」と米国との交渉の余地も僅かながら残していた。

(北朝鮮の矛先は日本! ヒートアップする対日非難! 米国に対しては沈黙!)

 その一方で、昨年からは党中央委員会全員会議は経済関連が中心で2020年8月19日に開かれた党中央委員会第7期第6次全員会議では新型コロナウイルス対策が、今年2月8日に開催された第8期第2次全員会議では国家経済発展5カ年戦略が中心議題となっていた。

 金総書記は今年2月の全員会議では「内閣が作成した今年の人民経済計画が以前のものと別に変わらない。党大会で決定し、党大会の文献に対する集中学習と方向討議を行ったにもかかわらず、提起された今年の経済活動計画に党大会の思想と方針が正確に反映されず、革新的な眼識と明白な策略が見えない」と不満をぶちまけ、1月の党大会で就任したばかりの経済担当の書記でもある金頭日党経済部長を電撃解任してしまった。

(経済不振に「喝,喝、また喝!」の「金正恩語録」)

 なお、今月上旬に開催予定の全員会議では党中央委員会部署機構の改編問題も議題に上がっていることから人事もあるものとみられる。

 今年1月の労働党第8回大会で改正された党規約によると、党中央委員会全員会議の役割は「該当時期前に提起された重要な問題を討議決定し、党中央委員会政治局と政治局常務委員会を選挙し、党中央委員会第1書記、書記らを選挙し、書記局を組織し、党中央軍事委員会を組織し、党中央検査委員会を選挙する」及び「党中央委員会に部署(非常設機構も含む)を設置し、必要な場合、党規約を修正、執行し、党大会で提起し、承認を受ける」と定められている。